第219話 終焉
「レイドさん! これは君の仕業ですか?」
地面とも呼べないまるでガラスの上のような場所で立っているとミティスがやってきた。どうやらうまく巻き込めたらしい。かなり気張って魔力を使ったからうまくいって本当によかった。
「ああ。そうだ。もう少しで全部終わる。そっちはどうだった?」
「どうもこうもありません。やはり読み通り仲間である魔人たちも巻き込んでいました。やはり天龍の復活はすべての魔人を巻き込んででも人類を滅ぼそうとする悪意によるものだったのではないかと思います。それよりここは? それにあの生き物たちは……」
落ち着かない様子でミティスは周囲を見渡している。気になるのも無理はない。なんせ上空に鷹が飛び、すぐ下にエヴァンジルにも匹敵する巨大な魚が泳いでおり、ケスカとじゃれている子熊がいるのだ。
「そういう魔法なんだ。ほらあれ」
そういって俺の視線をミティスは追っていくと、そこには声が枯れ、割れた爪をさらに頭に食い込ませながら声にならない絶叫をしている年老いた魔人の姿があった。目に光はなく、膝から崩れ落ち、痙攣している。
「余程いやな地獄をみたんだろうな。まあどうやらフルニクをやったのもあんたみたいだし因果応報ってやつだよ」
そう言って魔法を放ち跡形もなく消し去った。
「で、もう目は覚めたんだろう。確かカリオンって名前だったか?」
そういって視線を移すと銀髪の魔人が項垂れたように座っている。
「レイドさん。彼にも何か魔法を?」
「いや逆だ。あれが天龍エヴァンジルの心臓にされていた――ええっと魔王って事でいいのか?」
「魔王ですって?」
警戒するミティスをよそに俺は腰を下ろし力なく項垂れているカリオンを見つめる。
「私は魔王じゃない。いや、そもそも純粋な魔人ですらなかった……まさか母上が人間だったなんて――」
結局天龍をこの領域に隔離した後、魔力が足りず勝手に自壊していった。そうして最後に残ったのは死にかけの状態だったカリオンだけだ。どう考えても助けられない状況だったため仕方なく俺はケスカに頼み血を与えて貰った。一度適合したためかすぐに身体は再生を始めた。その後あの老人の記憶から考えるに天龍を作る素材に彼自身の細胞も随分移植していたようなのでその影響もあってカリオンはあの老人の地獄を見ていたのだろう。
「さて色々悩んでいる所悪いが聞かせて貰うぞ。ネムについてだ」
「ネムだと? 誰だそれは」
「ん、そういやネムってのは偽名だったか。デュマーナだ。詳しく話せ」
「それは構わないが私も詳しくはわからん。あれは――」
そうして淡々と語りだしたカリオンの話を聞きある程度状況は掴めた。恐らくネムは神のいるあの場所へ連れて行かれている途中なんだろう。当初あの爺も言っていた。眠りさえすればこの管理領域に連れて行けると。という事は既に神の手で何か手を下されている可能性が高い。
『おい糞爺。ネムを勝手に殺したら俺がお前らを滅ぼすぞ』
割と本気で念を飛ばしたが届いただろうか。
「色々分からないことだらけですが、要約するに私が相手にしていたあの赤い髪の魔人が本来の魔王という事ですか?」
「ああ。そうだ」
「――ではあの魔王も同じ魔法にかかっているのですか?」
そうして向けられた視線の先に黒い闇の塊が佇んでいる。僅かに見える魔人としての部分は既にほとんどなく身体のほとんどを闇が覆っている状況だ。
「ああ。一応逆のものを見せているはずだ」
「先ほどの話から推察するに地獄の逆という事ですか」
「多分だけどな」
この領域に隔離してもネムの消滅は完全に防げない。時間を戻せば或いはと思ったがそれも無理だった。ならせめて安らかな夢を見てほしいと思い同様の魔法にかけているのだが――。
『ああ。そうだな。私もそちらへ……』
そのような声が聞こえ、ネムは消えていった。地獄の反対は天国とよく言われる。だが天国なんて俺には想像できない。だったらせめてネムが幸せだと思うそんなものを見せられたのならよかったのだが。
領域を解除する。そこには荒れ果て殆ど崩壊している魔大陸が残っていた。
「貴様ら人間の勝ちだ。もう私たちに光はない」
「何を言っているのですか。これからが大変でしょう。まずは救助から始めなくてはいけません」
そういうとミティスは帝国と通信を始めながらその場を離れていった。そんなミティスの様子に呆けているカリオンに話しかける。
「ミティスは魔人の治療と保護のために帝国へ連絡をしている。お前も適当に休め。ああ一応言っておくがお前の魔法はもう使えない」
事前に確認した。ケスカは血を与えた相手の肉体を作り替える事が可能らしい。以前俺を襲ってきたあの冒険者3人組にした時と同じだ。現在のカリオンはケスカの使徒となっている。そしてその時にこいつが使っている魔法が使えない身体に組み換えさせた。悪いと思うがまぁ命があるだけマシだと思って貰うしかない。
「なに? いや待てどういう事だ。いや魔法の事じゃない。治療と保護だと?」
「ああ。これは皇帝も了承している。というかさせたから安心しろ。それにもう二度と魔王と勇者は現れない。ならせめてこれからは隣人となるべきだと思ってな」
「隣人だと?」
「そう隣人だ。同じ世界で暮らすなんだったかな宇宙船地球号の仲間っていうんだっけ? いやでもここ地球じゃないか。とりあえずただのエゴだと思って受け取っておけ。お前たちは負けたんだ。なら勝者の意思に従う。そう考えればまだ受け入れられるだろうさ」
力が抜ける感覚を覚える。指先を見るとその一部が消え始めていた。っていうかもう始まったのか。せっかちすぎるだろうに。
『少し止めろ。お前たちの尻ぬぐいをしなきゃならん』
そう念じると消失が止まった。なるほどちゃんと聞いているわけか。そう少しだけ感心し通信用の魔道具を取り出す。
「アーデ。準備は?」
『出来ているわ。もう魔大陸の沿岸部にいるもの』
「よしすぐに移動する。集めておいてくれ」
そう言って歩き出すと後ろからカリオンが呼び止めてきた。
「待て、どこへいく?」
「帰るんだ。一応爺の依頼はクリアしているはずだしな」
そういって俺は飛び去った。
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