今宵

鼓膜騒音

しける

空気が湿気てた、体の周りの水分濃度が高い。

草を触ると湿度で少し濡れている。

地面はいつもより濃い色をしていて、皮膚は潤っている。

雨が降るんだろう。



傘は重たくて重心が見当たらない。

だから傘は極力持たないと決めている。



重苦しい空気の中、光を求めて徐に蝋燭に火をつける。

ピンク色のライターはネオンの様な色をしていて、この中でこの色だけが異空間の様だ。



広い空間に2人だけの時間、暗い空間の一点に熱が集まった。

しかし、2色に見えるその熱はすぐさま、水の中に沈んだ。



雨が降ってきた。



突然の豪雨、一滴ずつ当たれる暇もなく、一瞬にして体は透明の液体に包まれた。

地面が身体を離さない、

動きを忘れた布が鬱陶しく感じる。

空気の合間を通る粒が、持っていた花火の袋を濡らす。



土砂降りの中、花火を袋から取り出す。

もう湿気ってしまっているのは分かっているが、袋から出した花火をひとつ持ち上げ、ネオンで火をつける。

燃えていかない花火は黒い塊となり、手の中で暗闇と同化する。



雨が降ると心より先に身体が大地と同化する。

身体は全てを分かっているようだ。



黒は終わりではなく広がりを見せる、そして神秘の色だ。

それを知っている2人は、仕方なく空間の中の生命と共に雨の中に溶けていくことにした。



今日は火はつかない。しけったのだ。



そんな梅雨なのである。


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今宵 鼓膜騒音 @aren1234

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