第17話 事故物件2

「う、うまい……」

「そりゃ、満喫のピザよりは美味しいですよ」


 先日俺が友達を助けたお礼としてピザを食べている。あの聖域に行くたびに食べているので、あそこ以外のピザも食べてみたくなったのだ。利奈から何かお礼をと催促されたために、ためしに美味いピザが食べたいと言った所、本格ピザが食べれるこのお店に連れて来てくれたという訳だ。



「明菜のこと本当にありがとうございました」

「いいよ、それより、友達の方は大丈夫?」

「はい! この間久々に登校したんですが、いつもの明菜に戻ってました。……まだ渋谷のことは引きずってるみたいですけど」


 ふむ、例の金髪ヤンキー君はアレから学校には来ていないらしいしね。元気にしているといいのだが……。


「そういえば、礼土さん! あのですね、ちょっとご相談がありまして」

「何かな、あぁここの支払いは俺持ちだから気にしなくて大丈夫だよ?」


 例の事件? を解決してからは財布の中は潤っている。もっとも銀行にかなりの貯金があるため、元々お金はあるのだが、こうして自分で稼げた金というのは中々素晴らしい。それにしてもこのマルゲリータとかいうピザうまいな。


「いや、そうじゃなくてですね。実はパパが礼土さんに会いたいって言ってて……」

「パパ?」



 え、どういうことだ? 何か失礼なことをしただろうか。

落ち着け、思い出すんだ。何かしたか? いいや何もしてない。いや、まて、まさかアレか? 利奈の友達を助けるとか言って気絶させた奴がバレたのか?


「……ちなみにどういうご用件で?」

「実はこの間のことをパパとママに話したの。あ、ホテルのことは言ってないからね! それでその時の話でパパが礼土さんのことを気になってるらしくて、何かパパのお友達に話したらしいの。そうしたら、仕事をお願い出来ないかって言われたらしいよ」

「そうか、いいよ。いつでも連絡してくれ。暇だからさ」


 あっぶねぇええええ。あの憑かれていた女の子の額をかすらせるように頭を弾いたから、後遺症は残らないはずだけど、万が一って事もあるからな。この世界を管理している【サツ】という組織に捕まるかと思ったぜ。いや、まて一応確認だけしておくか。


「ちなみになんだけどさ、利奈のパパって何してる人?」

「んっと会社経営らしいよ。YooTubeって知ってるかな。その配信事務所の社長なの」

「あぁ、なるほどね」


 全然分からん。ってなんだ? 何かしらの宗教を強制的に鞍替えさせる組織だろうか。


「背信か、なんか凄いね」

「そうなんですよ、実はその事務所で私のお兄ちゃんも配信してて」

「え、お兄さんも背信してるの? すごいね」

「そうなんですよ。登録者がもう直ぐ100万人行きそうらしいです」

「へぇ、100万人に対して背信してるんだ。……こえぇな」

「? 何かいいました?」

「いや、凄いなって思ってさ」


 この国は大丈夫なのだろうか。確か仏教が盛んと聞いてたけど、100万人も背信してんだろ? それ大丈夫なの?


「その背信ってお金とかどうしてるの?」

「再生回数とか、後は視聴者から投げ銭っていう形でお金がもらえたりするんです」


 再生回数? 背信して何を再生させるんだ? しかし、視聴者っていうのが今一不明だが、つまり信者みたいなものなのだろうか。つまり背信し、信者からお金を投げさせる……か。それただの危ない宗教じゃないだろうな。


 恐ろしい、だがその程度で元勇者である俺が立ち止まるわけには行かない。その利奈の父親の友達っていうのも怪しいが、まぁいいだろう。断っても正直やることが漫画読むくらいしかない。延々あの場所に篭っていてもいいんだが、流石に身体も動かしたいしな。一応気を引き締めた方がよさそうだな。






 そうして来ました山城家。相変わらず貴族の家みたいな場所だ。利奈の案内で玄関まで行くと、そこには俺の知らない人物が二人いた。


「おぉ! 本当にイケメンだね。えーっと日本語は大丈夫かな? 僕は山城和人。利奈や栞の父親だ。どうぞよろしく」


 とても爽やかな男性だ。茶色に染めた髪は綺麗に整えられており、清潔感がある。この世界で見た男性の中ではかなり顔が整った方だと思う。



「どうも、私は山城沙織といいます。りーちゃんがお世話になったようで本当にありがとうございます」


 パーマが掛かったロングの髪、しゃべり方もおっとりしているが、この沙織という女性はかもし出す雰囲気から何かこちらの気を緩くさせるようなオーラを感じる。

というか、微弱だが、妙な力を感じるな。容姿は利奈や栞の母親というだけあり、非常に胸が大きくかなりの美人さんだ。


「初めまして。俺の名前は勇実礼土といいます。あぁこれ一応これ皆さんで」



 よしよし完璧だ。事前に他人の家に行く時のマナーをネットで検索している。

どうも手土産を持っていくと良いらしい。その辺はあの世界とさしてかわらないようだ。今回持ってきたのは、こちらもネットで調べた高級菓子だ。なんでも【マカロン】という甘い菓子のようで、女性がいる自宅に持っていくにはかなり無難なチョイスらしい。駅前のデパ地下で並んで買ったのだが、反応はどうだ!?



「まぁまぁ悪いわね。……あら、四越のマカロンじゃない。これ美味しいのよね」

「態々すまないね、さぁ入ってくれ」



 小さくガッツポーズを取る。完璧だ。少しでもいい印象を与えておいた方がいいだろう。何せ100万人という大きな信者を抱えた組織の代表なのだ。用心しておくに越したことはない。



 というか、この沙織という母親が妙にこちらを見ているのは気のせいだろうか。


「……驚きました。礼土さんは本当に力をお持ちのようですね」


 ――なぁにいってんだこの人。


「――それは、どういう意味ですか?」

「オーラというのでしょうか。普通ではない力を感じます。どうやら本当に素晴らしい霊能力をお持ちのようですね」

「ははは、参りましたね」



 本当に参った、ごめんなさい。違うんです。霊能力なんてないです。ただ魔法を使って感知してるだけです。


「そうか! 沙織がそういうならそうなんだろうね。どうかな? 僕にどんな守護霊がついてる!?」

「い、いや――」


 和人が妙に目をキラキラさせてこちらに近づいてくる。やめろ、男に近づかれてもなにも嬉しくない。というか、まずいぞ。守護霊ってなに? スタンドと何が違うの? 俺に分かるのは魔物の気配だけだぞ。考えろ! 何かいい言い訳を――ッ!!



「和人さん、俺は悪霊を滅ぼす力しかありません。そういう一族だったんです。その宿命で俺の両親は――」

「そ、そうか。変にはしゃいでしまってすまないね」

「そうよ、貴方。この人は間違いなく本物よ」



 よかった逃げきれたぜ。そうして俺は以前栞とゲームで遊んだリビングに通された。紅茶を出され、それをゆっくりと飲む。やはり紅茶はうまい。ミルクと砂糖をガンガンいれないと飲めないコーヒーとは違うね。


「さて、本当はゆっくり色々話したい所なんだけど、あまり礼土君の時間を奪ってもまずいからね。さっそく本題に入ってもいいかな」

「はい、どうしましたか」


 さて、どんな依頼だ? 暗殺依頼じゃなかろうな。さすがに俺でもやっていないぞ。背信団体のトップなんだ、何が飛び出すか分からんからな。



「実はね、僕の友人に不動産業をやっている人がいるんだが、そこの物件の一つでどうも心霊現象が発生すると思われる部屋があるそうなんだ」

「……心霊現象ですか」


 一応漫画で予習しているが、ポルターガイストやラップ音という奴だろうか。正直それの何が怖いのかさっぱりわからん。


「ああ、先月ね。その物件に住んでいる住民から異臭騒ぎがあったそうでね。そこで確認したところ……」

「どうしたんです?」

「首吊りの遺体があったそうだ。腐敗が進んでいたそうでそれが異臭の原因になっていたらしい」

「……なるほど」


 首吊り自殺か。以前いた世界にはあまりなかった死に方だ。それにしても危険がない世界であっても自死を選ぶ者はいるということか。

だが――。


「ただの自殺ではない、と?」

「ああ。友人によるとね、その部屋で自殺があったのは2度目だそうだ。1度目は今から半年前、そして先日。かなり短い間に連続している。それに自殺にしても妙だったそうだ」

「妙……ですか」

「うん。2件とも遺書は見つからなかったらしい。そればかりか廊下に爪を立てたような跡まで見つかったらしいよ。だから事件性があるとして警察も調べたらしいんだけど、死亡当日は鍵も締まっていて、無理やり開けた形跡も争った形跡もなかったそうだ。結局は事件性なしとなったそうだけど、どう考えても普通じゃない。友人はあまり霊とかを信じるタイプではないのだけど、流石にこうも続けてになると気になるらしくてね」


 確かに気になるな。同じ部屋に住んだ人間が立て続けに自殺。普通では考えられない。それゆえ、普通ではない事が起きていると考えたという事か。


「詳しい話は僕の友人である田嶋彰に聞いて欲しい。それでどうだろう、引き受けてくれるかな?」

「そうですね」



 恐らく悪霊が何か悪さしているのだろう。どういう霊なのか分からんがまぁそれだけ殺意が高ければ俺でも見えるから滅ぼすのは造作もない。


「そうですね、わかりました。引き受けましょう」

「そうか! 助かるよ。栞に聞いているんだが、報酬は20万円でいいのかい?」

「え、ええ。構いません」


 どの程度の強さか分からないが、エルダーリッチより強いという事はまずあるまい。なら20万円でも貰いすぎな気もする。


「助かるよ。口では出してなかったけど、彰も随分参ってたみたいだしね。さっそくだけど明日ここへ行ってくれるかな」

「わかりました。お任せ下さい」


 まぁこれで俺に見えない霊だったらどうしようもないな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る