第237話 霊能者試験6

 ――勇実礼土 視点――


 

 実技試験。霊力測定検査。

 実技というが実際は出力される霊力の強さを図るというだけで試験という程のものではないらしい。合格条件は規定ランクⅡ以上の強さがあるかどうか。その1点のみという事だ。

 そのため車の自動車免許のように気軽に取得が可能だったりする。では免許を取った霊能者全員が霊能者として活動するかというとそうでもない。所謂ゴーストハントと呼ばれる霊を祓う行為までしないものも多い。それは当然命の危険があるからだ。


 そのため、免許を取った人間であっても、その中で当然上下関係が生まれる。それがランクごとによって与えられる権利と義務だそうだ。


 権利とは様々であるが、もっとも大きいものとは国からの保証を得られるという事だ。もっともその恩恵が大きいのは就職や転職などらしく、ランクⅣの免許証があれば、大手の企業に就職も非常に容易く、給料もかなり良いらしい。さらに高ランクになれば仮に銀行からお金を借りるとなってもほぼ無担保で貸し出しから、国営機関が運営する施設の無料化などその恩恵は多様だ。

 そしてもう1つの義務とは霊の除霊活動であるが、その中でももっとも大きいものは、国からの指名依頼は参加が強制であるという事だ。どうしても人が寄りつけない危険な悪霊が縄張りとなった霊界領域は多くあり、当然難度の高い場所であれば命の危険性は高くなる。自衛隊では霊を排除できない。霊能力がどうしても必要になる。

 だからこそ、高ランクの霊能者は常に優遇され、国のため、国民のためにその命を懸けて悪霊と戦う義務がある。





「ここか……」



 随分広い場所にきた。仕切りのようなものが沢山あり、5人の職員が並んでいる。1番から5番と書かれた大きなプラカードのようなものがあり、このフロアにパーテーションで作られた通路の先に何か機械のようなものがある。

 



「はい。ではこれより霊力測定検査を始めます。番号をお読みしますので呼ばれた方はこちらが指定した番号の通路をお進みください」



 なるほど。一度に5人が行うのか。それであの先に霊力を図る何かがあると。さて――。



 そう考え俺は自分の指輪を触る。




 こいつらは本当に大丈夫だろうか。魔力ならともかく、霊力の強さを図る事が俺にはできない。だからこいつらがどの程度の強さなのかあの話を聞かされるまでさっぱり分からなかった。だからこそ昼休憩の間にちょっと近くの山へ行って可哀そうだが躾をしようと思って呼び出したんだが……。


 あの時のマサとキィとコンの姿を思い出す。随分デカく、変な姿になっていた。実際に3体を目の前にして俺が思ったのは、なんか見た目変わったなという感想だけだった。漫画とかでいう「君写真と違くない?」状態である。

 霊力はどうだったのかと聞かれるとよく分からんというのが本音だ。だから桐島君たちの話を聞いて総合的に考えると多分この3体は世間的には強い方に分類されるのだろうという事だけは理解している。だがそれだけだ。当初目標だったランクⅤの霊力になるためにどの程度弱くすればいいのか分からない。




「なあ。とりあえず魔力を注いで溢れてる霊力を半分程度まで抑え込めばいいと思うか?」

「……どうでしょうか。あまり弱くし過ぎてもそれはそれで面倒です。とはいえあの桐島という彼の感覚を信じるのなら礼土は半分程度でいいかもしれませんね」



 難しいラインだ。しばらくしていると桐島君が呼ばれ先に行ったようだ。ん、あれは――。




「どうしたんです礼土。手なんて振って」

「いやな。お菓子のつまみ食いを見られた学生も呼ばれたみたいでさ。何でか知らないけど俺の方見てたから一応挨拶しておこうかなって思って」

「そうですか。随分顔色の悪い方でしたね。緊張でしょうか」




 彼は学生のようだし多分緊張しているのだろう。どうか良い結果が出るといいのだが。




「勇実礼土さん、3番の通路へお進みください」



 む、呼ばれたようだ。いかん緊張してきたな。大丈夫だろうか。



「いってらっしゃい。くれぐれも気を付けて」

「ああ。ヘマしないようにするさ」



 そういって俺は前に出て名前を呼んだ職員の元へ行った。


「勇実さんでしょうか。番号の提示をお願いします」

「これでいいかな」

「はい。結構です。では3番の通路へお進みください」

「ああ。ありがとう」



 3と書かれた番号の通路へ行く。いかんだめだ。緊張をほぐすためにもう一個食べよう。そう思い懐から超大玉チョコボールを取り出した。個別包装されているのだが、俺レベルになると取り出す際にビニールを魔法で消滅出来るため、握った時点で既にビニールは消えている。無論チョコを溶かすような愚かな真似はしない。


 チョコボールを口に運ぶとなぜか強い視線を感じた。目線だけを向けると何やら若い女性のようだ。それにしても今日はお菓子を食べるたびに見られるな。あれか? 何1人だけお菓子食ってんだって事だろうか。



 通路を進みながら咀嚼し食べ終えた俺は少し広いスペースにたどり着いた。そこには1人の職員が既に待機しており、何やら大きな機械が設置されている。ガラスケースの中に10個の綺麗な石が1列に並んでいる。石の大きさは大体野球ボールくらいの大きさだ。それが僅かに宙へ浮いている。



「番号の提示をお願いします」

「はい」


 そういってスマホを出した。バーコードのようなものでスマホに移っているものを読み取ると俺の情報がモニターに表示される。



「えーっと勇実礼土さんですね。失礼しました、外国の方かと思いましたが日本国籍なんですね」

「ええ。それで俺はどうすればいいですか」

「はい。まずは座ってください」



 そう促され俺は椅子に腰を下ろした。



「まず。勇実さんの霊力を調べます。ここでは霊力の強さを調べるのが目的です。測定するのは2つ。強さ、瞬発力です。いいですか」



 そういうと職員が機械の前に移動した。そこには手の形に窪んだ板のようなものがある。



「ここに手を置いて下さい。そしてこの台座に霊力を流して頂きます。まずは見ていて下さい」



 そういうとその窪みに職員は手を置いた。



「おお。すごい」

「あ、この機械は初めてみましたか? これは霊石と言って霊力に反応する特殊な鉱石です。うっすら光っているのが分かりますか。これは霊石が霊力に反応している時に起きる現象です。そしてこの台座に一度流します。すると」



 宙に浮かんだ霊石が回転した。それも職員に近い方から順番に回転している。だが全部が同じ回転をしている訳じゃない。一番手前の石は1周したようだが、2個目の石は半回転程度、さらに奥はもっと回転が少なくなっている。大体5個目くらいで石が動かなくなったようだ。



「このように霊力に反応して石が回転をします。簡単でしょう? 霊力が強ければより多くの石を、また回転する速度で霊力を放出する瞬発力を測定します」

「質問してもいいですか」

「もちろんです。何でしょうか」



 ようは石を回転させるだけのようだ。思ったより簡単で助かった。なら確認しておくのは1つくらいか。



「俺はランクⅤを目標にしているんですが、ランクⅤだとどの程度回転させればいいんでしょうか?」

「お、それは大きくでましたね。でも申し訳ない、この大きさの霊石ではランクⅣまでしか測れないんですよ」

「え、そうなんですか?」

「はい。ランクⅤ以上の可能性がある方は2次検査といってさらに大きな霊石で検査をします。ランクⅣの方であれば10個全部を回せますからね」

「おおーなるほど。ではランクⅥとかⅦだったらもう爆発させたりするんですかね」

「え?――はっはっは。そうですね。もうそれくらいいっちゃうかもしれないですね。ぜひ見て見たいものです」



 それを聞いて俺は大いに安心した。なるほどしなきゃいいんだな。ふふふ、どうやらここで漫画を読んで予習していた知識が役に立ったようだ。俺は知っている。この手の検査で大体主人公は爆発させたりするものだ。まさか俺の質問にそんな意図が含まれていたなんてこの職員も思うまい。よし今回の測定での俺の目標は全部を回す事である。



「ではさっそくやってもいいですか?」

「はい。もちろんです。ではどうぞ手を」



 俺は軽い気持ちで台座に手を置いた。




「ではどうぞ」

「はい」



 俺は指輪に命令を下した。少しだけ霊力を開放しろと。






 その瞬間――10個すべての石が




「――は?」


 


 もう霊力を放っていないというのにまだ回転している。というか止まる気配がない。まるでベーゴマを見ている気分だ。



「ふぅ緊張した。これでとりあえず最低でもランクⅣはいけそうですね。これ止まるまで待っていた方がいいですか?」



 そういって職員を見ると顎が外れそうな勢いで大口を開いて固まっている。



「あの――」

「え、ええ。ちょっとお待ちを。え? なんでまだ回転してるんだ……。停止する気配が一向にないぞ……っていうか同時に回転した?」

「えっとこれ止まるまで待ってた方がいいですかね……」

「い、いえいえ! 流石にこれはここでの検査は無理ですからね。勇実さんはぜひ2次検査へお願いします!」

「わかりました。では失礼します」



 

 いや、よかった。よかった。回っただけだし、爆発もしなかった。このぐらいの力でいけば大丈夫そうだな。

 



 

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