第6話


「あの……」

「ん?なに?」

「先ほどの報酬の件ですが」

「あぁ、今聞いた話の分で十分」

「はい?」


 なんかすごく驚いてる。


「いや、さっきのやり取りは単純にからかってただけ」

「はぁぁぁ!?」


 アハハ。怒った怒った(笑)。

 怒った顔も絵になるなぁ。


「わ、私がどれほどの覚悟を決めていたと!?」

「いや、さすがにそういう事してる場合じゃないだろ」


 そう言いながら、俺は左を指さす。

 怒りでまだ方が上下する美少女は俺の指の先に積み上がった魔族の死体の山を見て、目を丸くした。


「アンタ追われてんだろ?そこに転がってるミノタウロス以外もいろんなの来てたし」

「え、あ……えぇ?」


 自分が見ている光景が信じられないのか、俺と死体の山を交互に見つつ、困惑の声を上げている。


「そ、そこの山になっている魔族の兵士をすべて倒したと?」

「あぁ」

「貴方一人で?」

「おぅ」


 “言葉にならない”とか“声も出ない”ってのはこういうことを言うんだろう。

 水槽の中のメダカのように彼女は口をパクパクさせていた。


「ミノタウロスの死骸も複数見受けられるのですが」

「あぁ、なんか一番多かったな。でも五体ほど切り刻んだら、怯えた感じで逃げていったっけ」

「ミノタウロスが……怯える?」


 信じられない言葉なのか、噛み占めるように呟く。

 っつーか、そこに転がってるのって図体デカいだけか、無策に突っ込んできたアホだけなんだが……。


「まぁ、そういう事だから。金がない奴から金を搾り取る趣味はない。んで、俺はガキに欲情するほど節操無しでもない」

「うぅ……。これでも人間で言えば、だいぶ年上なんですよ?あと、今はこのような姿ですが、本来の姿はもっと大人なんです」

「本来の姿を見てからじゃないと判断できないな」

「うぅ……」


 美少女は唸るだけで反論してこない。


「謝礼は払える時にアンタの好きな額を払ってくれればいいよ」

「そ、それで本当に良いんですか?私が逃げるとかそういうのは」

「アンタみたいなイイ女が恩を仇で返すなんて事しないだろ」


 美少女は目を丸くする。

 ん?そういえば……。


「あぁ、そういえばすっかり忘れてたけど」

「はい?」

「アンタ、名前は?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る