第4話 叱られて、褒められた
「た、助けてくれ!」
暗くてこんなところに水が溜まっているなんて気がつかなかった! お、溺れる!!
「ルイス様!」
「め、メロ! 見てないでた、助け……」
「しっかりして……そんなに深くないですよ」
「え!?」
俺は冷静になって立ち上がった。水は俺の膝くらいまでしかなかった。
無言でメロの手を借り、水溜まりから上がる。
無性に恥ずかしくなり、俺はメロを怒鳴りつけた。
「お前が俺の行く先をうまく照らさないからびしょ濡れじゃないか!!」
「ルイス様、静かにして下さい、魔物に気がつかれます」
「何だと!? 貴様、俺に注意したな?……うう、な、なんだ、なんだか体が痺れてきた……」
俺はその場に倒れ込む。
痺れはどんどんひどくなり、舌も回らなくなっていく。
「め、メロ、なんとかし、ろ……」
「多分、水溜まりに毒が含まれていたんだ……ル、ルイス様、早くこれを飲んで」
メロはひどく焦った様子で背負っていた荷袋から緑色の液体の入った小瓶を取り出す。「解毒剤です」
「ぐ、に、苦い! こんなもん飲めるか!」
俺はその小瓶を放り投げようとした。するとメロが全身全霊で俺を抑え込み、
「わがまま言わないで飲むんです、死にたいんですか? このままじゃあと三分持たずに死にますよ」
信じられないような凄みの利いた声で俺を脅してきた。な、なんで俺が叱られなきゃならないんだよ、で、でもいやだ、死にたくはない。
俺はくそ苦い液体を無理矢理飲み込んだ。気を失いそうな不味さだ。
メロに手伝わせ壁に寄りかかり一息つく。痺れがおさまってきた。だけどまだ動けない。
メロが濡れた俺の体を丁寧に拭きながら言った。
「よく頑張りましたね、ルイス様。これでもう大丈夫です」
「が、頑張った? 貴様、誰に向かってものを言って……」
「あ、す、すみません、お許しください」
……ああ、でもそんなに嫌じゃないな。今までそんなこと誰にも言ってもらえなかった……。
「! そうだ宝箱!」
しばらくして回復した俺は肝心なことを思い出した。
「中には何が入っているんだ? 気になって先に進めない」
「ルイス様、お願いですから先に進みましょうよ」
「メロ、お前の氷魔法とやらの練習だ、水溜まりを凍らせて宝箱までの道をつくれ。命令だ」
「は、はい、ルイス様」
メロは恐縮しながら松明を俺に渡すと、目を閉じ、集中した様子で開いた両手を水溜りに向けた。
水溜りがみるみる凍っていく。
「集中していないと水に戻ってしまいます」
なので俺が氷の道を渡って宝箱を開けるしかない。俺は松明を掲げながら慎重に氷の上を進み、宝箱の前まで来た。錠前は錆びて壊れていた。
期待に胸を膨らませて宝箱を開けると……
そこには薄汚れた球体がひとつあるだけだった。俺はガッカリした。伝説の剣とか、神秘の盾とかじゃないのか。
手に取ってみても汚れているから光ひとつ反射しない。
「うう、ルイス様、もう限界です……」
メロが泣き言を言った。水溜まりを凍らせているその両手はぷるぷる震えている。さっきは俺によく頑張ったとか言ってたくせに、情けない奴。
俺は意地悪くゆっくりした足取りでメロの元へ戻ると、疲れてへたり込むメロの前に薄汚れた球体を投げ落とした。
「お前にやる」
「本当ですか、ありがとうございます、ルイス様」
メロは嬉しそうにその汚らしい球体を懐にしまった。
「少し休んだら行くぞ。お前が先を行け」
なんだ、そんなもので喜んで。おめでたい奴だ。
慎重な足取りで四半時ほど歩いた。洞窟はほぼ一本道だった。これなら腰に括り付けたロープがなくても出口まで迷わないだろう。
だけど洞窟の奥へ奥へと進んでいるんだ、確実に魔物のもとへ、近づいている。
緊張からか、俺もメロも会話がない。
「おい、メロ、何か話せ。退屈だ」
「あの、でも……」
「大声でなきゃいいんだろ、早くしろ」
「は、はい……じゃあ、あの、ルイス様への感謝を述べてもよろしいでしょうか」
「なんだ、それは」
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