第211話 開闢の宙5
「ここで大丈夫か?」
あの後、アーデを帝都近くまで連れて行き、俺は魔大陸へ行くことを決めた。どういう状況か分からないが、あれも魔人の仕業なのだろう。まずはあの龍を仕留めた方がいいと思ったからだ。
「はい。私はここで避難しております。レイド。どうか」
「ああ。行ってくる」
そういって飛び立とうとした瞬間、背中に何か重いものが乗った。
「レイド。ご飯」
「ぬ。ケスカか。そういやさっきは無理やり置いて行っちまったからな。ほら食え」
「うまうま」
そうして下ろそうとしたんだが、張り付いた様に背中から降りず、俺は仕方なくそのまま連れていくことにした。まあ何があっても大丈夫だろ。そう諦めて俺は飛び立った。そうしてしばらく飛行していると何か魔力を感じる。戦闘をしている?
無視するか迷う。だが念のため様子を見に行くか。そう決めて俺は僅かに感じる魔力の発生源へ移動した。
「なんだ。取り込み中か?」
どうやら死にかけの魔人と黒髪の青年が戦っていた。どうやらほぼ決着間近だったらしい。邪魔せず放置しようと思ったが聞こえてきた話から察するに例の浮遊大陸の魔法をかけた張本人のようだ。
「あん? あんた誰よ――ってその銀髪……あはッ! カリオンが言ってた異常存在ってあんたの事ね!」
「人を異常者みたいに言わないでほしいな」
誰やカリオンって。俺は知らんぞ。というか妙な気配を感じる。どこか覚えのあるような、懐かしく嫌な思い出が彷彿とする魔力というか気配というか。
「ひゃはは。あんたを見つけたらすぐ殺せって命令なのよ!」
そういうと俺に向かってボロボロの魔人は手を伸ばしてくる。
「まずい! そこの人、彼女は重力魔法の使い手だ!」
黒髪の青年がそう叫ぶと俺の周囲が何かに押しつぶされるように重圧を感じた。どういう訳か周囲が僅かに歪んで見える。これは――。
「ひゃははッ! 100倍の重力でまずは海に叩き落して――落として……なんでまだ飛んでいられるわけ……?」
俺は少し感動していた。これが漫画などでよく見る重力魔法! あの野菜人の戦士もこの重力の中で最初は修行していたはずだ。これは中々面白い。逆に軽く出来たりするんだろうか。ただ気になる。
「なぁ。それだけか?」
「はぁ!?」
もっとあるだろう。重力魔法なんだ。例えばブラックホール作るとかさ。重力球を作って全部をそこに吸い寄せてしまうとかさ。まさか落とすだけなのか? そうじゃないだろ。お前ならもっとやれるはずだ。
「う、ウチを馬鹿にしてるの! 天外魔法の担い手キノルを!!」
「していない。純粋な疑問だ。なぜその程度しかできないんだ」
バリエーションが少なすぎるだろ。それじゃ何もかっこよくない。向上心が足りないのだろうか。このまま観察しててもいいんだが時間もないしさっさと終わらせるとしよう。
「ケスカ。頼めるか?」
「がってんしょうち」
重力魔法の範囲から普通に脱出する。そのままキノルという魔人に近づいた。
「ち、近づくな! 化け物め! いいのか? うちが死んだらあの大陸だって」
「大丈夫だ。それはさっき聞いたからな。もう対策済みだ」
「はぁ? 何言ってやがる。冗談なんかじゃないぞ! よしなら今からあの大陸を――痛ッ」
キノルの頬に赤い線が出来た。それをゆっくり触れ、キノルは自分の血を見ている。
「なに、どういう訳? この程度でうちが怯えるとでも思ってるわけ? だったら――」
「いや、もうお前にようはない」
「意味不明すぎるんですけど。もういいわ。命令だったけどこうなったら――」
そう言いかけてキノルは口を閉じた。そして目から生気が消え、どこか虚ろな表情をしている。思ったより早いな。
「よしご褒美だ」
「わーい」
ポッキーを5本ケスカに渡し俺はキノルに命令をした。
「そのまま大陸をゆっくり海に下ろせ。その後は隠れて待機してろ。もし魔人側から連絡があっても無視しろ」
そういうとゆっくり頷いた。あとは戦いが終わるまで放置しよう。その後に戻せばいい。
「さて次は――」
そういって振り向き黒髪の青年と話そうとした時、俺の顔面に向かって拳が飛んできていた。俺はそれを手で払い、軽く腹を殴る。
「ぐはッ待って、落ち着いて」
「落ち着くのはお前の方だ。いきなり殴りかかってそれはないだろ」
「ち、違うんです。僕はやってない。身体が勝手に……」
「は?」
そうして放たれる蹴りを躱し、少し距離を取った。だが困惑した表情で青年は追撃するように俺へ迫ってくる。
「おいどういう状況だ?」
「わからないんです。貴方を見たら急に身体の自由が効かなく……待って契約? どういう意味だ?」
契約だと? いや待て色々あって忘れてたがこの黒髪って日本人だよな。ってことはこいつは……。
「――お前名前は?」
「ヤマト・クルスです!」
その名前を聞いて俺は苦い顔をした。つまりだ。こいつは。
「――光の大精霊ルクスの契約者か」
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