第3話 こんにちは、異世界日本!!!
目が覚めた。薄暗い場所だ。くそ、頭痛が酷い、割れるみたいだ。覚束無い視界で周りを見ると本当に見覚えの無い場所だ。2畳程度の密室。壁で囲まれており、目の前になにやら光る四角形のような箱がある。妙に柔らかい床に手を着き、身体を起こす。
「――あぁ、そうか」
段々と頭痛が治まってきた。なるほど、異世界の知識って奴が俺の頭に入った影響がさっきの頭痛なのだろうと考える。しかし、なぜ俺はここにいるんだ? っていうかここって――。
「漫画喫茶か?」
そうだ、漫画喫茶。通称”まんきつ”。目の前の光る四角形はパソコンのモニターだ。漫画やインターネットを楽しむ場所のはずだが、何でここに……。まぁ行き成り森やら山に放り込まれるよりはマシか。周りを見ると、肩掛け鞄があったため、中を物色する。そこには財布、スマホ、筆記用具が入っている。財布の中を見ると諭吉が3枚。中を見ると免許証があったので見てみると、俺の顔写真と実家の住所、そして
なるほど、しっかりと住所や名前など戸籍もあるようだ。これなら不審人物として警察とやらのお世話になる事もないだろう。
「っていうかそれならその家でいいだろう、何でここに転移だったんだ?」
そう愚痴を零しながらスマホを立ち上げる。三井純友銀行のアプリを立ち上げ、指紋認証で口座を開く。残高は10,000,000円と書かれている。この地球では随分な大金だ。多少の無駄遣いをしても十分に生きていけそうな金額に思わず笑みが零れる。向こうの世界では、今よりも金を持ってたけど、そこまで使うこともなかったがここでは違う、地獄の沙汰も金次第という悲しい諺だってあるのだ。
(腹減ったしとりあえず、外行くか)
手元にあるレシートを見ると、入店したのは3時間前のようだ。一応フリータイムで入っているようで、まだ退室時間まで時間はある。出ようと思ったがもう少しここに居てみるか、狭いが居心地は悪くない。それにここで飯も頼めるようだ。よし、ピザって奴を頼んでみるかな。
「ふぅ、美味い! それに面白れぇ!」
まず頼んだピザという食べ物。知識にはあったが食べるのは初めてだ。これが美味かった。お代わりで3枚も食べてしまった。それにこの漫画という書物だ。最初は読むのに苦戦してしまったが、読み方になれてしまえばこれが面白いのなんの!!
「でもまさか、オリヒメと結婚するとは思わなかったぜ、やっぱ胸なんだろうか?」
死神という日本の神を題材にした漫画。全74巻という圧倒的なボリュームの作品は本当に面白かった。この作者のことは師匠として崇めよう。特に詠唱とか技の名前とかすげぇかっこよかった! 今度俺も魔法を使うときは参考にしないとな! 何せイメージすれば魔法なんて使えるから詠唱や技の名前なんて唱えた事は一度もない。というか必要性がない。だからこそ技の名前を唱えれば、敵に何を使われるのか分かってしまうだろ? っていうツッコミも最初はあった。
だが、それがいい。
これは浪漫だ。俺は今まで戦った魔物達を殺すのに、一瞬の間も与えず、光魔法を叩き込んでいた。そうだ、俺に足りなかったのはこれなんだ。ありがとう師匠。貴方は俺に足りないものを教えてくれた。
また必ずここに来よう。漫画喫茶という聖域に出会い、俺は満足して会計に行った。
「あぁ……時間オーバーっすね。延滞料かかりまーす」
「……はい」
くそ、4時間もオーバーしてしまった。だが、聖書に出会えたと思えれば安い出費だ。外に出るとすっかり夜だ。スマホで時間を見ると既に夜22時。さて、宿は……いやホテルか。辺りを見回すが、似たようなビルばかりでどれがホテルかさっぱり分からない。適当に誰かに聞くか。声を掛けられそうな人を探す。するとちょうど急ぎ足で帰る女を見つけた。
「ごめんね、ちょっといいかな」
「ひッ! え、だ、誰ですか?」
後ろから声を掛けたら凄いビビられたのだが……。俺ってそんなに人相悪いだろうか。
「あぁ、驚かせてごめんね。ちょっと道を聞きたくてさ」
「え……ごめんなさい、ちょっと急いでて……」
そういうとその女の子は忙しなく後ろを見ている。見た所かなり若い子のようだ。知識から当てはめるならちょうど高校という学び舎に通っているくらいの年齢じゃないだろうか。そう考えると違う疑問も湧いてくる。知識通りならば、この時間に外にいる時間じゃないはずだ。というかすごい後ろ見てるな。
「っていうか学生だよね? こんな時間まで遊んでたの?」
「ごめんなさい、ナンパなら後にして下さい! 本当に急いでるんです!」
そういって走りそうになった女の子へ俺は更に気になった事を言った。
「もしかして後ろにいる奴が原因?」
「――ッ! え! み、見えるんですか!?」
凄い勢いでこちらを振り向き、息が掛かりそうなくらい接近する女の子。その目は信じられないものを見るかのように目が見開いている。どうやら当たりのようだ。
「ああ。何か君と繋がりのある気配がある。もしかしてそれから逃げてるのかな? それなら安心してくれ。俺が居れば近寄れないから」
「え? あっホントです! さっきまで息が掛かるくらい近くにいたのに、今はあんなに遠くにッ!!」
これは使えるとすぐに思った。弱みに付け込むようで大変恐縮だが、野宿は嫌だ。適当に恩を売るとしよう。そしてホテルの場所を聞くのだ。
「助けてあげるから俺のお願い聞いてくれない?」
ホテルの場所教えてもらおう。漫画の読みすぎで寝たい。瞼が重いのだ。くそ、魔の森で3日間も徹夜して見張りをしたことだってあるんだが、流石に聖書を70冊以上も読んだため、疲れがあるようだ。
「お願いって……何ですか?」
「なに簡単さ、ホテルに連れてってくれないかな」
「ホ、ホテル!?」
「そうさ、驚くようなことじゃないと思うけどね。君も子供じゃないんだ、分かるだろ?」
そうだ。わかるだろう? こう見えても俺はもう25歳の大人だ。野宿なんて絶対したくない。そんな事子供だって分かるだろう。だが、子供扱いしては行けない。どの世界であっても子供を子供扱いすれば碌なことにならない。大人の扱いをするのがスマートなやり方って奴さ。
「そ、そんな行き成り言われても……お兄さん結構、いや、かなりイケメンだし、ちょっとタイプかも……いやでも私初めてで」
ふむ、まぁこのぐらいの子供なら親と一緒に住んでいるだろうからな。ホテルに泊まった事なんてないのだろう。もっとも俺がいた世界ならこのくらいの子供でも安宿に泊まっている奴はいた。というか、俺が最初宿に泊まったのは7歳の頃だったなぁ。まあでも場所くらいわかるやろ。
「大丈夫、誰だって初めてはあるよ。気にすることじゃないさ。大事なのは経験をする事だ」
「け、経験……!」
そう。いつか一人でホテルに泊まる日が来るかもしれない。そのためにホテルへ行くというだけでも良い経験になるだろう。しかし気のせいか顔が赤いよう見える。ふむ、体調が悪いのだろうか。
「優しくリードしてくれますか……?」
「ん? もちろんさ」
いや、道を教えて欲しいのは俺だ。何を言っているのだろうか。よく分からず適当な返事をしてしまったが、女の子は嬉しそうだ。
「じゃあ、追い払うから後ろに居てね」
「は、はい! 気をつけて下さい!」
ははは。応援されるっていうのは嬉しいものだ。いつのまにか俺の周りには俺が魔物を倒して当たり前と思うような奴ばかりだった。倒して当たり前。下手に被害を出せば苦情が来る。本当に面倒だった。だから城を飛び出し、冒険者になろうと思った。ドラゴンを倒しても、飛んだドラゴンが堕ちた衝撃で窓ガラスが割れれば俺のせい。オーク達を倒しても、俺が到着する前に女が攫われていれば俺のせい。敵国の軍隊が攻めてきて、それを殲滅しても、道中の村が襲われれば俺のせい。あぁ、そう考えると、あの世界から追い出されて良かったのかもしれない。
女の子を後ろに庇い、道路の奥を見る。道路の街灯が明滅し、その暗闇にいる存在がより強大になっていく気配を感じる。距離として約50m。それ以上近付いてこないのは俺の力を恐れているからなのだろう。だが、余程この娘が憎いのか諦める気配はない。
「まぁ逃がすわけないんだけどさ」
右手の人差し指と親指に魔力を集める。淡い光が俺の指を照らす。落ち着け、ここからが大切だ。心臓が早く鼓動する。3回目の魔王を殺した時だってこれほどの緊張はなかった。
ゆっくりと、焦らすように右手を前に出す。その時の若干右足を前に出し、少し足をクロスさせることも忘れない。出来るだけ、余裕の笑みを浮かべ、前に出した右手を俺の頭の横まで上げる。
(落ち着け、出来る! 俺なら出来る! 見ていてくれッ! 師匠ォォ!!)
手汗が凄い。大丈夫、俺ならやれる! 指に力を入れ、ゆっくりとしかり力強く、そして確実に音が出るように人差し指を滑らせ親指の根元の部分に叩き付けた。
カスッ。
(ぎゃーーー!!! 音がでねぇ!!!! 指パッチン失敗だぁぁあああ!!!!)
くそ何たる恥。これは練習が必要だ。綺麗にパチンとなるように特訓しなくてはならないッ! ちくしょう、己よくも俺に恥を――てめぇは俺を怒らせた!!!
魔法を発動する。演出のために纏っていた指の光のオーラが拡散し、辺りを照らす。そして、それとば別に目の前にいる存在から幾重もの光の柱が飛び出す。
『ギェェェエエエエアアアアア』
俺の得意技であり、初見殺しの光魔法。そう――名付けてッ!!!!
「”
魔力を纏った光の粒子を飛ばし、付着した部分に光の棘を生やすという魔法だ。これは従来の攻撃魔法と違い、俺から発する光を浴びた時点で回避不能。光の粒子が付着した箇所から直径30㎝ほどの棘が生えるため、防御も不可。大抵は魔物の眼球に当てて視界を奪うのに重宝していた魔法で、燃費も悪くない。他の魔法使いにいくら教えても最後まで理解してくれなかった俺の十八番だ。ふっ魔法に名前が付くと気のせいかいつもよりカッコよく魔法が決まったように思う。
「す、すごい……」
後ろから女の子の声が聞こえる。上手く挽回出来ただろうか。どうやら他の
「あ、ありがとうございます! あの悪霊をまるで魔法みたいに除霊するなんてすごい!」
「いやいや、大したことないよ。それより、約束覚えてる?」
「ッ! は、はい。ちょっと待ってください! 親に連絡だけ!」
そういうと小走りで女の子は少し離れスマホをなにやら弄り始めた。何を連絡しているのだろう。ただ道を教えるだけで両親の許可がいるのだろうか。そんな常識はあの爺から与えられてないんだがな……。まぁ色々あるんだろう。
「お、お待たせしました! 確かこっちです」
「うん、ありがとう」
何故か非常に緊張している様子の女性に対し俺は優しく肩に手を乗せた。以前も洞窟型の地下迷宮に入り、恐慌状態だった冒険者仲間にも同じ事をしたことがある。極度の緊張状態や恐慌状態のときほど人肌というのは以外に効果的なのだ。肩を叩く、腕を掴むなど。そういう小さな行動が意外に命運を分けたりするのを俺は知っている。
「はぁッ! はぁはぁ、あ、あにょ!」
「え、どうしたの?」
いや、マジでどうした。俯いていて顔は見えないがどういう訳か状況が悪化しているように感じる。肩越しに感じる体温から察するに、何故か先ほどよりも体温が上がっているようだ。病気なのか? 何の意味があるかさっぱり分からないが、こういう時は額に手を当てる風習があるらしい。そのため俺は少し屈み、女の子の額に手を当てた。
「――――――ッ!!!!!」
やはり熱が上がっている。参ったな、俺は水魔法が使えないから回復魔法とか出来んぞ。ポーションもないし、どうしたものか。
「大丈夫かい? どこかで休憩しようか?」
「きゅッ! 休憩でしゅか!?」
……大丈夫だろうか? この子。
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