不幸が似合う子
坂道 転
第1話
初めて君に出会ったのはよく晴れた冬のことだった。前を歩く君は上着のポケットからスマホを取り出した。と、同時に何かがポケットから落ちる。長方形のカード。私は少し駆け足でカードを拾った。"心療内科"の四文字。診察券だった。「すみません。落としましたよ?」私は声をかける。君の肩がびくりと跳ねた。「あ、ごめんなさい」君は消え去りそな声で謝り、さっと診察券を私の手から取って足早に去っていった。心療内科の診察券を拾われるなんて、恥ずかしいに決まっている。通っているなんてバレたくない。頭がおかしい人だと思われたくない。きっと君もそう思ったんだろう。よくわかる。私も週に一度通っているから。
そんな出来事から2ヶ月くらい経った頃だろうか、私はやっぱり週に1度心療内科に通っていて、待合室の椅子に座ってぼーっと自分の名前が呼ばれるのを待っていた。「こんにちはー」受付の女の人が無愛想かつ小さな声で言った。また1人患者さんが待合室に増える合図だ。受付を済ませた患者は私の隣に座った。私はその患者の顔を一瞥した。他の患者のことを見るなんて私にとっては珍しいことだった。心療内科にいる患者は皆暗い顔をしている。風邪をひいた患者が来る内科なんかよりもっとどんよりとした空気を皆が纏っている。私はそれを見たくなくて、待合室では顔を上げないようにしている。しかし、私はその時ばかりは隣の患者の顔を伺ってしまった。「あっ」口に出すつもりのなかった小さな驚きは、どうやら声に漏れていたのだろう、隣の患者が私の方をゆっくりと見る。そして、彼女もまた、「あっ」という顔をした。それが君と出会った2度目だった。そういえば、あの診察券は、私とお揃いのものだったと、今になって気づいた。何か声をかけるべきか、そう考えている間に私の名前が呼ばれた。私たちはぎこちなく会釈をして、私は診察室に向かい、君はスマホに視線を落とした。
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