第3話 やっぱり逃げられないようです

幸い次の日は週末だったので、とりあえず家でゆっくり過ごした。



そして月曜日、興味津々のマリとサラに昨日のことを話す。

案の定、大爆笑だ。



「それより何で昨日助けてくれなかったの?目で訴えたでしょ」



私は2人に抗議の声を上げる。



「あんなの助けられる訳ないじゃない」



「そうよ、無理無理」



なんて薄情な2人なんだ。



「おっ、噂をすれば片岡君よ」



げっ、昨日あんなに酷いことを言ったのに、また来たの?



「渚、足はもう大丈夫かい?」



そう言うとギュッと抱きしめられた。だから、みんなに誤解されるから止めて~



「おっといけない、今日は君たち3人に合わせたい奴らがいるんだった。一緒に来てくれるかな?」



合わせたい奴ら?誰だろう?私たち3人は隆太君についていく。



その先には、昨日私を突き落とした山岡さんと取り巻き達が。めちゃくちゃ怯えた顔をしている。




「渚に嫌がらせをしていたのはこいつらだよ。ごめんね渚、こんな奴らの顔は見たくないだろうけれど、一応謝りたいって言うから聞いてやって」



そう言うと今まで見たことないほど冷たい目で、彼女達を睨んだ隆太君。

ビクッと震える彼女たち。



「足立さん、今回の件本当にすみませんでした。謝って済む問題ではありませんが、どうか許してください」



そう言うと彼女達は、地面に頭を擦り付けて謝っている。いわゆる土下座ってやつだ。


さすがにここまでしてもらうと、逆に申し訳ない。



「私は大丈夫だから、頭を上げて。もうわかったから」



私がそう言ってもなぜか頭を上げない彼女達。



「渚が顔上げていいって言ってるんだけど!もう目障りだから消えろ!」



片岡君がそう言うと、小さな声で「すみませんでした」と言って走って行ってしまった。



マリもサラも完全に固まっている。



「渚、これで君をイジメる奴らはいなくなったよ!でもまたいつ同じような輩が出てくるかわからないから、俺がしっかり守ってあげるね」




嫌…


私はあんたが一番怖い…


誰かこの人から私を守って!




ちなみに、私をイジメていた山岡さんと取り巻き達は、次の日から学校に来なくなった。



隆太君、あの子たちに何をしたの…


恐ろしくて聞けない…



そしてあの謝罪事件から、学校では常に隆太君が私の側から離れなくなった。

休憩時間やお昼も常にいる。

でも友達との時間を邪魔したら悪いと思っている様で、遠くからずっと見ているのだ。



そう、ずっと…

そして隆太君の行動はさらにエスカレートして行く。



今日はバイトの日。

私のバイト先はファーストフード店だ。



今日は、バイト先で仲良くなった幸奈(ゆきな)と一緒。



そんな幸奈が急に話しかけてきた。



「ねえ~さっきからずっとイケメンが外にいるんだけれど、誰か待っているのかな?」



えっ、イケメン?


私は幸奈の視線の先に目をやると…


何で!何で隆太君がいるのよ~


きっとたまたまよね、うん。たまたまよ!私と目が合うと手を振ってくる隆太君!



「なに?渚の知り合い!もしかして彼氏?」



興奮気味に聞いて来る幸奈。とりあえず今はバイト中だから、終わったら詳しく話すことになった。



バイトも終わり、幸奈と二人で外に出ると、隆太君が駆け寄ってきた。



「渚バイト終わったの?家まで送るよ」



ぎゃ~~~!何なのこの人一体!



「何?やっぱり渚の彼氏だったの?今日は私帰るね。」



そう言うと、幸奈は生暖かい目をして帰って行った。



違う!幸奈待って!誤解だから~


そう言いたかったのに、言えなかった。



「じゃあ行こうか」



そう言うと、手を掴まれた。ちょっと勝手に手を掴まないで。そう思って振り払おうとしたが離れない。何なのよこの人は!



「なんでバイト先知っているの?」



私は恐る恐る聞く



「渚の事は何でも知っているよ。」



にっこり笑う隆太君。


背筋がゾワゾワとした。


この人怖い!怖すぎる!



その後ももちろん、お店の前の待ち伏せは続いた。お店の中に入ってくる訳でもなく、ただ外からずっと見ているのだ。


そう…ずっと…



そんな隆太君に対し幸奈はと言うと


「最初はイケメンに目を付けられていいなって思ったけれど、ここまでくると恐怖でしかないね」


なんて苦笑いしている。



バイト先だけではない。



休日も私が出かけると、必ず付いて来る。でも友達と一緒の時は、絶対に話しかけてこない。常に一定の距離を保ちながら、ずっと付いて来るのだ。




最初は面白がっていたマリやサラだったが、さすがにここまでくると気持ち悪いと言い出した。



そして、私に少しでも男が近づこうものなら、鬼の形相で走ってきて追い払う。

もう番犬だ!



ちなみに1人の時はなぜか当たり前のように隣に並び、私の買い物に付き合っている。



この人は一体何がしたいんだろう。



最近では私の子供の頃の写真や、私が使ったものなどをコレクションしているという情報まで入ってきた。どうやらマリやサラが隆太君に売りつけているらしい。



あいつら!友達を売るなんて…



まあ、買う方も買う方だけれどね…


完全にストーカー化した、隆太君。



マリやサラからは、「もう付き合っちゃいなよ。その方があんたも楽じゃない?」なんて言っている。



でも、でも、無理なものは無理!


とにかく私は隆太君のこと、恐怖でしかない。



あの人と付き合ったら、私は一体どうなるんだろう。考えただけで恐ろしい。



それに段々付きまとわれるのも慣れてきたわ。無料のボディーガードと思えばどうってことない。



そもそも私は彼氏を作るつもりもないから、とりあえずこのままそっとしておこう。



そう思っていたのだが…




「渚、何か今から体育館で面白いことやるみたいだよ!行ってみよう!」



マリとサラが誘ってきた。


面白いこと?何だろう?


せっかくなので行ってみるか。



2人に連れられて体育館へと向かう。



そこには、すでにたくさんの人が集まっていた。1年生だけでなく上級生もたくさん来ていた。



一体何が始まるんだろう?



そう思っていると、体育館の舞台に見覚えのある男の子が出てきた。



ん?あれって…隆太君?



「今日は俺の為にたくさんの人に集まっていただき感謝します」


そう言うと、隆太君は不可深く頭を下げた。



「今から俺は一世一代の告白をします。どうか応援してください。」



「いいぞ、片岡~」



なんて声が飛び交っている。


これってまずいやつだよね。


私はソーッと体育館を出ようと後ろを向いたその時


「1年の足立渚さん、俺は君のことを心から愛しています!どうかずっと俺と一緒にいてください。お願いします」


隆太君が大きな声で私に告白する。



逃げ遅れた私は、体育館中から視線を集めた。



「おい、まさか断らないよな~」


「ここまでされて断ったら、もう学校来られないんじゃねぇ?」



そう野次を飛ばすのは、隆太君の友達だ。


くそ、私を追い込んでOKを出させる作戦だな。



「お前たち、止めろ。そんなこと言ったら、渚が返事しにくいだろ!」



そう言うと隆太君は私の前までやってきて、改めて「俺と付き合ってください」と言い、手を差し出してきた。



周りからは無言の圧力をかけられる。


そう…

お前断る訳ないよなっという、無言の圧力…


私はこの圧力に…

屈してしまった…



「よろしくお願いします」



そう言って隆太君の手を取る。



周りから大歓声が沸き起こる。

あ~、やっちゃった~!



私のOKの言葉を聞いた隆太君に、おもいっきり抱きしめられた。

でも、まあいっか。


ここまで私のこと好きでいてくれるんだし、きっと大切にしてくれるよね。



そう思ったのだが…



「やっと捕まえたよ、俺の可愛い渚!もう絶対に逃がさないよ!絶対にね…」



隆太君は私にしか聞こえない声でそうささやくと、私の首にチョーカーを付けた。


これって…首輪?


やっぱり無理かも…


誰か私を助けて~~~!

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