第97話 赤く染まる9

「スマホの写真、ですか」

「はい、ご覧になりますか」


 俺たちは住職に相談しそのまま本堂を借りて事情を聴く事にした。目の前で胡坐をかいて座っている男、健司がスマホを俺に差し出してきた。話を聞いたところラインという複数の人とやり取りが出来る有名なアプリで作ったグループ内で送られてきたそうだ。このグループに所属しているのは5人。ここにいる4人と亡くなっている一人、直人という男だそうだ。

 その直人が亡くなってラインに赤い顔の画像が回ってきたそうだ。まだ気絶したままの守という青年に話が聞ければいいのだが、今は難しいだろう。


「ふむ、その直人さんって人の死因は自殺なんだでしたっけ?」

「ええ。そう聞いています。ですが自殺の仕方が……」


 ん、なんだ。変な死に方しているのか。


「健司、ここからは俺が話すよ。それにバタバタしてまだ健司達にも話してない事があるんだ」

「おい朝里。そりゃどういう事だ」


 金髪の青年、聡が怪訝な顔で朝里という青年に顔を向けている。どうやらまだ聞くべきことがあるってことか。


「ああ。実はさ、直人が自殺する前の日。俺と直人で会ったんだ」

「……会ってたのか!?」

「うん。相談したいことがあるって言われてな」

「相談事とはなんです朝里さん」


 俺がそう聞くと朝里は少し言葉を溜めるようにして言った。



「最近赤い顔をした男が鏡に見えるようになったって言ってました」

「ッ!! おいそれって!」

「健司達に今起きてることじゃねぇかよ!」

「そうだ、そしてその時写真も見せてもらった。ラインに送られてきた写真とは違うやつだけど同じ赤い顔の男だった」


 少しの静寂が本堂を包んだ。その中で俺は胸ポケットからポッキーを取り出し口に咥えて考える。今回の事件は間違いなく呪いだろう。妙な力がこの人たちについているのは間違いないが霊の姿はない。それこそその直人という男の霊の姿を感じない。という事は――。



「その直人さんから呪が始まりここにいる皆さんに呪いが移ったという事ですかね。まるでウィルスみたいだな。朝里さん、ほかに何か言っていませんでしたか」

「はい――あいつ開業医になるために物件を買ったんです。ただ事故物件だったみたいで必ずそこにある神棚を拝まないとだめだって言われてたらしいんです」


 その朝里の話を聞き、小声で聡が何でそんなヤバイ所の物件に手出してんだとボソっと言っている。それは俺も同感だ。対処できる人なら兎も角普通の人間は霊の対処は出来ない。ならどうするか。簡単だ、近づかないように自衛する。それだけだろう。もっとも自衛していてもどうしようもない場合もあるが。


「なるほど、話から察するにその直人さんは拝むのを怠った。そのあとに赤い顔が見えるようになった。そんなところかな?」

「はい、そうです」


 なるほどね。これまでの話をまとめて考えてみよう。最初の被害者である直人から始まりラインというアプリを通じてこの4人に呪いが感染した。現在呪われているのは守と健司の二人。あれこれって……。



「健司さん。確か守さんが赤い顔の直人さんが見えると言っていたんですよね?」

「え、ええ。そうです。それより俺たちはもう大丈夫なんですよね!?」

「いえ、まだ終わっていません。俺が今しているのはこの周囲を結界で覆い呪いがやってくるのを防いでいるだけです。なのでここにいればこれ以上酷くなることはありません」


 俺がそういうと聡が立ち上がり声を荒げていった。


「待ってくれ! あんた専門家なんだろ! だったらさっきの坊さんが言ってたみたいに呪いを返すっていうのは出来ないのかよ!」

「出来ます」

「だったら!!」

「その代わり

「なッ! ど、どういう事だよ」

「恐らくこの呪いは本当にウィルスのようなものだと思います。正直まだ全容が見えていませんがこの呪いはするんじゃないかと思います」


 これは予想だがある程度確信がある。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。なんだそりゃ……何か根拠でもあるのかよ」

「あります。守さんと健司さんが呪っているものは同じだが少し違う。健司さんはつい最近になってから赤い顔が見えるようになったと言っていましたよね」


 健司の顔を見て言葉を促す。


「あ、ああ。そうだが……」

「恐らくですが健司さんを呪っているものは元々は朝里さんを呪っていたものです。俺が偶然出会った時に呪いを返したため次に健司さんの方へ行ったのでしょう」


 時系列的に恐らく間違いないだろう。厄介なのは呪いが強くなっているという事だ。朝里に最初ついていた呪いはまだそこまで強くなかった。多分順番としてはこうだ。直人がその赤い顔に呪われ死亡。直人を呪っていたものが朝里へ移動。そして守へ移動。俺が朝里の呪いを返したからその呪いは健司へ移動した。


「多分ですが、もし守さんが呪いで死んだ場合、この呪いは3つに増え次は3人を呪う形になるんじゃないかと思います」

「――ッ! なんですかそれは。まるで……」

「マジでウイルスみたいじゃねぇか。呪われたやつがクラスターになって広めてるって事だろ」

「そうです。もちろんまだ憶測ですが、その可能性が非常に高いと思います。だから皆さんは引き続きここにいて下さい」


 俺はそういって立ち上がった。話を聞いて次に行くべき場所もなんとなくわかったからだ。


「待ってほしい! 守と俺はいい。だが聡と朝里はもうここにいる必要はないんじゃないか?」

「正直お勧めしません。聡さんはまだ完全に呪われていないため縁を切ることはできます。ただこの呪いはスマホ経由で移動しているようなのでまた呪われる可能性があります。それを考えるとここにいた方がいいでしょう。まぁ安心してください。遅くとも今日中には終わらせます」


 強くなったと言っても精々はスライムレベル。呪いの元の場所さえわかればなんとかなると思う。そうして今度こそ外へ出ようとしたところ朝里さんが俺の近くへ来た。


「どうしました?」

「あの、これを――」

「これは……?」


 名刺のようだ。金沢不動産ね。不動産会社にはよいイメージがない。


「直人が使っていた病院の建物を取り扱っていた不動産の名刺です。この人達も何か知っているようでした」

「なるほど、ありがとうございます」


 俺は名刺を受け取りポケットにします。気は進まないが、本当に気が進まないが田嶋に連絡して情報を仕入れてみるか。





 

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