第187話 邂逅

 血の海という表現はよく聞くが目の前の光景はまさにそれだろうなと思う。身体中に浴びた夥しい魔物の血が気持ち悪い。もう少しこの血が魔力濃度が高ければ吹き飛ばせるんだがこれただの血みたいだしなぁ。


「どこの国の方ですか?」



 一応剣を収めてくれたがやはり視線は厳しいままだ。まあ無理もないだろう。逆の立場なら殴って気絶させているかもしれない。空にあるUFOへ視線を向けるとゆっくり下降しているようだ。正直知らない奴と二人きりってなんか気まずいからはやく来てほしい。



「聞いていますか?」

「……ああ。聞いてるよ。でも答えるのは俺の勝手だろ? それともこれは取り調べか何かなのかい?」

「いいえ。違います。ただ貴方ほどの実力者を私は知りません。そうであればどこの出身なのかは気になるものではありませんか」

「なるほど、そりゃそうか」



 そういうとまた沈黙だ。なんか苦手だなこいつ。頼む誰でもいいから早くきてくれ。この沈黙は何かキツイぞ。



「――昔どこかで会ったことがありますか?」

「……は?」



 漫画で見た事がある逆ナンみたいな事を言われた。一瞬何言ってんだこいつと思ったが――いや会った事がある? 確かこいつの今の年齢は20代半ばだったか。もし俺がこの世界で会っているなら少なくとも10年前のはず。その時こいつは10歳程度か。そうなるとわからんな。あの頃になると大分自暴自棄になってた時期だったし。



「おいイサミ! っとミティス隊長?」



 ようやく待ちわびていた声が来たようだ。赤い水溜まりとなった周囲を見ながらリオドとリコ、そしてケスカがやってきた。あいつずっと地面見てるがまさか舐めようとか思ってるんじゃないだろうな。流石に汚いからやめてほしいぞ。



「そちらも無事で何よりです。色々聞きたい事がありますが、一度帝都に入りましょう。それにしても……これだけの魔法は初めてみましたよ、イサミさん」

「そうかい? 聞いた話だとこの程度ならあんたでも出来るんじゃないのか?」

「どうでしょうか。可能か不可能かと言われれば確かに可能だと思います。ただ結果は一緒でもその過程は天地程の差があるように思います。少なくとも私ではたった一瞬で数万の魔物を鏖殺は出来ません」



 謙遜なのかよくわからん。ただ感じる魔力から受ける印象だと確かにネムに近い実力はあるような気がする。そう考えどこか喉に引っ掛かる骨のような物を感じる。さてなんだったか。



 血まみれの魔物の肉体と未だ残り続ける血の上を歩き帝都の入り口へ歩いていく。向かっていくと向こうから軍が列をなして現れた。そして到着しミティスとリオドがそれの相手をしている。俺は後ろでケスカが地面の血を舐めないように見張っていた。



「舐めるなよ?」

「舐めないよ?」


 ホントだろうか。一応信用はしようと思うが念のためポッキーでも渡しておいた方がいいだろうか。そう考えていると1人の男が俺の前にやってきた。



ガタイの良い年配の男。短い髪は綺麗に揃えられているがその顔は妙に疲れている。



「君が例の協力者イサミ殿かな?」

「ああ。そちらは?」

「失礼。私はアベル・ラズルダ。帝国近衛騎士団団長を務めています」


 

 その肩書を聞いて少し自分の眉が動いたのを自覚する。



「それは大物だな。それで何かようかい?」

「ええ。1つ質問を。どうやって外の魔物を倒したのですか?」



 質問の意味が分からない。どうと言われても普通に細切れにしたとしかいいようが――。


「あれは普通の魔物ではありません。それゆえ我らは苦戦していました」

「普通じゃないっていうのはどういう意味だい」

「そのままの意味です。あれは下手に倒すと増えるのです」



 はあ? どういう意味だ。



 その会話をしながら俺は一度振り返る。綺麗な石畳が並んだ帝都の街並みの外。いまだ消えぬ魔物の死体ともいえぬ残骸たち。念のためもう魔力を広げ探知してみたが何か動くような気配が感じない。


「いまいち意味がわからんのだが」

「斬れば2つに分裂します、魔法でばらせばその数だけ増えるのです。そのためどうしても防戦一方になる得なかった。そうしている間に放っておいても分裂し増えて強くなっていく魔物に正直我々も手に負えなくなっていたんです」


 まじか。そんなに面倒な魔物だったの? もう一度見るが特に復活する様子はなさそうだ。


「はい。今までの経験から復活は早くても数分程度で蘇ります。ただ貴方のあの凄まじい魔法受けてから未だ肉片が蘇る気配がありません。恐らくは死んだと見ていいと考えています」


 アベルの話を横で聞いていたリオドとリコは苦い顔をして俺の同じように血まみれの残骸に視線を向けている。そんな中ミティスが口を開いた。



「念のため焼き払った方がいいでしょう。あのまま放置するのはあまりに気味が悪すぎます」

「ええ。既に指示をしております。とりあえず中へ。リオド卿はこの後は?」

「ああ。俺はもう移動する。元々顔を出す予定はなかったんだが、流石に隊長とイサミの橋渡しだけでもしないと揉めそうだったからな」



 素晴らしいぞリオド。よくその考えにいたった。

 

 


「そうか。だがすまない、待ってくれ。少し予定を変更したい。やはりリオドも一度本部に来てくれ」

「何? どういう事だ」

「聖女様から陛下に進言があってな。正直未だ信じられなかったがあの光景を見れば信じざるえない」

「聖女様が?」

「ああ。そうだ。イサミという人物が来れば恐らく外の魔物はとおっしゃっていてね。だからユーラ卿への援軍についても一考出来ないかとあったんだ」




 早速俺を利用してきたか。相変わらずというかなんというか。



「イサミ殿は聖女様と懇意なのかい?」

「古い友人だ――」

「あら。そんなつれないことを言わないでほしいわ」




 随分懐かしい声がする。少し高い声を出すのは相手に少しでも好感を持たせるためだと言っていたっけ。身なりを整えるのも同様で容姿が整っていたり、見栄えが良い方が心象はよい。自分の声や容姿さえ使えるなら利用しようとしていた、そんな懐かしい存在だ。



「久しぶりだな。アーデルハイト」

「ええ。――本当に久しぶりね。レイド」


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