第30話 転生エルフ(105)、古龍に身体を与えてやる。
「……それにしても、よく話してくれますね、この相手」
ふと、黙って聞いていたジン君がこっそりと耳打ちをする。
「あぁ。幻惑魔法の一種、
「り、リースさん今、魔法を掛けてるんですか!?」
「その昔、魔族が敵を精神汚染するために使った洗脳魔法に近い古代魔術だね。この魔法を効かせると、相手は本当のことを本来の自分でしか話せないようにしかなくなるように仕向けられる。
幻惑魔法は、相手の身体に気付かれないように魔力の粒子を体内に入れ込むのが発動条件だ。
細かい粒子にした魔法に幻惑の魔力を掛け、呼吸器から脳へと魔力で相手を浸食させるのだ。
既に発動するに足る魔力は送り込んでいる。
後は滞留する魔力が自然消滅するまでの間に奴の本音を引きずり出すだけだ。
ガラガラと身体に付いた木屑を振り落とし、魔猪は魂の声を叫ぶ。
『我は身体を取り戻せればそれでいい! 我はもう一度大空を自由に羽ばたければそれで良いだけなのだ! あぁ、そうだ。奴の魔力もいつまで続くかは分からない。なのに数年前から奴は姿すら見せなくなったのだ……』
存在自体が揺らぎ始めれば、奴の正体も掴めてくる。
『奴等に命を握られてる間は聞きとうもない命令も聞いて奴を待ち続けるしかないのだ……』
そして奴が肉体創生魔法の術者に反感を持っているということは、付け入る隙は充分にある。
そんな時は鑑定魔法だ。相手が弱っていれば弱っているほど、その情報の開示は容易になって来る。
――鑑定魔法。
【名前】ヴリトラ
【種族】魔猪(元・古龍種)
【属性】闇
【獣齢】7(【龍齢】:29)
【隷属術式】肉体創生魔法
【術者】ウーヴァ・カルマ(魔王軍統括代行)
「ウーヴァ・カルマ、魔王軍統括代行。なるほどキミを縛り付けている《奴》ってのはこいつのことだな」
『……!? な、何故お前がウーヴァの名を知っているのだ!?』
もう少し詳しく鑑定魔法で診てみれば、このウーヴァとやらが古龍種ヴリトラに与えている魔力は俺の全魔力の10分の1程度しかないではないか。
案外この古龍、直情的だな――なんて思うと同時に、俺はすぐさま提案する。
「伊達に100年修行を積んでない。これくらいのことは出来て当然だ。さて、ヴリトラ。取引をしよう」
『と、取引……なのだ?』
「フガッ」と、目の前の魔獣は鼻を鳴らした。
「キミの本来の身体は俺が代わりに肉体創生魔法で作り上げる。その代わり、魔王軍の手先としてこの子を追い回すのはやめてもらいたい。それだけだ」
『う、ウーヴァの魔力量はとんでもないのだ。そんじょそこらのエルフの魔力なんて、たかが知れて――』
「ほら、魔力量がこれだけあればキミも元の身体でしばらくは生きられるんじゃないか?」
ヴリトラの心配を消し去れるように、俺は体内の魔力10分の1を掌に乗るくらいの魔力球にした。
『ブモォォォォォォォォ!?!? な、何なのだその異常な魔力量は!!?? う、う、ウーヴァと同等の魔力をこんな容易く……!?』
「心配ない。俺にとっては10分の1程度だ」
『ブ……ブモォォ………』
驚き方が完全に魔猪に引っ張られている。
これじゃヴリトラと話しているのか魔猪と話しているのか分かったものじゃない。
このままじゃいつ思念体が魔猪に取り込まれるか分からないかもな。
『……お主は、こんな身体で冒険者たちを追いかけまわせと命令しないのだ……?』
「そうだな。また魔力が足りなくなったら俺のトコに来ればいい。少し分ける程度、造作もない。わざわざ隠れたりもしないさ」
『また、我は空を自由に飛んでもいいのだ……?』
「人に大きな迷惑をかけない限り俺はキミの生き方に干渉しないよ。あ、でも行く先々で美味しそうな木の実があれば取っておいてくれると嬉しいかな」
ゆらり、ゆらりと魔猪は近付いてくる。
『ブ……ブモォ……フガッ……フガッ……!! 我は……我は――!!!』
再びその魔猪の身体から黒いもやが立ち上がり、俺の掌の魔力球に吸い寄せられていく。
『守る! 約束は必ず守るのだ! 今後一切、お主らのような冒険者は襲わないと誓うのだ!』
「よし、取引は成立だ。じゃあ約束通り、この魔力はキミにあげるとしよう」
凝縮に凝縮を重ねた俺の魔力が、轟風となって辺りの木々を大きく揺らした。
黒いもやが魔猪から飛び出て魔力球を飲み込む。
もやの濃度が上がっていき、実体のなかった元・魔猪は次第に姿を大きく変化していった――。
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