第2話 この世界からも追い出された
「ん……ここはどこだ?」
『目が覚めたようじゃな、勇者レイドよ』
見覚えのない場所だった。昨夜はパーティを追い出された腹いせに随分飲んだが、酔いつぶれるほどではない。自慢じゃないが酒で酔いつぶれたことなんてないんだ。あのドワーフ達とだって飲み勝ったことだってある。
だから、酔っ払って知らない場所に行ったということだけはないはず。記憶通りなら新しく取った宿屋で寝たはず……なんだがここは本当にどこだ。
見渡す限り何もない。木も、土も、草も、山も、雲だってない。浮遊感もないのに、自分の身体が浮いているという違和感を感じながらも、妙な声がする方へ視線をやった。
『ふむ、流石は勇者じゃ。落ち着いておるな』
そこに
『警戒するでない、儂はそなたが住んでいた世界を管理していた者じゃ』
「管理だと?」
世界を管理していた者と言われて頭に思い浮かんだもの。まさか、”名も無き創造神”か? その昔、人間を生み、育てたとされる神。魔王を生み出す邪神とは対を成す存在とされている。
『確かにお主らからはそう呼ばれておるな、さて勇者レイドよ。魔王の討伐誠に見事であった』
「――いや、運が良かっただけです」
『謙遜するでない。歴代最強と名高い魔王をたった一撃で倒したのだ。本当に驚いたぞ、いやマジで』
なんか急に俗っぽい感じになったような気がする。気のせいだろうか。
「それで神がどのような用件ですか?」
『うむ。それなのだがな……誠に申し上げ難いのじゃが、レイドよ。お主の救いを求めている場所がある。そこへ行ってはくれぬか?』
「はぁ……それはどこでしょうか?」
『地球という別の世界じゃ』
……地球。聞いた事がない場所だ。という世界っていったか?
「何故私なのでしょうか?」
『お主は紛れも無くこの世界最強の生物じゃ。そのお主であれば間違いないと考えたからじゃの』
「なるほど、して具体的にどのような危機なのですか?」
なるほど、面白そうな気はする。違う世界というのは少し、いやかなり気になるが興味もある。とりあえず話しだけでも聞いてみよう。
『う、うむ。そうさな……何か悪霊が居たり、変な化け物がいたりするらしい』
どうした急に挙動が怪しくなったぞ。
「悪霊や化け物? エルダーリッチとか真祖のヴァンパイアなどそのような類でしょうか?」
その程度なら問題はない。以前出会った時は光魔法でひき肉になるまで切り刻んだことがある。不死のヴァンパイアが泣きべそをかくのは見ていて面白かった。エルダーリッチは不死じゃなかったから倒して終わりだったが、ヴァンパイアの方は不死のためか、何度殺しても生き返る。不死殺しの手段もあったのだが、当時は俺もストレスを溜め込んでいた事もあり、復活するごとにストレス解消のために態々探して殺しに行っていた。
そうしたら、あいつめ……俺が近くに来たら全力で逃げるようになりやがった。視界に入りさえすれば確実に逃がさないんだが、あいつの魔力探知領域が段々と広くなっていき、気付けば俺では探知出来ない距離から俺の場所を感知し、俺がどこまで追っても必ず世界の反対側へ徹底的に逃げるようになったため追うのを諦めた記憶がある。あいつ、元気だろうか。
『あー……そんな感じじゃと思う』
「そんな感じ? 正直その程度の魔物なら俺が行く必要はないかと思いますが……」
『いや、お主の力が必要なのじゃ! どうか力を貸してくれぬか?』
「はぁ……それで倒したら帰れるんですよね?」
『……力を貸してくれぬか!!!』
「おい、爺。ちゃんと答えろ」
思わず敬語を忘れてしまった。いや、それどころではない。この爺、話を逸らしやがったぞ。顔は見えないが、もし目があったら絶対に目を逸らしてるんじゃないだろうか。
『勇者レイドよ。お主の力はこの世界で十分に救ってもらった。その強力無比な力で他の世界を救って欲しいのじゃよ』
「帰れるんですか?」
『……』
何故黙る。ん、あぁそうか。神だから嘘が付けないのか。恐らく嘘をつくという概念が無いのだろう。そりゃそうだ。嘘をつくのは人間だけなんて言うくらいだしな。自分を誤魔化し、相手を欺く。そんな事をするのは人間くらいだろう。
『勇者レイドよ。お主の力は――』
「え? まさか帰れねぇって事ないだろうな!?」
同じ事ばかりを繰り返そうとする爺の言葉を遮り、もう一度質問を投げた。
『非常に、困難……いや、帰還は絶望的……いや、戻ってくるのは――不可能じゃ』
「不可能って言いやがったな! ってか帰れない!? じゃあ、俺はどうすりゃいいんです?」
『その新しい世界の住人となり暮らす事になるだろう』
ふざけんな、完全な片道じゃねぇか。異世界に興味がねぇって事はないが、戻れないなら話は別だ。どうせ
「ということでお断りします」
『何故じゃ、勇者レイドよ。お主の力を必要としているかもしれぬ世界があるのじゃぞ。そこに行こうとは思わんのか?』
「まて、必要としているかもって何だ。かもって」
『……』
そういやさっきっからその辺すげぇボカされてるんだよな。悪霊や化け物が居ると言っていた。ならば嘘ではないのだろう。だが、一言も強いとか強力な存在という言葉はあっただろうか。いやない。そもそもその地球は本当に俺の救いを求めているのか?
「先ほど言っていた世界の霊や魔物とはどれ程の強さなのでしょうか」
『お主の力でならば十分に倒せる存在じゃ』
「その言い方だと、”俺の力で倒せる存在”ということですよね? それだと、スライムから魔王まで同じ倒せる存在になりますが、具体的な強さは?」
『……さて、どうじゃったかな』
「答えろや、爺ッ!」
確信した。絶対強くない! 間違いなく雑魚だ! そんな雑魚を倒させるために俺に見知らぬ世界へ行って骨を埋めて来いっていうのか!?
「絶対に行きません」
『……ふぅ。勇者レイドよ。済まないがこれは決定事項なのじゃ』
「はぁ!? ふざけんな! どうしてだよ! 理由言え、理由ッ!!」
納得出来るか! どういう事だ、理由くらい説明しろ!
『遡る事数千年。儂等は1つの遊びを思いついたのだ。それはこの世界で人間と魔人を競わせるという遊びじゃ。それぞれの陣営から”勇者”と”魔王”という役職を選び、競わせる。どちらかが負ければそこから10年は勝った陣営が世界の覇権を握る』
ちょっと待て、この爺恐ろしく重要なことをさらっと言いやがったぞ? つまり10年ごとに勇者や魔王が現れるのはこの爺と、もう一人似たような奴、いやこの場合邪神だな、その二人でそう決めたから……?
てか、遊びってなんだ! 魔王との戦いで死んだ奴だっているんだぞ!?
『人の生き死にも、魔人の生き死にも世界から見れば些細な問題じゃ。それゆえ、両陣営の繁殖能力は高くしておるわけじゃからの。そしてもう1つの決まりごとがある。負けた方の役職が、今代の場合じゃと魔王の方じゃな。その魔王の力を今の勇者、つまりお主と同じになるように次に生まれる魔王は調整されるという事じゃな』
なるほど、
『そう、本来であれば、お主が
「人間だわっ!!」
逆ギレしやがったぞ、この爺!? でもおかしいと思ったぜ、3回目に戦った魔王が妙に強い感じがするから、3つ山の向こうから一方的に攻撃して滅ぼしてやったのは正解だったようだ。
『お主が誕生して5歳で最初の魔王を殺し、15歳で2回目の魔王を笑いながら殺し、25歳で3回目の魔王を瞬殺するなんぞ前代未聞じゃぞ!? お陰で魔王陣営の管理者から苦情が来たわ! と、いうわけでお主にはこの世界から出て行って欲しい……というか出てってくれぬか』
パーティまで追い出され、世界からも追い出される勇者って何なんだよッ! ていうか、そこまで手の込んだことせず、俺を殺したらいいだろうが! 世界の管理者なんだろう!?
『殺そうとしたんじゃッ! お主が外に出た時、近くにいた大きめの地龍に襲わせたり、古代兵器のゴーレムに襲わせたり、好戦的な国を向かわせたり、やれることはやった! だが、お主は悉くそれを殺し、壊し、壊滅させておったッ!!』
「おい、それ全部身に覚えがあんぞ!? てか、おまえの仕業か爺ッ!!」
くそ、ここだと魔法が使えないのが悔やまれる。魔法が使えれば絶対殺すのにッ!
『この管理領域に呼ぶことは出来てもここで殺すという事は出来ぬ……そのため、最終手段としてお主には異世界へ行ってもらおうという事じゃ。既に向こうの世界の管理者と話は付いておる。……すまぬこれも世界のため。諦めてくれぬか……』
世界じゃなくて、魔王のためだろうが!! くそ爺め、世界を遊戯盤みたいにしやがって!!
『さて、名残惜しいがもう移動してもらうとしよう。安心せい、儂もお主が憎いわけじゃない。力や能力はそのままで良い。後その世界の言語や常識もお主に与えよう。ついでにその世界の金銭も渡す。向こうに着けば何もかも理解出来るはずじゃ』
「……全ッ然納得してねぇけどな!」
『では去らばじゃ勇者レイドよ!』
視界が暗くなっていく。転移が始まろうとしているのだろう。というか、非常に気になる事がある。段々と強くなっていく魔王。3回目に戦った魔王は正直な話、超遠距離から一方的に攻撃しなければかなり苦戦していたと思う。と言う事はだ、次に生まれる魔王は更に強いって事だよな。次に生まれる勇者は大丈夫なのだろうか。まぁもう俺には関係ねぇか!
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