偽りの霊能勇者
第222話 私は帰ってきた
「おい、なんだあれ……近くで撮影とかあったか?」
「さあ。観光客とかじゃね」
「今の時代にか?」
2人は目の前にあるドリンクの機械の前で目の前に落ちたカップの中にジュースが満たされるのを待ちながらある一角を見て話している。
「ほら、外国人観光客向けっていえばスカイツリーとかさ」
「いつの話だよ。あそこはもう上級心霊スポットになってんじゃん」
「そういやそうか。あれだよな。星宿っていうカルト宗教の集団自殺のやつ。あったなぁ」
ピーという機械音がなりプラスチックの蓋が開く。そこから注がれたジュースを手に取りだす。
「他の観光スポットってなんだろうな」
「新しくした東京タワーとか?」
「あれどうなんだろ。見た目は前と変わらないし、噂だと東京タワーにも心霊スポットあるらしいぜ?」
「マジ? ほんとどこにでもあるよな。そうそう知ってるか? 最近出来た心霊スポットなんだけどさ」
そういって2人はジュースと幾つかの本を持って奥へ去っていく。僅かに視線は窓側のスペースに座っているある集団を見ながら。
「――どっかのモデルかな?」
「いや、有名なゴーストハンターかもしれないぜ? ほら最近結構被害が出てる心霊スポットあるっていうしさ」
歩く人々が皆足を止め、思わず視線を追ってしまう。明らかに異質としか言えない空間がそこに広がっていた。
「なるほど、興味深いですね。挿絵だけの本というのは初めてみました」
「おい、
「ここは大切な巻なのです。ゆっくり読ませて下さい、
「オーメンは探したけど1巻しかなかったんだ。だからアタシもこの死神の話を読んでるんだよ」
そういうと赤い髪の少女は立ち上がり、金髪の女性の後ろに回り、顔を寄せる。
「一緒に読もう。な?」
「嫌ですよ。最初からじゃないですか」
「いいだろ? 読もうよ!」
肩を揺すられ、金髪の女性は大きくため息をつき、最初の1ページに戻った。
「おお! 話が分かるじゃないか!」
「はあ。まったくこの子というのは……」
椅子の後ろから赤い髪の少女は、肩を抱き、さらに顔を近づけて一緒に読み始めた。その光景を見ていた他の人々は思わず息を飲む。2人は絶世の美しさを持っている。そんな2人が仲睦まじくしている光景に見惚れていた。
「あの――お客様……」
恐縮した様子で黒いエプロンをした1人の店員が近づいてきた。
「はい、何か?」
それに反応したのは銀髪の男性だ。何故か幼児を背中に抱いている不思議な光景であるが、立ち上がった男性は身長がかなり高く、またその整った容姿も相まって凄みがある。日本語が通じる事に僅かに安堵した店員は勇気を振り絞り、さらに言葉を続けようとする。
「え……っとですね。ほ、他のお客様もいらっしゃいますため、もう少しその……お声を小さくして頂けますとですね……非常に助かりますといいますか」
「はあ……なるほど――」
そういうと銀髪の男性は鋭い視線となる。それがあまりにも様になっており、店員は思わず視線を床に落とした。怒らせてしまったかもしれない、そう思ってしまうが注意しなければならないため勇気を振り絞ったのだ。だがその判断は間違えだったのだろうかと考え始めた所でまた男性から声がかかった。
「申し訳ありませんでした。すぐに撤収しますね」
「へ?」
思わず顔を上げてしまう。するとそこにはかなり困ったような顔をした男性の顔があった。
「ほら、もう帰るぞ」
「ちょっと待て、まだ読み終わってない!」
「そうです。ここには国立図書館にも劣らない蔵書があります。ここで時間を使う事は決して無意味なものではなく……」
先ほどの2人の女性から非難の声があがった。だが彼はそれを無視して立ち上がり片づけを始める。
「撤収だ。これ以上迷惑をかけてどうする。まったく久しぶりに帰ってきたのに、結局1日満喫で過ごしちまったな」
そう言って駄々をこねる女性陣を無視し、会計を済ませた。
「妙な気分ですね。知識としては理解しているはずなのに、こうして日本の街を歩くととても新鮮です」
走る車、高層ビル群に包まれた街を歩く。あの世界になかった喧騒や人の多さ、そしてこのじめっとした暑さは少し懐かしい気分になる。
「ねぇ。アタシたち何か見られてるよね?」
途中コンビニで買ったポッキーを咥えながら音夢は俺に質問をしてきた。
「気にすんな。何ていうか俺たちの見た目ってのはどうやらこの国とは違うみたいでな。そのせいか珍しがって見てくるんだ」
「ふーん。まあアタシももう人間になっちゃったみたいだし、皆と一緒ならいいんだけどさ」
そういうと自分の耳を触る音夢。嘗てデュマーナと呼ばれていた彼女は元異世界の魔王である。魔人と呼ばれる種族であり、その特徴として長い耳、褐色の肌が特徴的だったのだが、今では普通の耳になっている。
「見られているといっても忌避の目で見られている訳ではないようです。どちらかというとこれは――」
そういって愛棣は少し考える仕草を取った。そして俺の方を見て薄い笑みを浮かべる。
「ねぇ礼土。随分モテたんじゃないんですか?」
「何言ってんだお前は」
「だって通りすぎる女性の視線は全部貴方に向かっていましたよ」
「日本は黒髪が基本だ。銀髪が珍しいんだろ。っていうか多分、背中の
背負っているというより、しがみつかれているという感じだがな。まあ視線は前からあったし今更気にしても仕方ないだろう。それよりはまず帰宅しよう。まさか転移先がまた満喫だなんて思わんぞ。
「スマホもないから栞や利奈に連絡もできないしな」
「確か、一緒に働いている方々だったかしら?」
「ああ。といっても事務仕事がメインだけどな」
そうして歩き、とある家電量販店の前を通った。壁に液晶モニターが埋め込まれており、ニュースが放送されている。
「へぇこれがテレビか! 面白いな」
「そうですね。帝都にもない技術です」
そういって音夢と愛棣が立ち止まりテレビを見る。内心ため息を吐きながらも仕方ないかと諦めた。実は先ほどからこうして何かあるたびに立ち止まっている。知識として叩き込まれているが、やはり目で見るのと知識で知っているでは色々と違うのだろう。俺の時はあまり気にもしなかったけど、普通はそうなのかもしれない。
『次のニュースです。霊界領域となったスカイツリーを取り戻すため、総勢10組のゴーストハンター達による奪還作戦が行われました。既に彼らは領域内へ侵攻しており帰還を待つばかりとなっております。さて、この件に関して第Ⅳ級霊能者である松重悟志さんに来ていただいております。松重さんよろしくお願いいたします』
そういうとカメラが振られ眼鏡を掛けた若い男性の姿が映った。
『ええ。よろしくお願いします。今回のスカイツリーの霊界領域。通称”空塔域”ですが、今回3回目の攻略という事もあり、いよいよ国際心霊機関IPOより領域難度はⅥと発表されました』
『Ⅵですか。それはまた随分高い数値ですね』
松重という男が話した内容にキャスターが驚いている。
『はい。難易度は非常に高く無事除霊が出来るか分かりません。少々長期的な攻略となるでしょう。既に近隣住民にも近寄らないようにと警察や自衛隊も動いていると聞いております。過去2度の失敗により内部にいる悪霊の強さは高まっております。若者の中では霊界領域の事を心霊スポットと昔の呼び方を続けるものもおりますため、未だ野次馬感覚で近づく者も多く、それがより悪霊の強さを引き上げてしまっています。そのためメディアを通じて少しでも危険性を理解して頂ければと思います』
『そうですね。
は? なんぞこれ?
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第3章になります。
方向性がまた随分変わりましたがお付き合い頂けますと幸いです。
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