第19話 シャノンの記憶
小さな時私は幸せな家庭に生まれ育った。
エルフはとても長生きで自然と共に暮らす種族だ。
今考えれば娯楽は少ないけど家族がいて食事に困らないっていうだけで幸せだった。
私の父はエルフの中でもトップクラスの剣術の使い手で母は体術の使い手だった。
娯楽が少ないエルフの里では剣術や体術は日常的に行われていて父や母は先生であり師匠でもあった。
私は魔法に関してはあまり得意ではなかったけど、成長していくにしたがってそれなりには使えるようになっていた。
その頃の私はなんとなくこのままずっとエルフの里で過ごして歳を重ねていくのだろうと思っていた。
でもある日転機が訪れる。
私には5つ下に弟のセスがいた。
セスはいつも私の後ろを追いかけてきて、少し面倒くさいと思う時もあったけどすごく可愛かった。
そんな弟が親愛の森へ行ったまま行方不明になってしまった。
親愛の森はエルフの里から目と鼻の先にある森で昔人間の魔導士と友好を誓いあったという話があり、そう名付けられていた。普段から遊んでいた森でセスが迷うなんてそんなことは信じられなかった。
ただ最近その森には見たことのない魔物が増えているという目撃情報があった。
私は両親から家で待っているようにと言われていたが、待っているだけなんてできなかった。
なにかよくわからない胸騒ぎがしたのだ。
親愛の森は弟とよく遊んでいたため弟がどこに行きそうなのか見当がついていた。
私は両親に黙って森の中に入っていった。
いそうなところは全て探した。でも、どこにもいない。
残るはエルフの中でもごく一部のエルフしか立ち入ることのできない魔導士の館と呼ばれるところだった。
そこには魔道具や色々な魔法関連の物があると言われており私たちは立ち入ることを禁止されていた。
魔導士の館はもう何百年も経っているのに外観は建てた時のまま古くなることはなかった。
私は思い切ってそこへ入ることにした。
でも、それが間違いの始まりだった。
その時両親へ相談していればまた結果が変わっていたのかもしれない。
館の中は綺麗に掃除がされ埃一つ落ちていなかった。
エルフの里の噂では誰も住んでいないと言われていたのにとても不思議だった。
今思えばだけど、あそこには不思議な魔力が漂っていたんだと思う。
私はいつのまに恐怖心がなくなり3階まで駆けあがり、迷わずに一番奥の大きな部屋へ入った。
部屋の中には私の弟がベットの上で横になっていた。
「セス?」
声をかけてもセスは起きなかった。セスの顔は青?白く呼吸は浅く早かった。
いつものセスじゃない。
私はセスを背負い部屋から出ようとしたところで「それ」が私の方を見ているのに気が付いた。「それ」は真っ赤な赤い球体とでも呼べばいいのだろうか?
空中をフワフワと浮いていて目はないのに私の方を見ているというのだけはわかった。
「セスは渡さないわ」
私はセスを背負い「それ」に剣を向ける。
「それ」は行く手を阻むのでもなく部屋の中央で浮いているだけなのが余計に何か不吉なもののようで気持ち悪かった。
私は「それ」に気をつけながら部屋から出ようとする。
でもあと一歩というところで無情にも部屋の扉は閉められてしまう。
私はパニックになりそうなのを必死でこらえ「それ」へ向き合う。
「可愛い子ね。助かるのはあなたか弟さんだけ。選ぶのはどっち?」
「えっ?」
「助かるのはどっち?」
私は咄嗟に
「弟を助けて」
そう叫んでいた。
「それ」はニヤリと笑い私の身体の中に何かが入ってきた。
結局それが何だったのか今でも私にはわからない。
それからのことはよく覚えていない。
気が付けば私は家に帰っていた。
セスもいつの間にか家に帰ってきていたと言っていてすべては夢だったと納得しようとしていた。
でもそれから私の身の周りでおかしなことが起こる。
最初は小さな虫などが死んでしまうということから始まった。
そして徐々に大きな虫になり小動物になっていく。私は段々と怖くなって両親に相談したけど、両親は真剣には聞いてくれなかった。
そしてついに私の家で飼っていた白馬が命を落とす。
私はこのまま家にいたら家族に悪いことが起こる。
そう思った私は誰にも何も言わずにエルフの里を出ることにした。
成人をしていたし外の世界でも一人で大丈夫だと思っていた。
特に当てのない旅。
行く場所なんて決めていなかった。
どこでもいい。誰もいない場所へ。
あれが何だったのか私にはわからない。ただ生きるためだけにさ迷い歩く。
でも、里の中しか知らなかった私にとって世界はあまりに非情だった。
世間知らずだった私は通貨もわからずあっという間に奴隷へと身分を落としてしまう。
私はいっそのこと死んでしまいたかったが、自分で死ぬこともできない。
でも、私を最初に奴隷として買ってくれた人はとても親切で優しかった。その人は常識知らずな私に世界の常識を教えてくれた。
あの人に会っていなければ今の私はいない。
でも、その間にも段々と私の周りでおかしなことが起こる。
そして半年後。
私を買ってくれた人は眠るように亡くなっていた。
その原因が本当に私だったのかどうかわからなかった。
でも2人目も3ヶ月で病死し、3人目は1週間で崖から転落してしまった。
4人目は毒を飲み。そして5人目は私が目を離した瞬間に魔物に襲われて亡くなった。
私が関わる人はみんな死んでいく。
私はもう誰にも死んで欲しくなかった。
だから私の身元引受人がギルドになることを喜び自ら願って牢へ入ることを希望した。
もうこれで誰も死なせることはない。
だけどギルドも私をそのままにしてはくれなかった。
ギルドとしては私を冒険者にしたいと言いだしE級へと登録をされた。
私は一人で行動することを願ったがそれは許されず上位の冒険者と組むことが必須だと言われた。
でも上位の冒険者であっても私の経歴を話すとみんな私から距離をおいた。
別に私だって誰かを死なせたいわけじゃない。
だから拒否されるのは仕方がないと思っていたがショックを受けないわけではなかった。
そして私は自分より強い人じゃなければいけないと言ってパーティーを組むこと自体を拒否した。そうすれば私の心が傷つくことはない。
私は心に誓った。誰にも媚びないと。どれほど私より強くても私が参ったと言わなければ負けにはならない。絶対にパーティーなんか組まない。そう心に誓った。
そうしてしばらくたったある日その男は私の前に現れた。
男は変わったブレスレッドをしており、なんでも上級のパーティーから運び屋をクビになった男だという。
いくら私がパーティーを組みたくないと言っているからといって、運び屋と組ませるとはギルドもいよいよ私を見放したと思った。
だから私はあえてヒドイことを言って拒否をした。
でも、その男は全然私の言うことを聞いてくれなかった。
ただの運び屋だと聞いていたはずなのに彼の剣は早く真っすぐで今までの誰よりも力強く、そして優しかった。
彼は私が強がっているのをまるで見透かすように色々と話しかけてくる。
私はもう誰にも死んで欲しくなかった。
初対面であっても彼に死んで欲しくない。
だから私は彼を否定した。
「まだ私は負けてないわ。私が負けを認めるってことはあなたが死ぬってことなの。だから私は負けられないの」
彼にいくらあなたが死ぬと言っても彼は信じてくれなかった。
剣で勝てなかった私は体術で彼に挑む。
でもそれもあっさりと投げ飛ばされてしまった。
こんな人が荷物運びをさせられていたパーティーなんてきっと私の想像を超えるような人間が集まっていたに違いない。
それでも私は諦めなかった。
でも、彼は私に言った。
「俺が死なない理由を見せてやる。だけど頼むから俺より先に死ぬなよ」
人間よりもエルフの方が長生きなのは誰でも知っている。
そんな私に彼は自分より先に死ぬなと言ってきた。
その言葉は私の心の中に深く入り込んだ。
でも素直になれない私は彼に対して大見えを切った。
「笑わせないで! 私は生命と樹木に愛されたエルフよ! 私を諦めさせたいなら魔王でも連れてきなさい」
魔王なんて連れてこれるわけがない。それはつまり私は絶対に負けを認めないという意思表示みたいなものだ。でも彼は私の予想を超えてきた。
目の前に現れたのは災害といっても過言ではないフェンリルだった。
フェンリルが目の前で吠えて魔力を少し解放しただけで私は身体中の力が抜け震えていた。
私の目の前に空を飛んでいた魔物が落下してきた。
その魔物はスカイバードと呼ばれる鳥で、空を一番高く飛び地上で姿を見ることはないと言われている。この鳥は世界一大きな世界樹の天辺付近に巣を作ると言われる希少な鳥だった。
エルフでさえ生で見たことがある者は少ないだろう。
そんな鳥を地上から落とせるものは誰もいないと言われていた。
でもフェンリルは魔力の解放だけで落としてしまった。
そんなフェンリルを従える彼はもはや常識で語れる存在ではなかった。
それに私を襲った本当の死の恐怖。
私は今まで自分が死に対して口だけだったことを改めて実感した。
私はまだ死にたくない。
そして周りの誰にも死んで欲しくない。
私にできることはなにもないかも知れないけどこの人に頼ってみよう。
そう思うには十分な力だった。
そしてこの出会いが私の運命を大きく変えることになった。
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ラッキー「肉球ビーム見てたでしょ?」
ロック「えっ……その……いやなんのこと?」
ラッキー「ワオーーーーーン」
実は悲痛な叫び声だった。
※後書きと本編は関係ありません
いつも評価と応援ありがとうございます。
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