第151話 何でもないただ一人の
「聖女?」
「聖女様だ。敬称をつけなさいレイド。お前は勇者に選ばれたのだから」
エマテスベル王国内にあるラクレタ教会。今代の勇者に選ばれたレイドが住むこの国に先日より聖女が来国したという話を受けて、大賢者ヴェノ、そしてまだ幼いレイドの2人は教会に訪れていた。
ラクレタ教会は各国に点在しており、この世界の人類を救うための勇者を支え、共に力となるために存在している。歴代の聖女は皆、神に選ばれた存在であり、そのために神の声を神託として聞く事が出来る唯一の存在だ。
歴代最年少の勇者として選ばれたレイドは腕に勇者の証である刻印が現れた時、義父であるヴェノは大いに頭を悩ませた。才能は間違いなくある。まだ幼いながらも既に自分を超えるだけの力を内包していると確信していた。だがまだあまりに幼すぎる。しかも既に魔王ヘンレヤの動きは活発になっており、各国連盟での連合軍を形成するまでに至っている。もう何度目かになる人魔大戦の勃発。それがすぐそばまで来ていた。
「なあヴェノ。聖女って強いのか」
「だ、か、ら。聖女様な……まあ今代の新しい聖女様も随分幼いらしいからな。案外いい友達になれるんじゃないのか」
死ぬと次代に引き継がれる勇者とは違い、聖女は神が選ぶため、その代で長く聖女の任を全うする者もいれば、10年もしないで役が終わる者もいる。この辺りは法則性もなく神の気まぐれとしかいいようがない。
「ようこそいらっしゃいました。さあどうぞ」
祭服を着た男に案内され、白で統一されたある部屋に通された。
「私はここにいる。聖女様に失礼がないようにな」
「わかった」
「本当に頼むぞ?」
「任せろ」
軽く頭を押さえているヴェノを横目にレイドはその部屋の中に足を踏み入れた。真っ白な石で出来た綺麗な床。恐らくそれと同じ材質なのだろう壁と天井。綺麗というより、何もないという感想をレイドは抱いた。テーブルと椅子、そしてベッド。それだけだ。窓もなければ本だってない。何もないただ生きるだけの部屋だと感じる。
「貴方が今代の勇者様ですか」
そんな何もない部屋にレイドと同じくらいの齢の子供が椅子に座っていた。テーブルの上には何もない。レイドの部屋にすらある燭台すらない。
「ああ。お前が聖女か」
散々義父であるヴェノに言われていたが結局そのまま聖女かと質問をするレイド。それに対し何の感情もなく、ただ人形のような表情で目の前の聖女は頷いた。
「はい。今代の聖女を務める事になりましたアーデルハイト・ラクレタと申します」
「アーデ、なんだって?」
「アーデルハイト・ラクレタです」
そう機械的に応える聖女。変な奴だとレイドは思うが、それも仕方ないのかとも同時に考える。
「長いな。アーデでいいだろ。俺もレイドでいい」
「……アーデですか?」
「ああ。その方が呼びやすいだろ」
そうレイドが言うと初めて聖女は小さな笑顔を見せた。
「なんだ笑えるのか。随分つまらなそうな顔をしてると思ったけどそっちの方がいいんじゃないか」
「――そういうものでしょうか。でもそれで相手の心象がよくなるなら使い分けた方がよさそうですね。それよりなぜそう思ったのですか」
突然そう質問されレイドは首を傾げた。
「そうって何がだ」
「つまらなそうな顔をしていると言ったでしょう」
「ああ。なんとなく気持ちが分かるからな。勇者ってものになってから
レイドがそういうと何かに驚いたようにアーデの目が大きく開いた。
「なんだ違うのか」
「いえ――確かに……そうなのかもしれません」
「だろ? 勇者はこんなことをするなとか、勇者ならこうしろとか色々煩いんだ」
「そうですね。私も似たような事は最初言われておりましたね」
「やっぱりな。だったら俺たちが2人でいる時は勇者と聖女じゃなくてさ、レイドとアーデってことで仲良くしようぜ」
そういって笑いかけるレイド。その顔を見てアーデルハイトは少し間をおいてから頷いた。
「ええ。ではそうしましょうか。お互い特別な人ではなく、ただ一人の人間としてこれからも仲良くして行きましょう」
夜中目を覚ます。枕の上に頭を置きながら首を捻り窓を見る。まだ随分暗い。目が覚めてしまった。それにしても――。
「随分懐かしい夢をみたもんだ。――あの鉄仮面聖女のアーデルハイトは元気にしてるかね」
ーーーー
次から本編ですが、予定では3話で終わります。
その後一旦番外編を進めていき、そちらが落ち着いたら本編に戻ります。
https://kakuyomu.jp/works/16817139555547041033
こちらは基本毎日投稿しつつ、状況を見て複数回投稿しながら出来るだけ早めに終わらせて本編に戻る予定です。
よろしければご覧ください。
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