第202話 けじめ
「なんじゃこれ……お前さんがやったのかい?」
「んなわけあるか。ここの魔人を追い払ったらこうなったんだよ」
あの魔人を逃がし自分の詰の甘さを感じながらキルシウムに戻り帝都へ報告をした。といっても魔人を逃がしたという情けない報告しかできなかったのが悔しい限りだ。
「しかしリオド。お前がこっちに来るとはな。防衛の方はいいのか?」
「ああ。ミティス隊長もいるしお前さんが張った結界もあるし問題はないって判断だ。それにどういう訳か例の魔物の姿もあれから姿を現さないからな」
あの妙な形の魔物か。いないならいないで問題ないのだろう。俺はまた目の前に現れたUFOに気絶しているユイトとユーラの2人を運び込み適当に椅子に座らせた。一応傷もないしただ気絶しているだけのようだし大丈夫だと信じたい。
「おし。例の核は?」
「確かこれだろ」
そういって水晶のような欠片をリオドに投げた。事前にどういうものなのか見せて貰っていたから、猿夢を使った時に破壊させている。
「流石だな。よし戻ろうか、多分継承の儀式も終わってる頃だろうしな」
「ああ。ようやく終わるのか」
「何とかな。どういう訳か隊長殿がしぶっていてな。ただこっちの件が片付いたって報告を上げたらようやく納得したみたいだ」
なんだ。あのミティスって子も勇者は嫌だったのか。そう思って聞いているとリオドは少し意味ありげにこちらを見て少しだけ自虐的な笑みを浮かべていった。
「正直気持ちはわかるけどな」
「そうなのか?」
「そりゃな……
「何言ってんだ。俺は前の代で今は別に勇者がいるだろ」
そういうとリオドは少し首を振ってそのままUFOの方へ足を向けた。
「俺たちの世代だと勇者ってのは1人だけなんだよ」
そのまま歩き背中を向けながらリオドは俺に話しかけるのではなく、独り言のようにそう呟いていた。
どれだけ月日が経ってもあの日を忘れる事はないでしょう。父は自分に厳しくただ寡黙な人だった。私に剣術や魔法を教えてくれた時も言葉の数よりも身体に叩き込まれることの方が圧倒的に多かった。だがそれでもよかった。父に憧れ、父に近づきたく師として仰ぎ、拒否されても懇願し、ようやく師事させてもらえたことが嬉しかった。
国でもっとも強く、何より頼もしい自慢の父。そんな父が食事中に会話を始めた。当時の私は何よりも驚いたと覚えています。食事中に会話をするなんて今までの父では考えられなかった。普段から必要最低限の会話しかしないような父が食事中に話すなんて衝撃の一言でした。
「面白い男がいる。どうやら今度お忍びで帝都へ来ているようだ。陛下に相談し会わせて貰う相談をしている。ミティスお前も来なさい。いい刺激になるだろう」
まったく予想しなかった話に私はただ頷く事しかできなかった。そうして食事をおえて、そのまま父に連れられ近衛騎士が使う訓練場へ赴いた。父との訓練でもたまに利用している場所であり、多くの近衛兵が日々訓練に勤しむ場所だ。しかし。
「――今日は人が少ないのですね」
誰に言うでもなく独り言をつぶやく。数百人規模で訓練が行える広い場所だというのにその日はたった数人しかしなかった。
「来たか、アシドニアよ」
「陛下。この度は儂の我儘を聞いて下さり誠、ありがとうございます」
「よい。とはいえ程ほどにな。お前の力量もよく知っているが相手は子供なのだ」
陛下の言葉を聞き、その場で初めてみる人物に視線を移す。無造作に伸ばしている銀髪の髪、鋭くにらんだような目に固く閉じた口をした無表情の男性。年齢は私よりも一回り年上のようだが、父上やいつも訓練で見かける城の兵の人たちよりも随分若い。
「では勇者殿。時間を貰って済まないがよろしく頼むぞ」
「……ああ。いつでもこいよ爺」
カチンと来る。私より年上だといってもまだ大人でもない、大して偉そうでも強そうでもない奴が私の父になんて無礼な言葉を言うのか。そして次の展開に密かに期待してまう。あそこまで礼儀を欠いた言動をすれば父が必ず激怒するだろうと思ったからだ。
「はっはっは。この儂相手にその物言いは中々の胆力よ」
だが実際は違った。怒るどころか笑っている。いや、あそこまで上機嫌な父を私は初めてみた。そうして父は剣を構えあの男に対峙する。だがその装備を見てまた私は驚いた。なぜなら父が装備している剣は実戦で使用する魔術式を刻み込んだ鍛造魔剣だ。帝国が実戦で使用する武器としては最上位に位置する武器であり、迷宮などに鎮座する魔剣とは違い人造の兵器であるが、それでも通常の武器とは比べ物にならない強さを誇っている。
それをあの父が、子供と変わらない男に向かって構えている。対する男は何も持っていない無手のままだ。馬鹿にしているのかと叫びたくなる心をぐっと抑え、私は心の中で父を応援しようと決めた。精々骨折程度で済むとことを逆に祈ってやろうとさえ思っていた程だ。
だが、目の前の現実は違っていた。
「これは――驚いたな」
一緒に見ていた陛下ですら言葉を無くしている。それだけ目の前の光景が信じられないものだったのだ。
風の刃を纏う事が出来る鍛造魔剣はその重量だけで容易に鉄を切り裂く剣だ。だというのにそれを初手の一撃で簡単に受け止められ、そのまま折られた。属性転化により放たれた雷魔法が直撃しても服に焦げ目すらつかない。しまいには父が契約していた風の大精霊の力を借りた奥の手を出したというのに、ただ腕を振るっただけでかき消された。
父の攻撃を一度もよけず、すべて受け止め、そしてああも簡単に圧倒する。同じ人間だとは到底思えない。帰って上機嫌だった父に言われた。
「いいかミティス。あれが今代の勇者であり、人類の守護者とも言われる生き物だ。鍛えれば超えられない壁はないだろう。だが決してたどり着けない次元というものは存在する。今日はそういった物をお前に見せてやりたかった。どうだ、あの勇者は怖かったか?」
私は首を振った。恐怖はない。あるのはただの闘争心。いつか父の仇を取ろうという思いだけだった。
「はっはっは。お前にはまだ早かったか。――いや大物になるかもしれんな」
そんな楽しそうに話す父の姿が嬉しく、でもそれを引き出している原因があの男だという事が許せなかった。それが何故か遠回しに自分の弱さを指摘されているように感じ、それでも人のせいにしてしまう自分が嫌だった。
「どうしましたミティス様。もうマイト様の準備も出来ておりますよ」
勇者の力。本来であればこれは彼の物なのでしょう。しかしそれを不要と断じた。それは彼の強さなのか、傲慢さなのか分からない。それでも。
「聖女様。申し訳ありません。継承の前にどうしても1つ――心のしこりを解消したいのです」
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