第52話 人穴墓獄2

 風が頬をなでとても気持ちのいい晴れ空。俺は近くの駅に来ていた。新幹線は嫌いだが、普通の電車はそうでもない事がわかった。思えば過去に乗った時も気持ち悪いという気持ちにはならなかった。何が違うのだろうか。さっぱり分からないがまぁいいさ。走りもしないのに、高速で移動する乗り物っていうのは最初は新鮮だったが慣れてくればどうってことはない。それよりもだ。



「ねぇお兄さん。このカフェの場所知ってる? ちょっと分からなくてさ。一緒に探してよ」

「ごめんね。俺もこの辺疎いからわからないんだ」

「えーそうなんだ。じゃあさ。私が色々案内してあげるよ!」


 いや、道分からないんじゃないのかよ。


「いや、この後予定あるから遠慮しておこうかな」

「そっか、忙しいんだね。じゃあ連絡先教えてよ。今度美味しいお店一緒にいこっ!」


 なんでこう駅前にいると俺の個人情報を奪おうとする奴ばっかりなんだ。うざい、マジでうざい。なんだ、飯くらい一人で食え。お茶くらい一人で飲めよ。



「知らない人とは連絡先を交換しないんだ」

「えぇー何言ってんの。もう私たちこうやって話してるんだし友達でしょ?」



 あぁしつけぇぇ!! なんなんだこの女ぁぁあ!!! いつもなら軽くあしらえば去っていくのに、今日はしつけぇな。どうしたもんかと頭を悩ませていると、突然腕を取られた。


「もう礼土君何やってるの?」

「ん、栞?」

「もうすぐ予定の時間だよ。ほら早くいこ」


 そう言いながら栞はしつこく迫って来ていた女を軽く睨みつけ、そのまま腕を引っ張っていく。


「……何よ、彼女いるなら言ってよね」

「いや、こいつは……」

「ほら、いくわよッ!」



 そういってそのまま腕を取られたまま俺はあるビルに入っていった。そのままホールの中に入りエレベーターの前に行ってからようやく俺の腕は解放された。


「もしかして礼土君っていつもあんな感じなの?」

「あんなって何が?」

「いや、あんな感じに逆ナンされるのって聞いてるのよ」

「あぁ、そうだな。人が多い所だと割と多いね」


 ああいうのを逆ナンというのか。最近聞く個人情報を狙うという怪しい人だと思っていた。1階に到着したエレベーターに乗り3Fを押す。3階へ到着するとそこは貸出用の会議室があるフロアだ。その中の一つの会議室へ歩いていく。


「礼土君はまだ土地勘がないでしょ? 多分道を探したりして止まっていると捕まっちゃうと思うから、出来れば止まらないで動いてた方がいいよ? 忙しいです話しかけないでくださいって空気感出さないと」

「捕まるって……」


 動物か何かかよ。そんな事を思いながら会議室の扉を開けると二人の男がいた。



「やぁ、待ってたよ。妹が世話になっているみたいだね」


 山城桐也。

 和人が経営しているLiveStarという事務所の背信者の一人だ。身長は和人もよりも低いようで、少し子供っぽい顔をしている。いわゆる童顔って奴なのだろう。だが自信に満ち溢れているその姿は和人に似ている。


「初めまして桐也さん、勇実礼土です。よろしくお願いしますね」

「やめてくれ。桐也でいいよ。だから僕も礼土って呼んでもいいかな? それにしても本当にハリウッドスターみたいだね」


 そう言いながら桐也はジロジロと人の顔を見て笑っている。やめろ、顔が近い。そう思っていると、ずっと座っている男がイラついたような雰囲気で話し始めた。


「はぁ遅れたんなら謝罪の一つでもできねぇの?」

「まぁまぁ、説明しただろ? まだここに来たばっかりで土地勘がないんだよ、八代。それに予定していた時間の5分前じゃないか。さて礼土、彼は八代友樹。霊感が少しあるらしくてこういう心霊系の動画を出す時はよく一緒にやるんだよ」



 そう桐也が紹介すると面倒そうにこちらに手だけ上げてきた。短めの赤い髪、恐らく染めてるのだろうが、あんまり似合っていない。体格や俺に対する視線なんかを見てもただの素人のようだけど、なぜ俺に喧嘩腰なんだ? これなら大蓮寺の方がよっぽど強いぞ。


「ごめんね、あいつはずっと前から栞の事を狙っててさ。一緒に仕事してる礼土に嫉妬してるんだ」



 そう小声で言われなるほどと思った。だが、栞もそれほど戦闘能力がある訳では無い。霊感はあるが見える程度だ。そこまで狙う理由なんて容姿くらいしかないだろうに。彼は仲間がいないボッチくんなのかもしれない。ふっ以前の俺と一緒か。


「何生暖かい目で見てんだよ……あ、栞ちゃんも大変だったでしょ? ほらこっちこいよ。飲み物買ってあるからよ」


 そういうと八代という男は先ほどとはうってかわってニヤニヤと笑いながら手招きをしている。それを見た桐也はため息をつきながら、栞の方を見た。


「……やっぱり帰ってもいいぞ、栞」

「おい、何言ってんだよ、桐也。今回の企画は栞ちゃんも参加するって話だっただろう!」

「大丈夫だよ。お兄ちゃん。それより始めるんでしょ、企画会議」


 そうして各々が椅子に座り企画会議というものが始まった。桐也と八代はノートパソコンを開き、何か打ち始めている。何かメモでもしているのだろうか。どうやら俺も最近買った手帳を開く時が来たようだな。鞄から黒い十字架が刻まれた超絶格好いいカバーの手帳を取り出す。もちろん、使うのは万年筆だ。カッコいいからな。


 ちなみにこの手帳に書かれているのは最近食べて美味しかったコンビニの商品名だったりする。あとは読みたい漫画本とか、そういう重要なリサーチ情報も書かれている。最近はポッキーがお気に入りだ。今も鞄に入っているくらいには気に入っている。よく見ると会議室のテーブルの上にはおにぎりやサンドイッチなどが置かれているし、これは飲食可能なのかな? ならポッキー食べてもええやろ。




「じゃ、始めようか」


 桐也の場を仕切る声を聴きながら、俺は鞄に手を入れる。光魔法を使い、人差し指でポッキーの袋を撫でると、まるでハサミで切ったかのように袋は綺麗に切れた。これぞ魔法の真の使い方よ。世界広しといえ、指一本でポッキーを開封できるのは俺くらいのものだろうさ。









Side 山城桐也



 妹から最初に相談を持ち込まれた時は何を甘えた事を言ってるんだと思った。モデルをやったり声優をやったりとフラフラとしている妹が最近出会った外人と一緒に霊能事務所で働きだしたらしいという話は親父から聞いていた。どう考えても怪しいと思ったが、親父とお袋の公認だという。しかも、霊能事務所自体も親父が手伝って作ったらしい。人が良さそうな顔をしているが、経営とか金とかそういうのには結構ドライな親父が珍しいと思った。


 その後しばらくして、宣伝をしているがどうも中々客が集まらないという話を栞から聞かされた。まぁそうだろうと思う。僕だって霊能力なんて聞いても信じない。それを配信のネタにするのもパンチが弱いと思った。外人の霊能者って別に在り来たりだと思うし、あまり面白いような気がしないと思っていた。だが、それも彼の写真を見て気が変わった。



 正直驚いた。ゲームのキャラクターとか、映画の登場人物と言われても違和感がない程の美形だった。それなりに美形の人は見たことがあるが、このレベルは見たことがない。僕だってメイクとかで色々工夫してそれなりに見栄えをよく見せているが、到底この人には勝てないと思った。そして同時にこれは動画のネタになると思った。ここまでの美形の霊能力者はそれだけで話題になる。一応、勇実心霊相談所のSNSアカウントも見たが、論外だ。なんでその辺で拾ってきた画像をアイコンにしている? 本人の画像を貼れと言いたい。後は定期的に彼の写真でも投稿すればそれだけで十分宣伝になろうだろうに何故かそれをしない。


 だが、それなら逆に利用しようと思った。僕の動画で彼をバズらせる。そうすればこっちの動画の再生数も稼げるし、彼も事務所の宣伝になる。winwinって奴だ。だから、よく心霊スポットを探索する時に霊感があると言っていた八代友樹に声をかけた。



 そして、いざ打ち合わせ当日。栞と一緒に来た彼を見て確信した。画像の加工もなしにあのレベルの顔は本当に見たことがない。それに思った以上に日本語も上手い。これならそういうギャップもウケるだろう。親父の話では霊能力も本物らしく、そういう意味でも期待できるしな。それにしても、彼が持っている手帳。まるで中学生の子供が使いそうな見た目の手帳だけど、彼が持っていると雰囲気がある。

 恐らくあの手帳の中は今まで祓ってきた霊の情報や、依頼の予定など貴重な情報が書かれているのだろう。ぜひ中を見てみたいが流石に企業秘密か。それにしても本当に映画のワンシーンみたいだ。着ているスーツも、つけている時計もブランド物だが、それをすべて着こなしている。



 しかし気になる。彼はなんで打ち合わせが始まってすぐにポッキーをあんなにも優雅に食べているんだろうか。自然過ぎてビックリしたよ。



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