第159話 存在模倣のフルニク4
これは反省しなくてはならない。怒りに任せての行動とは碌なことにならないと以前も学んだはずだというのにまったく俺は成長していないと感じる。
緑色の血液が散乱し何やら人とは違う中身をまき散らした冒険者ギルド内で俺はため息をついていた。ギルドに入り、一番近くにいた冒険者の肩を軽く切って血を流させ確認する。その本来は人から流れない色の血液を見て魔法を放ちすぐにその場にいた全員を細切れにした。ただそこで2つ気づいたことがある。
1つはこの現状の規模だ。はたしてフルニクの街だけに起きている現象なのかと。恐らくだが起きているという前提で考えた方がいいだろう。奴らは勇者を探している。面倒な奴を先に始末しようって腹なのか分からないが、恐らくここ以外でも似たような感じで勇者を炙り出そうとしているんじゃないだろうか。そうなると、今後のことを考えると、奴らの見分け方を確実なものにする必要がある。恐らくこの寄生タイプの魔物がいるのはここだけじゃないだろうからな。そう考えるとある程度実験する必要があるんだが……仕方ない。腹が立つことに、ここにいるのはほぼ間違いなく全部があの魔物だ。精々実験体になってもらうとしよう。
2つ目の問題。これが現状一番の問題だ。そう――魔力が枯渇しそうになっている。理由はまだ魔力が完全に戻っていないのに加減をせず怒りに任せて魔法を使った事が原因だ。もっと冷静に考えれば半分以下の魔力でも十分殺傷出来るというのに、俺は怒りに任せて魔法を使ってしまった。以前なら魔力回復はかなり早かった。だから魔力切れになった事なんてほとんどなかったから正直身体がかなりだるい。
「原因はあれか」
爺が言っていた転移の影響。だが地球へ行ったときを考えると数時間で魔力は戻っていたはずだ。だというのに、魔力を使ったとはいえここまで回復が遅いのはおかしい。
まさかと思うがあれか。地球とこの世界では時間の流れが違うって話だったはず。あの老いぼれ魔王の推測通りなら時間の流れは20倍ほど違うという話だった。これは憶測になるがもしや俺の残りの魔力はまだ地球にあるんじゃないだろうか。それが少しずつこちらの世界の俺に流れていき、最終的に完全な魔力に戻るのではないかと考える。以前の場合はどうだったか。恐らく今の逆だったんじゃないか。俺の身体だけが先に地球へ転移され、俺の魔力だけがこっちの世界に残り、少しずつ地球の俺に魔力が還っていったとしよう。こっちの世界の流れは地球の20倍だったか、なら今回逆の事が起きていると考えられる。
「つまり前の20倍遅いって事なんじゃないか……?」
だとするとどうなる。前は約4時間。その20倍って事は80時間かかるって計算だ。80時間、つまり約3日と少し。恐らく俺の力が完全に使えるようになるのにそれだけ時間が掛かると予想される。いやそう考えるとこの魔力の回復の遅さにも説明が付くな。
ギルドの階段を上り、2階へ。ここはシルバーランク以上の冒険者しか立ち入りが出来ないエリアだ。とはいえ、現状の仮説通りであればそこまで脅威度は変わらないだろう。2階にはまた十数人の冒険者が同じように黙ったまま座っている。俺が来たのを視線で見ると全員同時に立ち上がった。
「とりあえず1日だ。1日魔法なしでやるとしよう。単純計算でも3分の1は回復する予定だしそこまで回復すりゃ問題ない」
「あ、何言ってんだおめぇは」
「暴れてたのはお前だな? とりあえず全員で抑えるぞ」
近くにあったテーブルを掴み一瞬だけ身体に魔力を流して投げた。何人かの冒険者たちに当たった所で近くの冒険者に接近。同じ要領でほんの少し魔力を使い、手刀で首を落とす。緑の血が噴水のように噴き出す中、頭部を失った冒険者が持っていた剣を奪い投げた。固まっていた冒険者2人を串刺しになったのを確認する。
(感情はやはりない。だが連携はしてくるのが面倒だな)
恐らく同類であろう魔物を殺しても怒りを感じる様子もなく、恐怖を感じる様子もない。だがこちらに向かって攻撃する際には連携するそぶりを見せる。2人、剣を握った冒険者が姿勢を低くしこちらに走って迫ってくる。だが魔力を使っている気配はない。いや使えないと考えるべきか。刺突してくる刃を頭を振って躱しそのまま顔面を殴る。首がおかしな方向に折れ、床に叩きつけられる冒険者の握っていた剣をもう一度奪い、もう1人迫ってくる冒険者を撃退しようとした。
「――おっと」
その場を後ろに跳躍して飛来してきたモノを避けた。床に刺さったのは剣。見れば串刺しになった冒険者が持っていた剣を投げたようだ。ただそれだけ。だというのにそれが妙に違和感を感じる。何がとは言えない小さな棘のようなものだ。一旦それを思考の外へ追い出し残りの冒険者たちを倒していった。
「あーくそ着替えがほしいな」
全身に浴びた返り血とそしてその匂いが嫌になる。使っていた剣を適当に放り投げた。やはり俺に剣は向かない。漫画とかで偶に見るがどうすればあんな一瞬で細切れに出来るんだろうか。やはり何か流派を身につけるべきなのか。そんなことを考えながら俺は3階へ向かった。
「貴様か。うちで暴れている馬鹿は」
目の前にいる老人を見る。かつて身体中に覆われていた筋肉も痩せ細り、最後にみた時より随分小柄になってしまった。それが久しぶりにあったギルマスへの印象だった。
「どこのどいつだ」
「あんたは随分俺を嫌っていましたよね」
「名前を言え!」
「初めてあった時も随分そのおっかない顔で威嚇されたっけ」
一方的に思い出を語りながら近づいていく。
「貴様、さては勇者か? そうなんだろう!?」
「懐かしいな。結局あんたは
下の冒険者たちを倒しその亡骸を観察し1つ考えた事がある。
「名前を言え! 儂らは勇者を探しているのだ!」
「最後に会った時、あんたが俺に話したこと覚えてるか? 覚えないよな。パーティから抜ける手続きをギルドでしたとき、お前が話したことだ」
「名前を言わぬなら血を寄越せ! それではっきりする!」
「俺は覚えてるぜ。『レイド。少し戦いから放れろ。戦う事以外に生きる術を探せ、趣味でもなんでもいい。こういうことはお前には向いてない』――だから探したぞ。俺の趣味だ」
すぐ傍まで接近した所で腰に差していたナイフを抜き俺に向かって走ってくる。その足は遅く、どうしても年齢を感じざる得ない。
「血を、寄越せぇぇ!!!」
「漫画っていうんだが面白いんだぜ。色々な知識も覚えられるし中々出来た書物だ。これも医療漫画って奴で思いついた魔法だ」
そういうと俺は痩せ細ったギルマスのナイフを握っていた腕を締め上げ、空いた手でギルマスの身体に手を当てる。この魔物はどういう方法か不明だが体内に寄生し中身を喰って成長しているようだ。脳を一部残しそこから人格をトレースしているのだろうと予想する。その場合なぜ過去の記憶まで再現できないのか不明だがそこは一旦考えなくていいだろう。
重要なのは中身がほとんどこの寄生蟲のような奴に喰われていうという部分だ。だからこの方法なら中身を把握できるんじゃないかと考えた。
X線撮影、レントゲン撮影ともいわれる。医療漫画でよく出てくるもので、気になりネットでググった事がある。どうやら電磁波の一種で骨や金属などの密度の高いものは透過しないが、皮密度の薄いものは透過する性質を持つ。電磁波についてはスマホを散々触っているから何となくどういうものか理解した。そこから気になってさらに調べてみるとどうやら電磁波ってものは光の一種らしい。電子レンジも同様のようだ。なら再現できるかなと思い少しだけ遊んだことがあった。もっとも卵を一度破裂させてからは封印した技だったんだが。
「人にやるのは初めてなんだがな……失敗したら許してくれ、ガムト」
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