第54話 嗚呼懐かしき少年時代、恐竜に憧れた時代

さて、何度かダンジョン内で迷子になりながらも、何事もなく外へと戻って来れた。

流石に少し疲れたので休憩することにする。

(魔力)がマジで少ないからね。

仕方ないね。

思っていたより時間がかかっていたようで、空を見た感じ午後のおやつタイムって感じの時間だ。


「枝豆と落花生でも食べるかな。葡萄ジュースは昨日飲みきっちゃったけど。」


のんびりと枝豆を摘まみながら、(今日はもう疲れたし、このままここで休んで明日から頑張ろうかな~)と思い始めたころ、エルフズが来た。

隊長さんとエルフちゃんだけでなく、盾持ち君も来たのだ。


「休憩か?」


「今日はもう休もうかと思っていたところです。」


軽く挨拶を交わす。


「もうダンジョンには入ったのか?」


「入りましたよ。軽い気持ちで入りましたけど、結構進むと手ごわいモンスターがいっぱいでしたね。」


「そうか……。まぁ、このダンジョンの奥にはビッグベアーの進化個体が出るらしいからな。ソロだときついかもしれないな。」


……うん、確かにそいつ相手だと慎重に戦ってたね。

今じゃワンパンではじけ飛ぶけど。

隊長さんはここに来たことあるのかな?

いや、『らしい』って言ってたし、ないのかもね。

さて、下の方の階はモンスターを殲滅したことがバレる前に退散しようかな。

ちょうど枝豆も食べ終わったし。


荷物をまとめていると、エルフ3人はダンジョンへと入っていった。

一応お世話になったのだ、冒険の無事を祈っておこう。




という訳で移動して、陽が沈む前になんとか次のダンジョンへとたどり着くことができた。

森の中に煙が上がっていたので問題なく見つけることができたが、他にもいくつかパーティーがいるようだ。

1人で来たからか随分ジロジロと見られている。

なんだてめぇやんのかぁ~。


「お前……、1人で来たのか?ランクは?」


おっさんが話しかけてきた。


「冒険者じゃないんで。」


冒険者じゃないからランクなんか無視だ無視。

邪魔するなら潰すぞおらぁ~。


「……そうか。まぁ、確かに冒険者ではないならダンジョンに入ろうと自由だが、ここにいるのは依頼を受けてモンスターの間引きに来た冒険者たちだ。邪魔になるようなことはするんじゃないぞ。」


そう言っておっさんは去って行った。

まぁ、言いたいことは理解できたし、言った内容もまっとうなものだ。

文句や言いがかりではなかったので、ひっそりと食事にその辺で拾ったキノコを混ぜるのは止めておいてやろう。

とりあえず適当な場所に陣取って夕食にする。

焚き火を熾し、持ってきたフライパンで買っておいたソーセージを焼く。


焼けたのでムシャムシャしていると、チンピラに絡まれた。

せっかくなのでフライパンで撃退してみよう。

まずは殴る。

スコーンッ!といい音が鳴ったが、凹んだりはしていないようだ。

素晴らしい。

せっかくなので頭の上に乗せてみる。

……うん。

髪の焦げる臭いって臭いね。

叩いても問題ないことが分かったので投げ捨てておいた。

実験の協力に感謝!


ソーセージをムシャり終わった所に、またさっきのおっさんが来た。

なんだろう?


「あの馬鹿がお前に絡んだのは理解しているが、もう少し穏便に対応すべきではないのか?熱したフライパンで攻撃するのは明らかにやり過ぎだ。」


……やっぱり食事にキノコを混入するか。


「そちらが邪魔をするなと言うのなら、こちらも邪魔をするなと言いたいんだけど?次はフライパンなんかで遊ばずにちゃんと対応するよ?」


「……もしかしてお前が『ニート』か?『ホエールポート』の街の冒険者ギルドを崩壊させた……。」


酷い言いがかりだ、全部の壁と柱を壊したら物理的に崩壊しただけなのに……しくしく。

そういえば街の冒険者でも私のこと知らない人結構いるのに、このおっさんよく名前を知ってたな。

情報通なのか?


「一応私の名前はニートですね。冒険者ギルドなら、ちゃんと規模を縮小して再開しているので、崩壊はしていませんよ?」


おっさんは何も言わずに去って行った。

ひっそりと見えているところに生えていたキノコを収穫し、目を離したタイミングで鍋に向かって投げておいた。

入ったかどうかは確認できなかったけど……。

寝るか!




……目が覚めた。

結構しっかりと眠れたが、朝日が昇るまでまだまだ時間がありそうだ。

とりあえず水を飲み、また食事の気分ではなかったので軽くストレッチをした後ダンジョンに入ることにした。


ダンジョン内は酷い暑さだった。

見渡す限り砂漠だ。

太陽はないが空も非常に晴天だ。

風も無いから砂嵐の心配もない。

暑さだけ再現した砂漠など片腹痛いわ!

……暑いの苦手なんだよなぁ。

まぁ、とりあえず歩く。

結構見晴らしがいいから階段があればすぐに見つかるだろう。

襲って来たモンスターはウサギだった。

ウサギはウサギなのだが、毛並みの色も模様も違う砂漠のウサギだった。


「ウサギは経験値が少ないし、階段を見つけたらさっさと下に行くか。」


15分ほどで階段を見つけ、下の階へ。

また砂漠が広がっていた。

今日は大変な1日になりそうだ。


地下2階。

この階もウサギがメインなのだが、たまに空から鳥が攻撃してきた。


「鳥の魔物もいるんだな。強くはないけど、近づいてこないと倒しにくいから厄介って感じだ。経験値も少ないし、先を急ごう。」


20分ほどで階段を見つけ、迷わず下りる。

階段を下りながら水を少し飲む。

下りた先にはまた砂漠。


地下3階はところどころに木が生えていた。

それ以外に変わったところはなく、モンスターを見ないまま次の階段を見つけた。


地下4階。

とても可愛らしいネコ科の生き物がいた。

あれなんて言うんだっけ?

可愛いから何でもいいけど。

近づくと普通に襲ってきた。

経験値は少なかったので次の階を目指す。

階段を見つけたのは1時間後だった……。


階段で食事や水を飲むなどしてしばらく休憩をしてから、地下5階へ。

この階も相変わらず砂漠なのだが、少し違った。

まず広くない。

足場も天井も砂漠なのだが、横に壁がある。

意味わかんないが次、敵がドーンと待っていた。

魔物化して、進化までした蛇だろうか?

ちょっとデカすぎて大きさが分からないや。

頭が1個の普通の蛇なのだが、ただただデカかった。

胴体の太さとか直径で1メートルは余裕で超えてるぞ。

もしかしたらこのダンジョンのボスかな?

経験値が欲しいので、とりあえず戦ってみることにした。


蛇の弱点とは何か。

一般的な人ならば、爬虫類なので温度の変化に弱いと答えるだろう。

だが脳筋は違う。

『首』だ。

頭と体を切り離せば蛇は死ぬ。

『一切蛇とか関係ないよね?蛇じゃなくても、それ……死ぬよね?』って感じの思考は脳筋には通じない。

やったことは単純。

足場の悪い砂漠で、ダッシュで近づいて、手刀ナイフを長くしただけの手刀ブレードで胴体を切った。

流石に一刀両断とはいかずに、胴体の7割強切れた結果、落ちてくる頭部。

切ったら当然、即消滅して魔石になった。

砕く。

経験値が10%増えた。


「デカいだけで思ったより弱かったな。経験値も少ないし。」


今宵も経験値に飢えておるわ。

朝だけど。


次の階に進む。


地下6階。

普通にまたボスっぽいやつがいた。

今度はあれだ。

少し形は違うけど、非常にデカくて凶暴そうなティラノサウルス?

毛も羽も生えていないので飛ぶことはなさそうだが、逆にそれが『いかにも恐竜っぽい見た目』で非常に大興奮だった。

ただし、戦うとなると普通に怖い。


「ヤバイなあれ。何というか爬虫類の皮被った筋肉の塊だろ。なんだよあの足。ふとももが半端なく太いんだけど。腕も普通に長くて太いし。羽のないドラゴンだよあんなの。」


恐竜と言ったりドラゴンと言ったり、文句を言うのが忙しい。

小さい頃に見ていた図鑑の恐竜とは少し違うが、そんなことは暇を持て余したときにでも考えればいい。

問題は倒せるかどうかだ。


「ここから本気の全力で走って足に攻撃してみるか。攻撃は何がいいかな?

出来ればバレずに先制取りたいし、殴るのが無難かな?いや、ドロップキックとかどうだ?……止めておこう。下手に当たって地面に倒れているときに、上からドラゴンが倒れてきたらヤバいし。」


いろいろと頭を悩ませた結果、とりあえず殴ることに決めた。

狙いは今こちら側にある左ひざの足首付近。

羽はないので足首を吹き飛ばすことができれば有利に討伐を進められるだろう。


最後に少し水を飲んで深呼吸をして、深く集中した。

そして突撃を開始した。

一歩ごとにどんどんと加速しまくっている。

恐竜ドラゴンとの距離は200メートル近くあったが、本当に一瞬だった。

拳の届く射程内に完璧に踏み込んだが、思っていたよりも膝関節の位置は高かった。

仕方がないので何も考えず目の前の足を全力で殴った。

恐竜ドラゴンの足は流石に消し飛ばなかったが、凄まじい破壊力を前に足に深く罅が入り、体は浮きながら半回転し、ほぼ背中から地面へと叩きつけられた。


もちろん反動も凄まじかった。

右手首から肩にかけて凄まじい衝撃を感じたのだが、脳内麻薬のせいなのか完全にハイになっていて痛みを感じていない。


(恐竜だかドラゴンだか知らないが、これは絶好のチャンス!)


そう思い物理魔法を使い、いつもより長めの手刀ブレードで首を刈り取りに行った。

だが斬りかかる前にデカブツは動いてしまい、攻撃は背中を軽く斬り裂くにとどまった。


こちらを尻尾で薙ぎ払うように起き上がった恐竜ドラゴンちゃん。

結構ダメージはありそうだが、まだまだ戦えそうな雰囲気。

対してこちらは右の手首と肩の関節が完全に痺れていた。

あれだけの威力を叩きこんでいたのに腕が折れていないだけ十分化け物だが、ダメージ交換としては『少しこちらが多かった』と言った程度だろう。

問題はこのモンスターの方がステータス的に強そうな点だ。

恐らく筋力極振りみたいな感じ。

物理的な攻撃では余程の攻撃でないと大したダメージは与えられないだろう。

さっきのように物理魔法で作った刃で斬りかかるのが正解だが、足を切り落とすのも一苦労しそうだ。

あくまでも物理魔法なので、切れ味と刃を綺麗に立てる腕がないと『斬る』ではなく『叩き斬る』になって効率が悪いのだ。


「これは少し距離を取って、遠距離から魔法を叩き込むのも試した方がいいかな?前のデカすぎイノシシみたいに行けばいいけど……。でも、弾かれる気がするんだよなぁ……。」


確実に先制攻撃を当てたいがために、遠距離からの物理魔法は止めておいたが、この状況なら普通に使ってもいいだろう。

問題は物理魔法の効果が薄そうなだけ。

火とか氷の魔法が使いたい!


「……動かないな。」


1分ほど睨み合いが続いたが、モンスターは動かない。

かなり警戒しているようだ。

だが、そのおかげで手首の痺れも少し取れてきた。


恐竜ドラゴンとの戦いは、少し長引きそうだった。

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