元カノと一緒

かめ

元カノと一緒

 昨日、初めてできた彼女にフラレた。


 はずだった...


「おい、何でおれの部屋にいるんだ」

「あ、おかえり。お邪魔してたわ」

 学校から帰り自分の部屋へ入ると昨日別れたはずの彼女が平然とベットの上に座っていた。


「おれら昨日別れたよな?」

「...そうね」

 彼女は顔色一つ変えずに返事をしてくる。いったいどんな神経をしているのだろうか。理由も教えてもらえず只一方的に別れを告げられ、俺は昨日の夜一晩中寝れずに枕を濡らしていたというのに。


「そうね、じゃなくて何してるんだよ! つーかどうやって入った!」

「あんたのお母さんが入れてくれたわよ。それよりちょっとうるさいから静かにしてよ。今良いところなんだから」

 彼女はマンガを読みながら、手であっちにいけとやってくる。


「いや、なんなんだよこの状況は。出ってってくれよ! どう考えてもこの状況はおかしいだろ。これは嫌がらせか、嫌がらせなのか。いや見方によってはホラーかもしれない、そういうことかそういうことなんだな!」

「ちょっとうるさいから出ていってよ」

「いやここはおれの部屋だからね!」

「あーわかったよ。じゃあ静かに端のほうにでもいてよ。このマンガの続きを読みたかっただけだから読み終わったら帰るよ。」


 何一つ納得いかないがとりあえず落ち着こうと一旦バックを置いて椅子に座ることにした。冷静になれ冷静に。


「ふぅー。ところで何を読んでいるんだ?」

「……」

 彼女はもうマンガに没頭しているようでおれの質問は無視された。まあいい。

 よくよく考えれば元々こういうやつだった。悪く言えば身勝手、オブラートに包めばマイペース。小学生の頃からよくマンガを交換して読み合いをしていたが、読み出すと周りの声は聞こえないやつだった。

 そーいえば高校生になってからマンガを貸し借りすることも減っていたな。久しぶりにこういうのもいいのかもしれない。そう思い俺も本棚からマンガを取って読みだすことにした。ぱら、ぱらとページをめくる。部屋にはページをめくる時の音だけが響く。半分くらい読んだ所で眠くなってきた。昨日ほとんど寝れなかったからだろう。少し眠ろう。机に突っ伏して目を閉じることにした。




「ねえーこっち、こっち!」

「今行くよ! 置いていかないでー」

「もう、ダラダラしないでよ! ほらこっちだよ!」

 小さな彼女が俺の手を力強く引っ張る。彼女は俺の体力なんかお構いなしに突き進む。しかし、手だけは決して離さない。そんな彼女に置いていかれないように半べそをかきながら必死についていく。

「ほらもう少しだよ。頑張って!」

「う、うん」

「ねえどこに向かっているの?」

「それは秘密! 着いてからのお楽しみ!」

 小さな彼女はそう言いながら俺に笑いかける。久しぶりにこんな笑顔を見た気がする。


「おーい、起きろ。おーい」

「え...」

「え、じゃなくてさ、この次の巻はある?」

 気がつくと目の前にはいつもの彼女がいた。


「ああそれの次はまだ買ってないや」

「そっか、じゃあ今日はもう帰るね」

 いつもと変わらない態度で彼女は身支度を始める。このまま帰していいのだろうか。急に不安になる。もう一生会えないようなそんな予感がした。


「な、なあ」

「何?」

 不安がそのまま言葉に出てしまった。何を話せばいいのだろうか。いや何を聞きたかったのか。

「……」

「どうしたの ? 何もないなら帰るよ」

 彼女はそのまま帰ろうとする。このままじゃダメだ。何か言わなきゃ、何でもいいから。


「な、なんでおれじゃダメだったんだ?」

「え?」

「いや、昨日の話だよ。別れようってさ。何が悪かったかわからないんだよ。けど一緒に居たいんだ」

「な、何言って...」

 もう止まらなかった。彼女の言葉を遮り話し続ける。

「別れたくないんだ。いや、一緒に居れるだけでいいよ。今日だってなんか良かったんだ。半分くらいおれは寝てたけどさ、久しぶりに昔みたいにさ、マンガを読んで、ただそれだけかもしれないけどそれが良かったんだ。また付き合ってくれとは言わないけどさ、この新刊は買っておくからさ、また読みに来てよ。それだけでいいからさ」

 まとまらない言葉が口から零れ続けた。更に続けようとする俺の言葉を彼女が遮った。


「ちょ、ちょっと落ち着いてよ。急に色々言わないでよ」

「ご、ごめん」

 彼女の言葉に少し冷静になる。


「だいたい別れるってなによ!」

「え...」

 予想外の反応に困惑する。頭の中がまとまらない。

「え...、じゃなくてどういうことよ!」

「いや、お前が昨日帰る時に別れましょうって言ったんじゃないか」

「何言ってんのよ...」

 彼女は呆れた顔をしながら、わかりやすく頭を抱えた。

「昨日は、今日はもうお別れねって言ったんじゃない。それにまた明日ねって伝えたでしょ」

「け、けど最近は家に誘ってもなかなか来てくれなかったじゃないか! それに昨日も久しぶりに来てくれたと思ったらすぐ帰るし、嫌われたのかと...」

「昨日は親から呼び出しがあったからすぐ帰ったの。あと最近あんたの家に来なかったのは、家に行くとあんたがすぐにそわそわするから嫌だったの!」

「じゃ、じゃあ今日部屋に入った時に昨日別れたよなって確認したら、そうねって言ってたじゃないか」

「...ごめん、それは全然話を聞いてなくてテキトーに返事してた」

「なんだよそれ! こっちがどんだけ悩んだと思ってるんだよ!」

「もーごめんって! あんたと別れるつもりはないわ! これでいい!」

 彼女の気迫に気圧されてしまい黙ってしまった俺にお構い無く彼女は続ける。

「私はあんたのことが好き。一緒に部屋でダラダラするのも好き。ただ最近の部屋で一緒にいる時のそわそわした感じは嫌だからやめて! そーいうのは高校卒業したらにしましょ」

 私が言いたいことはそれだけ、また明日ねっと言い残すと彼女は部屋を出ていった。不思議な緊張感がなくなり力がぬける。とりあえず別れずに済んだようだ。うれしいのだが自分が情けなく恥ずかしい。彼女からも当分笑い話としてからかわれるだろうし黒歴史確定だ。とはいえこのままではダメだ。彼女に見合った男になれるように、そして彼女が安心して頼れるそんな男になれるように努力をしよう。俺は改めてそんな決意を固めた。






------------------------------------------------------------------------あとがき

 駄文ではありますがここまで読んで頂きありがとうございました。少しギャグテイストといいますか緩い感じの物語に挑戦したいなと思い、とりあえず思い付くがままに書いてみました。もっと衝撃的な結末も考えていましたがあまりいい感じに纏めきれなさそうだったのでシンプルに終わらせました(力不足でした)。とはいえ書き出してみると裏設定とか書きたいことが増えてきたので評判良ければ彼女視点の話とかも書いてみようかと思います。いつ更新するかわかりませんがもし良ければそちらも読んで頂けると幸いです。ここまでお付き合い頂きありがとうございました。

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