第21話 僕は2人に幸せになって欲しいんだよ。

「シャノンそれじゃあいくぞ」


 俺が頭に手を置き魔力を入れようとしたところでリッカさんから声がかかる。




「あっロックさんちょっと待ってください。助けたい気持ちは私も同じなんですが、シャノンさんの所有が今ギルドになっているのでそこの問題をクリアしてからで大丈夫ですか? お時間は取らせませんので」




「えぇもちろん大丈夫ですよ」




 リッカさんがギルドに戻り許可を得ている間、俺は聖魔法を身体の中で練っておく。


 シャノンはラッキーの方を最初は恐る恐る見ていたが、俺が頭を噛まれたあたりから表情が和らいだ。




 ラッキーはまさかここまで考えていたのか?


 いやそれは考え過ぎか?




 ラッキーは横になりシャノンさんをシッポで抱えて身体の上にダイブさせていた。


 こうしてみるとラッキーは本当にコミュニケーションの取り方とかが上手い気がする。


 これからしばらくの間一緒にやっていくのに仲良くなってもらえるのは非常に助かる。




 シャノンもラッキーの手触りにビックリしてずっと撫でている。


 わかるよシャノン。でもラッキーは渡さないよ。




 あっ今度ブラッシングしてやろう。さらにサラサラになったらもう人をダメにするフェンリルだな。




 聖魔法を身体の中で練り込みながらそんな余計なことを考えているとリッカさんがギルドマスターを連れて戻ってきた。




「いやーロックくんだいぶ大変だったみたいだね」


「いえご迷惑をおかけします。タイタスさん」




 ギルドマスターのタイタスさんは32歳でギルドマスターにまで上り詰めたかなりのやり手だった。他のギルドでは50代でギルドマスターになることが多いのでいかに出世が早かったかわかるだろう。




「それでシャノンのことなんだけど、今の状況ではギルドとして解呪をさせることはできない」


 タイタスさんは俺の予想とは違い解呪を拒否してきた。


 冒険者が困っているのを助けるのがギルドのはずだ。




「なんでですか? 実害もでていてシャノンも困っていて助けないなんてあなたらしくないじゃないですか!」




 つい感情が高まり強めの表現になってしまう。


 こんなに人のことを思いやれる子が困っているのに。


 手を貸さないなんてよく言えたものだ。




「おっと? いつものロックくんらしくないですよ。そんな感情任せではアイザックと同じになってしまいます」


 タイタスさんは俺の心を見透かしているかのようにそうやんわりと指摘してくる。




「すみません。さすがにちょっと疲れているようです」


「そのようだね。色々あったからね」




 普段は確かにもっと冷静だった。今日は1日色々あったせいで少し感情的になりやすくなっているのかも知れない。




「それでシャノンの解呪をできない理由は?」




「あぁ、シャノンは現在ギルド所属の奴隷でギルドの職員扱いになっているからだ。職員を素人に解呪させることはできない。それがいくらS級冒険者のロックくんだと言ってもね」




「ただ、解決方法があるってことですよね?」




「さすがロックくん。隠し事はできないな。もう少し焦らしてからと思ったんだけど。単刀直入に言うけどシャノンをギルドから買い取らないか? 解呪ができるなら危険はなくなるし、丁度ロックくんも仲間がいなくなったって言うし丁度良いかと思って」




 シャノンを引き取る?


 俺がシャノンの主人になるのが解決方法だって?


 しばらくは一人で活動するつもりだったのでいきなりの話に戸惑ってしまう。




「引き取るって言われてもシャノンをいくらで買ったのかわかりませんが、俺は元S級とは言え所持金なんてほとんどないですしシャノンを養うだけの器量はないですよ」




 シャノンを引き取るか。


 シャノンは今まだ発展途上だから一緒にいて成長を助けるくらいはできるかもしれない。


 でも、俺はまた裏切られるのが怖かった。


 だから無難な理由で逃げてしまう。




「大丈夫だよ。偶然にも今回のクエストとシャノンの金額は同じだからそれで相殺できる。そこは心配しなくていい。それにシャノンは良い子だよ」




「それは偶然なのか……?」




 何かギルドマスターの作為的なものを感じてしまう。


 確かにシャノンは人を傷つけないようにするために自分を犠牲にできる子だ。




「なに悩んでいるのよ。さっさと決断しなさいよ。男でしょ」


『そうだ! そうだ! 決断しろ』




 リッカさんが俺に決断を求めるなかでラッキーが便乗してくる。


 みんなにはラッキーの言葉はわかっていないがラッキーは人の言葉がわかるようだ。


 ラッキーの方を見ると一瞬で目を逸らす。


 コイツ……。




「こんな可愛い子が困っているのにそれを放置するというのか。彼女の呪いを解くチャンスが目の前にあるんだぞ」




 周りを見渡すと全員俺の敵に見えてきた。


 ラッキーはなぜか非常に嬉しそうにニマニマとしている。




「わかりました。でもシャノンがそれでいいのかを確認してからと、あと別に解呪が済めば俺じゃなくてもいいんじゃないですか? なんで俺にそこまで面倒みさせたいんですか?」




「僕はねシャノンにもロックくんにも幸せになってもらいたいからだよ。冒険者ギルドっていうのは冒険者を幸せにするためにある組織なんだ。だから今回のような裏切り行為はあってはならないし、アイザックくんたちはロックくんの幼馴染で貢献してくれたから猶予を与えているけど本来なら即刻処分を下して、よくてギルドからの永久追放だよ。僕も甘いって怒られるんだけどね」




 確かに今までの貢献があるとは言えかなり甘い処分だとは思っている。




「アイザックくんたちは一度自分たちがいかに恵まれた状況にいたのかを知ってもらう必要がある。僕はロックくん以上に万能な冒険者はいないと思っているし、彼らはそれに甘えてしまっていたわけだからね。今回の依頼で彼らは本当の大変さを知るだろうね。さて話を戻そうか」




 タイタスさんは一度そこで区切りシャノンの方を見つめ


「この子はなかなか辛い体験をしてきているのに、それでも、他人ひとのことを考えられる子なんだ。それって誰かに似ていると思わないかい?」




「ん? 誰?」


 まわりを見渡して見るが、俺の周りにはそんな奴はいなかった。


 そんないい奴がいるならぜひパーティーを組みたいものだ。




「アハハ。ロックくんだよ。君も仲間のためになら身を粉にしてでも働けるじゃないか。僕は君たち2人はよく似ていると思っている。2人とも辛い経験をしたり自分を犠牲にできるからこそ良きパートナーになれる相手が必要だと思う。もちろん強制はしない。だけどロックくんが彼女を助けてあげてくれると嬉しい。もちろんシャノンにもロックくんを支えてもらえるとありがたい」




 ギルドマスターにそこまで言わせてしまうと俺の方でも無下に断ることはできない。




「シャノンはどうしたい?」


 これは俺の独断で決めていいものではない気がする。


 奴隷に意思を確認するのもおかしいが本人が嫌がっていることをやらせる趣味はない。




「わっ、私はその権利がないといいますか。私は奴隷に落ちたときから、身を任せるしかないので」




「どうした? さっきまでの威勢がなくなってるぞ。でも、拒否をしないってことは俺と一緒に来ることに反対はしないのか?」




 シャノンは、さっきまでの威勢は無くなっており静かになっていた。


 見れば少し顔が赤い。熱でも上がってきたのだろうか?




「原因が解消できるのであれば……私はロックさんやラッキーさんと一緒に、行きたいです」




「わかった。じゃあシャノンは俺の方で引き取る。金は今回の依頼と相殺ってことで。じゃあさっそく呪詛を解除しよう」




 俺は気合を入れて練り続けた聖魔法でシャノンの呪詛を解除した。


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ラッキー「決断力って大事だよね」

ロック「冷やかしやがって」

ラッキー「あとはお若い2人で」


ロック……妙に発言が……



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