第11話 旨い棒2本分
「すごーい! 礼土君。天―才!!」
「ふふふ、このくらいは当然!」
妙に広い玄関で靴を脱ぎ、そのまま部屋に通された。驚いたのは俺が泊まった宿よりも広く、快適だったこと。随分とデカイテレビに接続されたプレスタを起動し、さっそくプレイした。最初は操作方法になれず1面のボスで殺されていたが、次第に慣れて行き、今ではスタイリッシュポイントを常にSSSが維持出来るようになっている。自分の才能が怖いぜ。
今やっているのはシリーズ3作目だ。どうやら時系列的にはこれが最初らしく、現在出ているシリーズでももっとも人気があるのだとか。そのまま順調に攻略し、いよいよ俺は出会った。
『こう言うの感動の再会って言うらしいぜ』
『らしいな』
ちょくちょくイベントシーンで登場していたが、ようやく対決だ。あの刀で銃弾を防ぐ意味がまったく分からん。だがそれがカッコイイ。納刀した状態で、なんで遠くにいる俺を攻撃出来るのか意味がわからん。こいつも光魔法使いか? この光の剣みたいなのを飛ばすのは今度真似しようかな
「よっし!!!」
「きゃー! おめでとうございます!」
達成感がはんぱない。これほどの達成感は魔王を倒した時もなかったぞ。このバーヂルはオールバックにしている銀髪なのだが、雨での戦闘で髪が降りた状態になった。それの髪を上げるシーンを見た時、俺は思ったね。
プリーチのアイザンと一緒だ!!
あの死神少年の話に出てくるボスキャラアイザン。彼が裏切る時にオールバックにするのだが、それと同じようなかっこよさを感じた。何がいいたいかと言うとだ。
真似しちゃったよね。
画面の中のバーヂルの真似をしてオールバックにした。ちゃんと仕草も当然真似た。そうしたら横で見ていた栞が急に黙ったのでそっちを見ると驚いた。
「しゅごい。本物のバーヂル様だ」
なんかめっちゃ鼻血だしてこっちをガン見していた。
流血した血を何もなかったかのように拭き、妙にキラキラした目で栞はこちらを見てくる。
「すごいです。思った通りです。礼土さんは本当に綺麗な銀髪をしているだけじゃなくて、顔立ちも似てるので、本当に興奮しました。瞳も綺麗な青色でバーヂル様とお揃いだと思います。惜しむべきは服装がシャツとパンツという現代風なところですね。ですが安心して下さい。ちゃんと衣装はこちらで用意します。刀もこういった事に明るいお店があるのを知っているのでそこで買いましょう。あぁお金は私の方で支払いますので安心して下さい。ただ写真と動画を撮らせて貰えればそれで満足です。あぁ勇気を出して話しかけてよかった。最初は外人さんかなって思ったんですが、日本語が上手で本当に驚きました。因みに英語は話せますか? 可能であればここにバーヂル様の台詞集があるので衣装を着てぜひ声真似をして欲しいなって思っていて。あ、もちろんお金は支払いますよ。こう見えても芸能関係の仕事をしてるのでお金はあるんです。任せて下さい。はぁはぁはぁ。ごめんなさい、ちょっとその髪触ってもいいですか? 凄い艶のある綺麗な髪でぜひ触ってみたいんです。可能であれば一房髪を頂きたいのですが、どうでしょうか。そうですね5万円とかで……」
「はい?」
ごめん、めっちゃ早口で何言ってるのか分からなかった。これが高速詠唱という奴なのだろうか。少なくとも前の世界には詠唱っていうのは無かったんだけど、地球って凄いな。
「良いのですか!? ありがとうございます。あぁでもどうしましょう。専門の鋏がないわ」
「え? 鋏?」
何に使う気だ?
「後で、アマゾーンで買っておかないとですね! 良かったら連絡先交換しません?」
「構わないが、なんで鋏?」
「良かったわ。今日は素敵な出会いがあってとっても嬉しい」
「いや、鋏って……」
何か危険な香りがする。逃げるべきだろうか、そう考えた時に扉が開く音がした。
「ただいまー」
あれ、どこかで聞いたことあるような声だな。
「あら妹が帰ってきたみたい。ちょっと待ってて下さいね」
そういうと栞は立ち上がり玄関の方へ行った。くそ、鋏を何に使うのか聞けなかった。今いるのがリビングのため、玄関でのやり取りがここからでも多少は聞こえてくる。
「あら、利奈お帰りなさい。ちょっとお姉ちゃんのお友達が来てるんだけど、挨拶する?」
「え、いいよ。靴見た感じ男の人でしょ。っていうか珍しいね、お姉ちゃんが男の人連れてくるなんて。もしかして彼氏?」
「んもぉ。まだ違うわよ。でもとっても素敵な人なのよ。そうそう何でも霊能力者らしいから利奈の相談にも乗ってくれるんじゃない?」
「え? 何それ怪しくない? それおねえちゃん騙されてるよ」
「騙されてないわよ。ただゲームして遊んでただけだし」
「ごめん、意味わかんない。仕事で会った人なの?」
「んーん。街で見かけてお姉ちゃんが声掛けてさっき知り合ったのよ」
「……本当に大丈夫? 心配だし一応挨拶だけしておくよ」
すると玄関からこちらに向かって足音が聞こえてくる。うーん、今の声といい、名前といい。間違いなさそうだな。
「どうも、妹の利奈です。どうぞゆっくり……って! 勇実さん!?」
「……やあ。奇遇だね、利奈」
狭すぎるぜ日本。
ゲームは一度中断し、三人でお茶を飲むことになった。今回は紅茶という飲み物でこちらはとても飲みやすかった。またレモンを入れたり、ミルクを入れたりするだけ味が結構変わるのもいい。コーヒーとは違うな。お前がナンバー1だ。
「それにしてもまさか利奈の恩人さんだとは思わなかったわ」
「私もよ。何で勇実さんがお姉ちゃんとゲームしてるのか謎なんだけど」
どこか呆れた様子で紅茶を飲む利奈。まぁ普通こんな出会い方せんだろうな。
「でもその髪型も似合いますね。勇実さん」
「そう? これカッコイイかな?」
「はい!」
好きなキャラクターの真似をして褒められるのは少し嬉しい。いやかなり嬉しい。
「これってお姉ちゃんが好きなバーヂルってキャラの真似してもらったの?」
「そう。今度コスプレしてもらう約束もしたわ」
「えぇ! いいな、見たいんだけど!」
「衣装届いたらね? あ、そうだ。せっかくだし朝言ってた事相談してみたら?」
紅茶の味を楽しんでいると、何やら二人が盛り上がっている。相談と言っていたがまさか例の金髪ストーカーのことか?
「もしかしてあの少年のこと?」
「い、いえ。あれから渋谷は大人しいので大丈夫です。部活にも顔出さなくなったので殆ど会ってないですね。そうじゃなくて、実は友達の事なんです」
利奈が言ったのは以下の通りだ。なんでもあの日、利奈とその友人、そしてあの金髪ストーカーヤンキーとその腰巾着の4人で肝試しを行ったそうだ。その時点で彼らの勇気を称えたくなった。自分の内臓を試すという試練を行うなんぞ、俺には怖くて無理だ。で、その時にあの悪霊が利奈に憑いてしまったそうだ。それは俺が祓ったのでいいんだが、どうもそこで別々になってしまったその友人の女の子の様子がおかしいらしい。肝試し中にかなりショックなことがあったのでそれが原因だと思っていたそうなのだが、どうも様子がおかしいそうだ。
曰く、ずっと鏡を見て笑っている。誰もいない場所で何故か独り言が多い。放課後になると一人でどこかに行ってしまうとの事。
「多分、あの廃墟で霊に取り付かれたんじゃないかって思ってて。――勇実さん。どうか助けてくれませんか! あ、あのお礼は今度こそ前回と同じ感じで……」
前回と同じ? また宿まで道案内するってことか? いやいらんぞ。まさか道が覚えられない低脳だと思われているのか。なんたることだ。
「利奈。そういった事はもうやめた方がいい。俺だからいいが、続けると身を危うくするよ」
そうだ。心優しい俺でなかったら今頃殴られてもおかしくなかっただろう。なんせ魔物を討伐する依頼を出してその報酬に宿屋まで案内するなんて誰も引き受けないからな。
「勇実さん……でも、それ私にはそれくらいしか。それに前のお礼だって満足に出来なかったし」
道案内しか出来ないってどれだけ残念な子なんだろうか。俺は逆に不安になってきたんだけど。
「大丈夫、利奈の気持ちは受け取ったから。とりあえず詳細を教えてくれないか」
「そうよ、利奈。お礼は私の方でしておくから安心なさい」
え? なぜ栞がお礼するって流れになるんだ?
「え!? お姉ちゃんが!?」
「うん、だって礼土さんって高名な霊能力者なんでしょ? お仕事お願いしようと思ったら結構高いと思うわ。ちなみにいつもお幾らなんですか?」
え? 値段? まずい話の流れがわからん。魔物退治の金額って事か? あの霊程度ならゴブリンレベルだし、銅貨2枚くらいか? というか高名な霊能力者ってなにさ。魔物倒すことしか出来ませんよ?
「そう……だね、大体これくらいかな」
金額を下手に言うのは怖いので適当に指を二本立てた。少なくともこの日本で銅貨といえば10円硬貨のことだ。つまり20円という事になる。その金額が低すぎるのは流石の俺でも分かる。なんせ旨●棒が1本が10円なんだぞ。つまり旨●棒2本でゴブリンと一緒って絶対変だろ。そもそも学生がバイトという労働をするのだって、時給いくらって世界のようだ。なら霊を倒すという仕事はいくらだろうか。
少なくとも学生のバイトよりは高くていいと思う。つまり1体に付き1,2万円が妥当ではないかと考えた。
この辺の金銭感覚はないからな。後はそれを栞が読み取ってくれれば問題はない。少なくとも霊能力者ってそんなにいないみたいだし、なんとかなるだろ。これが俺のファイナルアンサーさ。
「ほら、見なさい。利奈に200万円も払えるの?」
ちっげぇーーーよ!!! なんでそぉーなるの!?
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