第221話 再会

「む、ここはどこだ?」



 記憶が混在している。カリオンたちと話した後、変な不味い薬を飲んでからの記憶がない。



「それにしても、ここどこなのだ」



 大きな湖があり、周囲には森が広がっている。夢のような、不思議な気分であるがそのまま歩いていると見覚えのある風景が見えてきた。



「あれここって――」



 間違いない。イサミと遊んだあの湖だ。魔大陸からどうやってここへ来たのだろうか。そう思っていると後ろから人の気配を感じた。



「ぬ、誰だ」



 振り返る。そしてそこにいる人物を見て驚いた。



「よお。ネム。久しぶりだな」

「イサミじゃないか!」



 驚いた。もう会えないと思っていたからだ。これは嬉しい再会だ。



「どうしたんだ。こんな所で!」

「何言ってんだ。俺とお前の勝負は終わってなかっただろ? いい加減そのTシャツを返してもらうからな!」



 そういうとイサミは私が来ている可愛い服を指さした。相変わらず私の服が欲しいとはな、この変態め。だが挑まれたからには逃げるわけにはいかない。



「いいだろう! それで今回はなんの勝負だ?」

「そうだな。息止め、水切り、鬼ごっこときたんだし、よし。あっち向いてほいってのはどうだ?」



 知らない遊びだ。だが何となく面白そうな気がする。



「よし。それでいいぞ。ただ遊び方を教えてくれ」



 イサミが話した遊び方は結構単純だった。まずグー、チョキ、パーというものをだす。これはそれぞれ相性があり、同時に出して相性が良い手を出した者の勝ちとなる。その後、あっち向いてほいという掛け声と共に勝者が指を振る。その方向とは違う角度に敗者は顔を向けなければならない。同じ方向を向いてしまったら負けという事だ。



「いくぞ。じゃんけんッ――」





 握った拳を前に突き出す。イサミも同様に拳を握ったまま出しているようだ。なるほどつまり相手はグーという事だ。なら私は途中でパーに変えればいい。イサミは3分の1で勝てる運が左右する遊びだと言った。しかし愚か者め、この私の動体視力を侮ったな。




「「ポンッ!!!」」




 私はパーを出した。しかしいつのまにかイサミの手はチョキに変わっている。



「な、なんだと!? ちょっと待てお前さっきまでグーだったよな!?」

「あっち向いて――」



 イサミの指が顔に向けられた。まずい次の段階へ移行している。私は指先に視線を集中した。一瞬でも見逃してはならない。イサミの指が僅かに左へ向く。馬鹿め。なら私は右へ向くだけだ。



「ほい!」



 その掛け声と共に私は右へ向いた。しかし――。



「ば、ばかな。どうして……」



 イサミの指は私の顔と同じ方向へ向けられていた。まさか私の顔が動いた瞬間に軌道を修正した? 馬鹿な、アタシは音を置き去りするほどの速度で振り向いたんだぞ?



「ぐぐぐ。やるじゃないか。だが今のはあれだ。アタシがしっかり遊びの内容を把握していなかったからだ!」

「ほう。負け惜しみですかぁ?」



 むかつく。この顔はむかつく。ニヤニヤしながらアタシを見て! 絶対負かせてやる!



「もう一回!!!」

「いいぜ。何度でも来なっ!」




 

(何が運で左右する遊びだ!)


 あれから何度じゃんけんをしただろう。アタシは全敗している。そこでこのじゃんけんの本質を悟った。これはイサミが最初に言った運が左右するなど嘘っぱちだ。この遊びの本質は相手の出す手を見極め、いかに自分が有利の手を出すか。その刹那の見切りを行えた方が勝者となる。腹が立つことにイサミの動体視力はアタシ以上だ。風圧で周囲の木が吹き飛ぼうが地面が割れようが気にせず、本気で挑んでいるというのに涼しい顔で常にアタシより有利な手を出してくる。



「んがぁあああ! 次! 次で勝負だ!!」

「はっはっは! いいとも、そうだな。かくれんぼでもやるか?」



 かくれんぼ。これはアタシも知っている。よく1人でやっていたからな。



「見つからないように隠れればいいんだろ?」

「ああ、そうだ。ただしいくつか縛りを設けよう。まず1つ。魔力探知は使わない。使ったらすぐだからな。あくまで自分の五感を頼りに探す、どうだ」

「ああ。問題ない」

「よしじゃんけんで負けた方が鬼だ。いくぞ! じゃんけん――」

「ちょ、ちょっと待て! もうじゃんけんは「ぽん!」ああああ!?」



 咄嗟にグーを出しアタシは負けた。


 

「くっそ……」

「んじゃ目を瞑って60秒数えてくれ。その間に隠れる」

「むうううう! 絶対見つけてやるからな!!!」




 そうして目を瞑り60数を数える。少々早く数えてしまったが問題ないだろうと思い目をあけた。



「……あれ」




 目をあけるとそこには何もない。ただ暗闇が広がっている。イサミはどこへ隠れたのかとも思うが、これが異常な状況だというのは流石に理解できる。



「おい、イサミ!」



 一応呼びかけるが反応はない。魔力も感知できない。誰もいない。――いや何かいる?




「おーい」

【君は幸せだったかい?】



 ん? この声ってヨグ?



「ヨグか! 久しぶりに声聞いたかもだな、どうしたんだ?」

【君たち魔人は世界から弾かれ孤立していた。私は君の同胞だから住処に住まわせることを許可した】

 


 それは知っている。生まれてすぐ魔大陸へ捨てられた私は物心がついた時にはヨグのいる迷宮へ住むようになった。その後くらいにたくさんの魔人が連れたカリオンやファマトラたちが現れて、アタシがヨグにお願いして皆を住めるようにしたのだ。


 

【親に捨てられ、孤独だったデュマーナに少しでも友が出来ればと期待していた。だが実際は違っていた。生まれながら強大な魔力を持ち、幼いながらも既に魔王オルダートに匹敵する力を秘めていた君を誰もが避けた】

「なに、そうなのか?」


 本気で遊ぶとヨグの住処が壊れるから全力を出したことがなかったのだけど、みんなから妙に避けられてたのってそれが理由なのか。



【君に魔王の力が継承されたのは必然だった。あの時の魔人は出来るだけ強い魔王を求めていたからね。しかし魔王となり、全盛期のオルダートの2倍以上の強さを持つ君をも超える人間がいるなんて思いもしなかったけど】

「そうか、やっぱりイサミは強かったか」



 あれで勇者じゃないってやはり何かの詐欺じゃないか。湖でのことを思い出す。あの時イサミの強さは大体理解していた。恐らくアタシが魔王の力を使い、本気で戦ったとしても勝てる想像がまるで付かない。そう考えながらも笑みが漏れる。



【デュマーナ。君は幸せだったかい?】



 繰り返される同じ質問。そうなってくると鈍いアタシでも薄々分かり始めた。恐らくこれは夢だ。アタシはあの時死んだのかもしれない。



「ねぇ。アタシは死んだの?」

【いや死んでいない。だがどこかへ連れて行かれそうになっている】

「そっか。ならいいかな。生きてさえいればそのうちまた会えるでしょ」



 そういうとアタシは暗い道を歩き始めた。今なら何となく分かる。多分このまま進めば違う所へ行ける気がする。



「あ、そうそうさっきの質問だけどね」



 アタシは満面の笑みを浮かべて言った。



「今は幸せかな? 友達が2人出来たし!」





【――そうか。なら安心だ。どうかこの先に更なる幸せがある事を祈っているよ】

「え? ヨグは来ないの?」

【……一緒にいてもよいのか】

「何言ってんの。アタシたち友達でしょ?」




 暗い闇が晴れていく。



【ああ。そうだな。私もそちらへ……】

 





 





 目が覚めた。頭が痛い、突然襲われた頭痛に苛まれながら身体を起こす。そこは小さな部屋だった。目の前にがあり電源が付いている。

 


「あれ、ここって――ああそうか。満喫か」



 妙な知識が頭の中にある。何故かここがどこだか理解できるのだ。地球、日本、その漫画という書物とインターネットを愉しむ場所のはずだ。アタシは手元にある鞄の中を漁ると身分証があった。



「勇実音夢ネム?」


 良く分からないが、これがあればここで生活できるそうだ。でもまずは折角だし漫画を読んでみよう。そう思いドアに掛けられていた毛布を外して外へ出る。そこには壁一面に漫画が並んでおり、どれも面白そうなものばかりだ。



「えーっと、施術士オーメン? 変なタイトル。これ読んでみようかな」



 そう思い自分の与えられた部屋に戻ろうかと思った時だ。向こうの曲がり角から3人の人物が現れた。銀髪の男性と金髪の女性、そして銀髪の幼い子供だ。なぜ、どうして、など色々な感情が湧いてくるが、思わずアタシは駆けだす。



 狭い通路を走っていくと向こうもアタシに気付いたようだ。随分驚いている。どうやら今回の勝負はアタシの勝ちのようだ。




「礼土! 捕まえた!」




ーーーー

これにて異世界編は完結となります。

お付き合いいただき、ありがとうございました。

3部は早ければ今週中に投稿するかもしれません。お待ち頂けますと幸いです。

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