陰雪 β
春嵐
第1話
何も、不思議なことはなかった。
普通の街並み。普通の人通り。この中に、彼女はいない。
死にかけながら、生きてきた。昔は身体が弱くて、そして今は、仕事で。普通に腹に弾が当たったりもする。上半身が焼けたりも。そういう危険な仕事。正義の味方といわれているが、実際のところ、単純に死地に飛び込んでいくだけ。
死にかける。意識がさまよう。
何も不思議なことがない自分の生き方のなかで、彼女の存在だけが、唯一の、特別。彼女に逢うために、今日も危険のなかを歩いていく。
彼女には、このことは言っていない。というより、言っても信じてもらえないだろうという
ただ、事実だった。
死にかければ、同じ街、同じ景色で、彼女のいる場所に。行くことができる。
いつか、こうやって、死ぬだろうなという感覚はある。どこにも行けず。彼女にも逢えず。死ぬ。そして、死んだ先には、彼女はいないし街も存在しない。
雪が降ってきた。
死にかけの自分に、ゆっくりと落ちてくる。まだ水っぽくて、やわらかい。
死ぬのか。
それとも。
彼女のところへ。
どっちだろうか。
わからない。
路地裏で倒れながら、そのときを待っている。
雪。
死にかけたときだけ、彼女のことを思い出す。そして、彼女のところへ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます