第131話 悪憑きー滅ー11

 マンションの外に出て人目がないのを確認し髪の毛の魔法をかける。光の反射を利用し銀髪の髪の毛を茶髪に変化させた。あのCMと雑誌の件ですっかり元の状態で外を歩くと声をかけられるようになったのでその対処として泣く泣く魔法に頼った結果だった。

 お店で衝動買いした妙にかっこいいサングラスを付けてスマホを操作する。不在着信の部分をタップしてそのまま折り返しの電話を入れた。数秒のコール音の後に男性の声が聞こえた。


『はい、こちら江渕です』

「お久しぶりです、勇実です。着信に気づかず申し訳ありません」

『おお! よかった。勇実さん。今お時間大丈夫でしょうか?』


 名前を出した途端非常に安堵した声色に変わった。この様子だと本当に緊急だったのだろう。


『実は京慈郎にも連絡しようか迷ったのですが、あやつが随分と勇実さんを褒めていたのを思い出しましたので、こうして連絡した次第です。実は仕事を依頼したいのですがよろしいでしょうか? 今回も少々厄介なお話でして正直私も参っているのですよ』

「なるほど、わりました。ではまずそちらにお伺いしますので少々お待ち下さい。ちょうど近くに来ているので5分程度でそちらにお邪魔すると思います」


 実際はまだ自宅兼事務所マンションにいるため数キロ以上離れているが緊急なら仕方ない。


『おお。それは本当によかった。ではお待ちしております』


 通話を切り、周囲の人目をもう一度確認して魔法を使いその場から跳躍した。屋根や屋上の上を姿を消しながら跳び以前一度だけ行ったことがある春興寺の近くまで移動すると路地裏の方に着地。そのまま監視カメラや人目がないのを確認して魔法を解除した。春興寺の前に行くと門の方に以前もあった住職が立って待っていたようだ。


「おお。お待ちしておりました」

「お久しぶりですね。わざわざ待っていただいたようで申し訳ない」

「いやいや、こちらから無理を言って相談しておりますからね。さあどうぞ話は本堂でお話します」



 江渕住職の後ろに続き門を潜って中に入る。すると敷地内で掃除をしている坊主頭の男性に目が留まった。なんだろうかどこかで見た事があるような気がする。


「お気づきになりましたか。あれは以前勇実さんに助けて頂いた杉浦守君ですよ」


 杉浦守。はて誰だったかと考え、すぐに思い出した。以前赤い顔の呪いに襲われていた被害者の中にいた男性だ。ただ俺が到着した時は既に呪い殺される一歩手前だったから気絶していた時の顔しか覚えていないからすぐに気づかなかった。


「あれ以来、ここで修行しながら働いているのです。詳しくは話せませんが人に迷惑をかけた事を随分悔いていたようでしてね。熱心に働いてくださってますよ。話されますか?」

「……いや、邪魔をしたくありませんので」



 実際あの時は彼と一度も言葉を交わしていないのだ。ならわざわざ恩着せがましく話しかける必要もないだろう。元気な姿を見られただけで十分だ。

 江渕和尚と一緒に本堂まで進み、用意されていた座布団の上に腰を下ろした。入ったのは2回目だが、こうした場所に来るのはとても新鮮で周りを見ているのは楽しい。


「さて、どこから話したものか少し迷うのですが聞いて下され」


 そうして江渕和尚が話した内容は以下の内容だった。

 先日、海外の友人から電話が掛かってきたとのこと。名前はダリウスというカトリック神父であり、以前彼が日本へ来た時に、たまたまこの寺へ参拝に来たのがきっかけで交流が始まったそうだ。交流も年に数回季節の挨拶をする程度だったそうなのだが、突然電話がかかってきたという。

 それはダリウスが経営している孤児院で育った子の1人が日本で妙な悪霊に憑りつかれたという話だったそうだ。そのダリウス自身も霊を祓う力があるため日本に来日したらしい。


「それでうまく行かなかったという事ですか」


 俺が呼ばれたという事はそういう事なのだろう。


「はい、その通りです。どうもかなり面倒な霊のようで、その――」

「ん、なんですか」


 和尚が歯に何か挟まったような顔をしている。


「女性にのみ乗り移る霊のようなんです。それも女性の身体を弄ぶような類の霊のようでして」

「……なるほど」


 俺はこの世界で様々な知識を得て、成長していると自負している。だが、そんな俺でもいくつか弱点が出来た。1つはコーヒーだ。もっとも最近は克服し始めているので、まぁこれに関しては時間の問題だろう。2つ目は乗り物だ。一応乗り物酔い止めを飲めばなんとか耐えられるがこれは正直慣れる気がしない。とはいえ事前に対策すればこれも問題はないだろう。

 そしてもう1つ。――最近出来た新たな弱点。これに関してはもう俺自身対処方法が見当たらない。真祖の吸血鬼ですらサンドバックにしてきた俺だが初めてという方法以外、対策らしい対策がないのだ。




 その新しい弱点。それは――。




「許せませんね。そんな女性の身体を弄ぶNTRするような霊がいるとは……」




 ――俺は完全にNTRが苦手に、いや嫌いになった。ベルセルグンを読んでなぜ俺はあの世界にいないのかと本気で考えたね。俺ならゴッドハンドゥとか絶対倒せるわと何度思った事か。

 今回の事例は具体的には違うのだろうがやっていることは一緒な気がする。かつて勇者だった時代ですらここまで積極的に敵を滅ぼそうと思った事なぞなかったかもしれない。俺はまだ見ぬ霊に妙な闘争心を燃やしていた。

 

 

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