第130話 悪憑きー滅ー10

 チャイムがなり教室にいる生徒たちは一斉に鞄をもって外へ出ていった。それを新任の英語教師はため息をつき黒板に書いた文字を消し始める。なんとか英語の楽しさを知ってほしくて、楽しい授業にしようと色々考えて授業を行っているが、どうしても実を結ばない。

 授業をちゃんと聞いてくれる生徒も当然いる。だが大部分は机に隠れるようにスマホを触り、居眠りをしている生徒の方が多い。付箋や教え方の注意事項を手書きで書いた教科書を閉じて出席簿の上に重ね教室を出た。


「おっと、こら! 廊下を走ると危ないぞ!」

「はーい! ごめんなさーい!」

「はぁ、まったく……」

 

 ちょうど教室を出た瞬間、走り去る生徒が横切ったため少し驚き壁にぶつかってしまった。自分の不甲斐なさに少し落ち込みはするが、こうやって楽しそうに学校生活を送っている学生を見るのは嫌いじゃない。そう思い小さな笑みを浮かべて職員室へ行こうと足を向けた時後ろから声が聞こえた。


「せーんせ!」

「ん? なんだ――ッ!」

 

 後ろを振り向くと先ほど走り去った女子生徒の顔がすぐ近くまで接近していた。可愛らしい顔が目の間にあり少し心臓が高鳴るのを感じた。よく見ればいつも英語の授業を熱心に聞いてくれている生徒だった。


「これ上げるから内緒にして! じゃ部活遅刻しちゃうから! またねー!」


 そういうと女子生徒がポッキーを取り出しその甘いチョコレートの部分を口の中に押し込まれた。そうしてまた笑顔になりそのまま走って廊下を駆けていき、階段へ消えていった。いきなりお菓子を口に入れられたため驚いていた教師は改めて口に入れられたポッキーを取り出して視線を落とす。


「まったく、学校にお菓子を持ってきちゃだめだろ」


 そういうが自分の口元が笑っていることに教師は気づいていない。そうして改めてポッキーを一口食べ先ほどよりも軽い足取りで職員室へ向かう。



「久しぶりに食べたけど、甘いな」






 【Share happiness ポッキー】







「おー!!! これが勇実さんの出たCMですか!」


 テレビの前で馬鹿みたいに騒ぐ利奈を横目に俺は送られてきたポッキーを食べながらCMを見ていた。何度も撮り直しをさせられたのは今となっては良い思い出だ。


「日葵ちゃん、可愛いですね! 生で見てどうでした!? やっぱりオーラ出てます?」

「オーラか……」


 撮影中の日葵を思い出すが終始こっちの目を見ようとしないのは変わらずだった。あのバイザーで視線を隠す様子はやはり暗殺者のようで……。


「……いやオーラなかったな」

「えぇ? ホントですか」


 どこかあきれたような顔をして利奈は俺の横に座り、手に持っているココアを飲んでいる。たまにはこんなのんびりもいいだろう。このCMのせいでますます事務所への連絡が酷くなり取材だのなんだのと良く分からない連絡が多くくる。その辺は全部和人と栞に放り投げ俺はゆっくりお菓子を食べて漫画を読んでいた。正直あの撮影は気分の乗らない仕事ではあったが今は非常に気分がいい。


「勇実さん何見てるんです?」


 そういうと利奈は俺の手元覗き込んできた。なんてだらしない子なんだと思いながらちょうど見ていたツイッターを見せる。


「えーっとなんですそれ。なんか用紙の端に数字だけ書かれてますけど」

「知らないのか? 驚いたな」

「え? 有名な画像なんですか!?」

 

 世界を騒がせたニュースだというのに利奈は知らないという。無知とは愚かという者はいるが俺はそう思わない。知らないと言う事は不幸なだけだ。今まさにハント×ハントのあまりにも希少価値の高いその原稿の欠片がインターネットという電子の海に出現したという奇跡。どう伝えればこの感動を、喜びを伝えられるだろうか。いや数百の言葉では足りないだろう。


「仕方ないね。教えてあげよう。これはとある神が彷徨える我らの元に降臨したという証であり、希望――」

「そんなことより聞いて下さいよ! 勇実さん!」

「そ、そんなこと……」


 思わず肩を落とし脱力してしまう。自分で聞いておいてそりゃないぜ、とっつあん。


「最近学校に変な遊びが流行り始めたんですよ」

「変な遊び?」

「はい。大蛇様っていうこっくりさんの亜種みたいな奴でみんなやってるんですよね。結構当たるって評判で――」


 利奈がそう話し始めると電話がなった。知らない番号だ。一応俺の番号を知っている人は限られている。だが最近色々と周りがうるさい状況のため一旦そのまま放置した。もし要件があれば留守電に入れるだろうと思ったからだ。

 着信が止まり、不在着信になる。そしてしばらくすると予想した通り留守番電話にメッセージが登録された。しばらく画面を見つめ、ため息をついてから留守電のメッセージを再生する。するとどこかで聞いたことがあるような年配の男性の声が聞こえた。


『突然のお電話失礼します。私、春興寺の住職をしております、江渕 誠一郎と申します。実は勇実さんにお仕事をご相談したくお電話を致しました。ただ緊急の要件のため恐縮ではございますが、折り返しご連絡を頂けますと助かります。またご連絡いたします』



 春興寺。確か妙な伝染型の呪いの時に大蓮寺さんから代行を依頼された時の寺だったか。俺はソファーから立ち上がり上着と鞄を手に玄関へ向かう。


「すまん、その話はまた帰ったら聞かせてくれ」

「はーい! 仕事頑張って下さい、勇実さん!」


 


 

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