第7話 冒険者ギルドに戻ってきましたが、あれ? なんで?

 帰りは来た時と違って快適だった。


 重い荷物を持つ必要もなければ戦う必要もない。




 魔物の数も少なかったためそれほど問題はなかったが5階層だけはちょっと大変だった。


 オレンジアントという蟻の魔物が結構多くいたのだ。




 オレンジアントは中々手ごわい。


 防御力が強く仲間意識が強いのでサッサと倒さないとどんどん仲間を集めてくる。




 数匹の内にさっさと倒して逃げてしまうのが一番だ。


 ただ、あれほど数が多くなっているのは初めてだった。


 何かあったのか?




 4階以降は魔物のレベルもガクッと下がるため楽に進んでいくことができる。




 冒険者ギルドの前までラッキーに乗ってのりつけようとしたところ、門番に止められ仕方がなくゆっくりと歩いていく。




 ラッキーを見た街の人はかなり驚いていたが首輪をしていたのと俺の言うことを大人しく聞いてくれているおかげで騒ぎにはならずにすんだ。




「ラッキーここでちょっと待っててくれ。冒険者ギルドへ報告とクビになったことを話してくる」




『わかった。別に箱庭に入ってもいいぞ』


「いや、大丈夫だよ。街の人にも慣れてもらう必要もあるし。それじゃあ行ってくる」




 ラッキーが冒険者ギルドの前でお座りして待っているのはすごく可愛い。


 俺がギルドに入ろうとすると勘違いした冒険者が騒ぎ出した




「冒険者ギルドを守れ! 大きな犬がギルドを襲いにきたぞ!」


 被害妄想もいいところだ。


 殺気を受けてもラッキーはどこ吹く風。




『ロック、こいつらに立場の違いをわからせてもいいか』


「わかって聞いてるんだろ?」


『もちろんだ』


 ラッキーがにかっと笑うと冒険者たちは1歩後ずさりする。


 ラッキーはそのまま伏せて横になる。




 どうせ攻撃されたところでラッキーには傷もつかないだろう。


 冒険者には説明しておいたがかなりビックリしていたようだ。




 さて、俺は俺を置いていった幼馴染の顔でも見てこよう。どんな顔をするのか楽しみだ。


 ギルドに入ると受付のリッカさんがいつもと変わらない感じで出迎えてくれた。


 リッカさんは丸いウサギの耳をした獣人でいつもニコニコしていて可愛い。




 冒険者の中ではリッカさんの隠れファンクラブもあるなんていう噂もある。


 リッカさんが受付の時には依頼の減りが早いなんて話もあるのであながち噂も冗談ではないかもしれない。




「ロックさん今日は滅火のダンジョンにパーティーで挑戦しに行ったんじゃないんですか?」




「あれアイザックたちはまだ戻ってきてないの? 俺ダンジョンの10階層でキッドに胸刺されて置いて行かれたんだけど」




「えっ……ロックさんと一緒に行ったきりですが。それに今なんて言いました? キッドさんに刺された? やっぱりあの噂は本当だったんですね」




 おかしい。いくらアイザックたちが魔物の回避をしていないとはいえボス戦で戦っていないのだから体力だって残っているはずだ。それが俺よりも遅くなるなんてことは思えない。


 それにあの噂?




「あの噂というのは?」


「キッドさんがダンジョン内で仲間を見捨てたって話です。かなり前にまだキッドさんが駆け出しだった頃B級上位の冒険者と組んで滅火のダンジョンに挑戦したことがあったんです。4人組のパーティーで帰って来たのはキッドさんともう1人だけでした。B級が滅火のダンジョンへ挑戦するのが早かったなんて話で終わったんですが、そのあとキッドさんが仲間を囮にして逃げてきたなんて噂があったんです。その当時キッドさんの実力はB級のパーティーの中では劣っていたので」




「アイザックたちが危ない」


 道理で俺への攻撃が躊躇ない感じだったはずだ。


 仲間たちが危ない。だけど……見捨てられた俺が助けに行くべきなのか?




「ところでなんで一番優秀なロックさんをキッドさんは狙ったんですか?」


 リッカさんは何を言ってるのだろう?


 俺が一番優秀?


 そんな馬鹿な。だってあのパーティーの中ではいつも蔑まれていたのに。




「それは……俺が一番使えないからじゃないですかね?」




 リッカさんがいきなり机を叩きながら大声で叫ぶ!


 ギルド内が一瞬で静かになり注目を集めることになってしまった。




「はいぃ? 何を言ってるんですか? S級パーティーグラエラはロックさんがいるからS級になれたんですよ。なんですか一番使えないって! どうやったらそんな勘違いができるんですか? もしかしてあの人たちロックさんがやってること誰でもできると思ってるんですか?」




「そうだな……。俺クビになったし。キッドに刺される前にクビを言い渡されたからな」


 俺がやっていたことなんて誰にでもできる。替えはいくらでもいると思われている。


 それなりに貢献していたつもりだったが、それも理解してもらえることはなかった。




「はぁ。そうですか。馬鹿なことをしましたね。ロックさんあなた以上にS級パーティーグラエラを支えた人はいないですよ。これでグラエラはB級への格下げは決まりましたね」




「S級取り消し!? そんなわけないだろ。あいつらの個人の功績だけでも十分だろ」




「ここに現在戻って来ていないのが何よりの証明です。胸を刺され10階層に置いていかれたロックさんがここに戻って来ていているのに4人は未だに冒険者ギルドへ顔を出さない。これ以上何が必要ですか?」




「いや、これには理由があって……」




「おい! どうなっているんだ! ギルドの前にフェンリルがいるなんてどういうことだ! ついに戦争でも始めるのか!?」




 冒険者の一人がすごい剣幕でギルド内に叫ぶ。


 あの人はうちのメンバーとは違ってちゃんとフェンリルを知っているらしい。


 やっぱりちゃんと勉強している人はしているんだな。




「大丈夫だ。それは俺の従魔になったから安全だ」


 冒険者は信じられないといった感じで口をパクパクとさせている。




「フェンリル……? あの伝説の? おぉ! ついに聖獣使いとして活躍できるんですね。おめでとうございます」




 意外とリッカさんはすぐに受け入れてくれたがギルド内にいた全員が白い目で俺の方を見てくる。併設されている酒場では何か器を落とすカラーンという音まで聞こえてくる。




「それじゃあ従魔登録が必要ですね。あっそれでどうしますか? 今日はこのまま帰られますか?」


 平常運転のリッカさんとギルド内の空気のギャップが激しすぎる。


 帰るのかと聞かれて俺は幼馴染たちのことが心配になる。


 どんなに文句を言われても仲間は仲間だ。




「彼らは戻ってきても冒険者規則違反は免れません。でもロックさんを切り捨てるとか、あの人たち本当に何もわかっていなかったんですね。こんなことなら早く手を打っておくべきでした。助けに行かれますか? 助けに行ったところできっとヒドイ言葉を言われるだけかも知れませんよ」




「そうだよね」




「そうです。それに滅火のダンジョンは腐ってもS級パーティーが挑戦するダンジョンです。ロックさんがいくら優秀だからといっても一日に二度も潜るなんて危険ですよ」




 そうなんだよ。滅火のダンジョンは決して油断できるダンジョンではない。


 でも……。




「あいつらの荷物も突き返してやろうと思っていたのでちょっと探しに行ってきます」


「そうですか。ロックさんがそこまで言うなら私はもう何も言いません。ロックさんが戻ってきた時にスムーズに処理できるように準備しておきますね」




 リッカさんは満面の笑みを浮かべて送り出してくれたが、その時の俺はリッカさんの目がまったく笑っていなかったことに気が付いていなかった。




 ギルドから出ると寝ているラッキーの上で子供たちが遊んでいる。


 あの毛はかなり気持ちいいいからな。


 ただ、怖い者知らずなのが怖すぎる。


 ラッキーが頭を上げ大きなあくびをする。




『それであいつらを助けにいくのか?』


「わかっていたのか?」


『なんとなくな』




 カッコつけてしゃべっているが首の下に子供をぶら下げているのでいまいち締まらない、


「つき合ってくれるか?」


『先に言っておくが一度裏切った奴は反省したフリをしても何度も裏切るぞ』


「わかってるよ。だから助けるのはこれが最後だ」


『そこまで覚悟が決まっているなら何も言わない』




 ラッキーと一緒に滅火のダンジョンへと向かう。


 子供たちがラッキーにまた遊ぼうねって言っているのに少し苦笑してしまった。


 ラッキーも大きくシッポを振ってこたえている。


 さて、油断はいけない。


 今から再度向かうのはS級パーティーが追い込まれているダンジョンなのだから。


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