第5話


 無言で歩き続けるというのは意外に暇である。

 そこで俺は一計を案じた。


「それでは御唱和ください。とある日~♪」

「とある日?」

「イントネーション大事だから。意識して聞いて」

「は、はい!」


 俺は再度歩き始め、歌を口ずさむ。


「とある日~♪」

「と、とある日~」

「森のッ中ッ~♪」

「森の中~」


 アリスの声に誘われるように俺たちの進行方向の横からガサッと音が鳴る。

 足を止めて二人で音の方を振り返ると


「ッガァァァァ!!!」

「熊さんに~、出会った~……」

「そそそ、そんなのんびりしている場合じゃないですよ!【マーダーグリズリー】です!」


 殺人クマとは危険な響きだな。

 そんな事を考えている間にクマは振り上げた爪をアリスに向かって振り下ろす。


「オイコラ待てやクマ!《下級魔力盾(スモールシールド)》」


 クマの爪に対して角度をつけて盾を展開。

 そのまま爪は盾の表面を滑り、アリスを傷つけることなく地面へと落ちた。


「往生せいやぁ~!」


 刀を抜き、クマの腕に向かって斬りかかる。

 しかし、毛深い腕に阻まれ、肉へは到達しなかった。


「チッ……」

「グルゥァァァ!」


 クマが腕を払い、俺は少し離れた位置に着地。

 そして、クマの視線がこっちへと移った。

 標的が変わったのなら好都合。

 《身体強化(パワード)》、《切断力強化(シャープネス)》を発動し、クマの突撃に合わせて刀を振るう。


 交差する人間とクマ。

 重量差は三倍ほど違うだろう。もちろんクマの方が重い。


「え?」


 そして、後ろからアリスの驚く声が聞こえてくる。

 なぜならクマは叫び声をあげることも許されず、水平に両断されていたからだ。


「フフンッ、クマに負けるほど俺は弱くないやい!」

「えっと……、そういう次元では無いような」

「ま!魔力で防御してないから当たり前か」


 野生動物に負けるようじゃ話にならんよな。

 切り裂いたクマを見てみると、内臓が切り裂かれ、中身がグロテスクに飛び出している。


「ふむ……」

「その……このマーダーグリズリーはどうするんですか?」

「食べたい?」

「食べたくは……。いえ、好き嫌いはいけないですよね。森の中で食料が豊富にあるとは言っても運良くお肉と出会えるかはわかりませんし」


 アリスは完全に割り切ってるな。

 もう既に動物=お肉と言ってる。


「じゃあ、ちょっと早いけど解体して美味しく頂きますか」

「解体できるんですか?」


 アリスの期待に満ちた瞳に俺はフッと天を仰ぐ。


「ちなみにアリスは解体できる?」

「私はそういうのは全然やったことないです」

「やり方もわかんないド素人だけど頑張る」

「え、えっと……。私もお手伝いします!」


 二人で四苦八苦しながら解体し、今日はこの場でキャンプをすることとなった。

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