第29話 幼馴染たちの本音
順調な旅路を経て、俺たちは首都ハウルゼンへと到着していた。
魔物の襲撃もあったので、一般的に順調というのもどうかとは思うが、旅の障害になりえなかったのだから、問題ないだろう。
旅の終わりが見えてきたためか、仲間たちの雰囲気は明るい。
なんと言うべきか、時折それがカラ元気のように見えてしまうことがあるのだ。
最初はこの旅を終えることが名残惜しいのかとも思ったが、それも違う気がしている。
妙な違和感を抱きながらも、俺たちは『光の神殿』の鼻先にまで到着した。
ここでの休息を終えれば、いよいよ聖剣を得るための『光の試練』に挑むこととなる。
「では、期間は一週間でいいんだな? 勇者殿」
「ああ。ここまで強行軍だったからな」
「もう少し長くてもいいのですよ?」
リズが俺の裾を引っ張りながら提案するが、それには首を振って答える。
「ウィズコや道中を見てきたろ? 魔王復活の影響は各所で出てきてる。あまりぐずぐずするわけにもいかない」
「うん……なのです。わかったのです」
「では、宿に向かおう」
馬車乗ったまま整えられた街並みを見やる。
ここは神殿の総本山だ。
かつて勇者の仲間だった〝聖女〟が興した信仰の中心地でもある。
神官服を着た者が多く見られるのも、この町ならではだろう。
しばしして、到着した宿で一息ついた俺たちにアシュレイが告げる。
「私はこの先の準備に取り掛かる。君たちはしっかりと休んでくれ」
「おいおい、それじゃあんたが休めないだろう?」
俺の言葉に黒騎士が小さく頭を振る。
「この旅が終わったら長い休みをいただくことになっている。気にすることはない」
「でも無理はいけないね。主治医のいうことは聞いてもらうよ?」
アシュレイの前に一歩踏み出し、ティナが笑う。
「今日のところはボクがついていく。いいね?」
「……了解した」
黒騎士がうなずく。
あれで気遣いのできる男だ。ティナが一緒ならば、彼女を慮ってほどほどで切り上げてくるだろうし、無茶もすまい。
「それでは、行ってくる」
「ふふふっ。デートとしゃれこもうじゃないか、黒騎士殿」
「エスコートつかまつるよ」
町に消える黒騎士の腕にじゃれるようにつかまるティナを見て、少しばかり胸が痛む。
ティナのことだ、あてつけというわけではないのだろうが……嫉妬じみたものが、俺を締め付けた。
「もう、ティナったら」
様子を見ていたナーシャが、俺と同じ視線で小さくため息をつく。
ナーシャもアシュレイと行きたかったのだろうか。
「ヨシュ兄。そんな顔しないのです」
「え?」
「リズがいるのです」
「……そうだったな」
苦笑を返して、リズの指先をつまむようにする。
リズはここのところ、スキンシップすることを皆に隠さなくなった。
例の女子会とやらで、いったい何を話してしまったのだろう?
「あら、わたしだっているわよ?」
ナーシャが俺の肩に手を置く。
「はは、ありがとう二人とも。さて、俺たちはどうする?」
「少し街を歩いてみたいのです! リズたちもデートするのです」
「もう。それじゃあ、わたしがお邪魔虫みたいじゃないの」
小さくむくれるナーシャにリズが抱き着く。
「ナシャ姉もいっしょなのです。三人でデートなのです」
「それはそれでいいの?」
「二人じゃなくていいのか?」
不思議そうにする俺とナーシャに、リズが快活な笑いを向ける。
「いいのです! 独り占めはよくないのです」
「そういうものか?」
「ヨシュ兄は鈍いのです。乙女心に気が付いていないのです。ナシャ姉はヨシュ兄が大好きなのです」
さらりと爆弾発言をするリズに俺とナーシャは見合って……顔を赤くする。
「ちょちょちょ……ちょっと、リズ。それは、ヒミツって……」
「てへ、うっかりなのです」
どう考えてもわざとだな。
「ナシャ姉は誤解されやすいのです。気持ちはちゃんと伝えたほうがいいのです」
「もう、伝えたわよ」
恥ずかしげに向けられる視線を受けてめてしまい、思わず目をそらす。
あの日、俺たちはお互いを確かめ合ったのだ。ちゃんと、伝わっている。
「やれやれなのです……心配して損したのです」
「リズはそれでいいの?」
「これでようやくフェアなのです」
リズがにこりと笑って、再びナーシャに抱き着く。
「リズは少し卑怯だったのです。不意打ちだったのです。無知だったのです。落ち込んだヨシュ兄を励ますふりをして付け込んだのです」
「リ、リズ?」
「悪かったとは思っていないのです。恋は奪い合いなのです。でも、フェアではなかったのです」
ナーシャから離れたリズが、今度は俺に抱き着く。
それを受け止めて抱擁を返すと、リズは甘えるようにほほを擦り付けてきた。
「すっきりしたのです。これで恨みっこなしでヨシュ兄とイチャイチャできるのです」
「も、もう! わたしだって……!」
背後に回ったリズが後ろから抱き着いてくる。
柔らかな豊満の感触が背中に広がって、俺は顔を赤くする。
「ナーシャ?」
「言質はとったわよ、リズ。恋は奪い合いなのよね?」
「負けないのです!」
俺を挟んではしゃぐ幼馴染二人に、俺は小さく笑う。
「どうなってんだ、これ」
「そもそも、ヨシュ兄が鈍いのがいけないのです!」
「そうよね。ヨシュアったら、わたし達の気持ちに全然応えてくれないんだもの」
「ヘタレなのです!」
「ヘタレね」
今度は責められてる。
でも、この感じは……嫌いじゃない。昔に戻ったみたいだ。
いや、少し違うな。あの頃よりも、ずっと踏み込んだ場所にいる。
俺を受け止めてくれるつもりで、答えを待っていてくれる。
つまり、俺は一歩踏み出すチャンスを得たのだ。
「俺は──……」
告げた答えに二人は苦笑して、俺のほほにそれぞれキスをしてくれた。
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