第33話 転生エルフ(106)、見守る。
「超級魔法・炎属性
ミノリは慣れた手つきで木剣に魔力を流し込む。
黒い炎が蜷局を巻いて剣を包み、辺りの空気さえをも灼き尽くそうとしていた。
ミノリは剣を中段に構えて相手を見据える。
紅の髪がふわりと風に揺れた一瞬、ミノリは勢いよく大地を蹴り上げた。
「全力で行きますっ!」
ゴゥッと音を立ててミノリ周囲の空気が熱で揺らめいた。
そんな彼女の対面にて、たどたどしいながらも魔力を錬成し始めたのはジン君だ。
「本日の手合わせ、お願いしますッ!!!」
ミノリVSジン君での立ち会いも今日で182戦目。
ジン君の木刀に施した魔力は、ミノリの
木剣を流れる魔力がある程度の閾値を超えなければ発動しないものではあるが――。
ミノリの剣戟を防ぎきったのも未だ1回のみ。
とはいえジン君も、最初こそミノリの
加えて元の剣の技量だけで言うとジン君の方が上だ。
単純な剣戟勝負に持って行かれるとミノリも少しだけ分が悪くなるだろう。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
力任せに振るわれるミノリの剣がジン君に迫り来る瞬間。
「身体と剣を一体化させる……! 身体に流れる感覚に任せて、魔力の流れを感じて――!!」
ブツブツと呟きながら、ジン君は自分の感覚を確かめるようにして魔力を流し始めた。
そしてそれはきちんと形になっている。
ジン君のたゆまない反復練習がようやく実ってきている証拠だ。
ガァンッッ!!
黒炎の蜷局を巻いたミノリの木剣が真正面からジン君を打ち付ける、だが。
「ぐっ!」
ジン君が剣に流した
木剣だけの重みがジン君にのしかかる。
魔法が解けたとてミノリの剣の一撃は相当に強力だ。
だが今を最大の勝機と感じたのだろう。
「今……ッ!」
魔法無しの勝負なら、ジン君にも分が大きい。
超級魔法レベルの魔力を、ミノリが一から術式構築・魔力の再充填するには最低でも20秒ほどはかかってしまう。
「むっ、やりますね。でも――!」
――とはいえそれも少し前までのミノリの話だ。
ジン君が成長しているのと同様にミノリも絶えず成長し続けている。
術式構築・魔力の再充填も含めて今やその時間は5秒程度。
ジン君が体制を立て直した頃には、ミノリは再び炎の魔力を剣に纏わせていた。
「まだまだ負けるわけには、いきませんっ!」
ジン君も、咄嗟に魔力を剣に伝わせようとするが
熱波と剣がジン君と木刀を後方に吹き飛ばす。
ユグドラシルの分枝に身体を打ち付けたジン君は、悔しそうに地面に倒れ込んだ。
まぁ、ミノリの一撃を防げた時点で今の段階では上出来だ。
「……ぐっ、ま、まだ……いけます……っ!」
「頑張りたい気持ちは分かるけど、回復は1日1回までだよ。それ以上は不必要に身体に負担を掛けてしまうからね。はい、
剣を持ってうつ伏せで倒れるジン君に超級回復魔法をかける。
今はまだ気概が体力を上回っているものの、これから彼の魔法力が増えて行くに従って疲労の度合いも上がってくる。無理は禁物だ。
淡い緑色の光がジン君を包むと、彼の体力はあっさりと元通りまで回復した。
ぺたりと座って、剣と向き合うジン君。
「ぼくでも、魔力を流せたってことですよね……?」
「あぁ、そうだ。今までの2回は流し方のバランスが取れてなかった所で成功してたのかもしれないけど、今のは確実に
「……後は体力ですね。素振り、してきます!」
ミノリとの立ち会いは1日1回にしてあるが、それ以上は別に止めることでもない。
自分の感覚を確かめるようにして剣を振るうジン君を尻目に、ひょいひょいと服の袖を控えめに引っ張るもう一人の愛弟子もいた。
「ミノリも、魔力が切れてからのリカバリーは凄かったね。今までに比べて魔力の再充填がずいぶん早くなった。よしよし」
「えへへ~。まだまだわたし、負けませんからっ」
先ほどの凜とした姿からは一転して、だらしない笑顔でナデナデを受け入れる姿は昔から変わりはしないな。
ぴょこぴょこと揺れるてっぺんの紅髪は尻尾のように感情豊かだ。
というか、ジン君がここに来てからというもの少しばかり要求頻度が上がっている気がするが……可愛いから良しとしよう。
ジン君が魔力の流し方を覚えてきたとなれば、修行段階も次に移っていく必要が出てくる。
かつての伝説によれば《勇者》因子の開花に必要なものは、勇者と共に困難を乗り越えられるそれぞれ四つの魔法属性を持った仲間だ。
俺とミノリが同行した所で、困難なんて一つも起こらないだろうから彼の覚醒にまでは至らないだろう。
とはいえ、今の勇者候補であるジン君を全く目の届かないところに放り出しても――。
そう思っていた矢先のことだった。
「あれ、リース様? 何か向こうからやって来ていませんか?」
ミノリが空を指し示した先にあった黒い点が、徐々に大きくなりながらこちらに向かってきていた。
「……ゥヴァ~~~!」
彼女の名前はヴリトラ。
半年前に世界を旅しに外に出かけた、何とも気ままな龍の姿だった。
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