第2話 祝!専修大学E判定
模試を受けた。というのは語弊があるかもしれない。
学校が私たちに模試を受けさせた。
我が校は、真面目な者と遊び呆けた者の二種へと、真っ二つに分かれた。
高2に入ってクラスが文理別になった結果、文系においては、前者(真面目な者)はCクラスに、後者(遊び呆けた者)はA・Bクラスに配属された。私はAクラス――文系非選抜となったのだ。
話を戻そう。
模試。意識の高い人々は6年間不断で努力していたため、当然のように好成績を取った。私はというと――校内文系91人中――73位。
当時は大学のことなど全く考えておらず、高校を出たらそのまま電車にでもなればいいやと思っていたため、志望校は適当に殴り書きした。
青山学院大学 E判定
専修大学 E判定
大東文化大学 C判定
笑っちまうくらい驚きの結果で、親は真っ青になっていた。
先生も笑っていた。作者自身も笑っていた。
苦笑いじゃなく、まぁどうにでもなるだろという笑いだった。
高2冬模試では英数の偏差値は43。学校に受けさせられた共通テスト同日体験(2022)は、英語Rが36点、英語Lが42点、数学ⅠAが56点……爆笑成績であった。
さて、それが笑えなくなるのが高校3年生。
みんな、なんとなく志望校を決め始めた。
置いて行かれるのではないのかと危惧して、とにかく志望校を定めた。
高3当初の志望校は一橋大学の社会学部であった。
社会学というのだから社会をやるのだろう、世界史だろうか、地理だろうか……そういう浅はかな考えで選んだわけだが、社会学とは当然そのような系統とはズレる。
このようにして高3春のうちは一橋志望(適当)を名乗っていたわけだが、すぐに志望校を変えることになった。
作者は前々から東京一極集中を憎悪しており、内閣府が都道府県の人口統計を毎年更新するたびに、1都3県の人口ばかりが増大、北海道は全国最悪の人口減、という構図が繰り返されるのを見て、都市が地方を搾取する有様へ義憤に駆られていた。
「
天啓だったのかもしれない。誰かがそう言った。
俺だ。
さて、東京都国立にキャンパスを構える国立(にある)大学アピールの激しい一橋を志望する理由が霧散してしまった。
どうしたものか。どこがいいだろう。永遠に地理をやっていられる場所がいい。だとしたら、就職より学問重視の大学がいいよな。いろいろ考えてみる。
しかし現実問題、入学できなければ全部皮算用。立ちはだかるのは入試の壁だ。
つまり、出題傾向と自分の相性である。
当時の作者の苦手科目ははっきりしていた。
わかりやすく高3の4月当時の偏差値で並べると、
英語 35.0
数学 45.7
国語 58.2
世史 65.6
地理 71.4
うーん、受験辞めろ!w
英数すべてが終わっていた。特に、英語はズバ抜けて沼だった。
「……これは無理だ」
英語という科目には――得意も苦手もない。
やったか、やってこなかったか。この残酷な選り分けで、出来不出来が決まる科目なのだ。蓄積だけがモノを言う、それが語学なのである。
そういうわけで帰国子女はラノベかよ、というぐらい英語では無双する。英語で彼らにかなうのは、6年間不断で英語と向き合い続けた努力人だけだ。
さて、昨今の受験は英語勝負である。
私立は言うまでもなく、帰国生無双状態。
国立でさえ、某大学に代表されるように女子比率の向上を熱望、英語が合否を左右するように入試のバランスを調整しがちだ。
(注:女性は理数ができないというのは作者の偏見ではなく、研究でそのような傾向があることは確認されている。実際、直近5か年で女子の比率が増えている某大学は、理数が難化して誰も解けないので、理数で差がつかない)
極論、無学な中西部アメリカンでも、大抵の日本の大学に入れるのだ。
このような現況で死を見るのは、中学入試はうまくいったが、中高で何の努力もせずに遊び呆けたタイプの人たち――そう、作者である。
簡単な質問をしよう。
あなたは高校生です。これから3年間、サッカー部に入ります。
さて、卒業するころには、U-18サッカーリーグでプレーできるでしょうか?
躊躇なく肯定する者は、是非、東大を目指していただきたい。それをこなす者が東大に受かるのだから。
3年間サッカーの練習を、死ぬ気でやったとする。
卒業するころは18歳である。同じ歳のプロサッカー選手たちは、18年間とは言わないまでも、幼少期からフル出力で練習しているわけだ。
単純計算で、3年間練習したあなたの6倍はやっている。
受験に置きなおそう。
中高6年間、不断の努力で英語に向き合い続けてきたライバルに対し、あなたは留学もしたことがなく、装備ゼロの状態から、たったの1年で彼らに追いつかねばならない。同じく単純計算で6倍。簡単な話ではないことは、容易に想像がつくだろう。
どうするべきか?
理数はコツさえつかめば独学だろうが短時間でどうにでもなる、工夫次第の教科。
しかし残酷にも、英語だけは、時間と完成度が、完全に比例する。
帰国生と、努力した者が報われる教科。時間は限られている。今からじゃ留学も努力も間に合わない。
となると、残された道は、時間当たりの学習効率を高めることだけ。
「時間当たりの学習効率」――独学や集団授業より、半個別指導の英語教室のほうが高い。なお効率が最大になるのは個別指導だが、これは教師との相性の問題や、財政的問題があるため、作者にとってはリスクが高かった。
逡巡に逡巡を重ねたが、結局、作者は英語教室に通うことを決めた。
ただしそれでも英語が間に合わないだろうことはわかる。
高3。誰もがラストスパートをかける時期。もちろん作者は全力で英語をやるとする。だが、不断で英語に取り組んできた努力人や帰国生も、本気で英語に臨んでいる。これ以上差が開きはしないだろうが、縮みもしないだろう。
ならば、他の教科で埋め合わせるしかない……のだが。
残酷なことに、それが通用する大学は限られているのだ。
以下、いくつかの大学の入試傾向(文系)を比較する。
① 東大
社会や国語はそもそも差がつかないのに、近年は女子比率を上げたくて、数学を難化させており、差がつきにくくなっている。つまり、英語が全てを左右する。なお出題形式は「質より量と処理能力」であり、帰国生有利。
② 一橋
お前文系か?ってぐらい数学が高レベル。英語は東大と同様、処理能力を求められるためやはり帰国生有利。理科の比率は高いものの、やはり英数の点数がほとんど。英数の二教科さえ出来れば受かる、努力した者が然るべくして行く大学。
③ 早慶
英語単科受験も用意してるよ。速読できる子おいでおいで~!
え?うち三教科だし、数学と理科で挽回するなんてズルは使えないよ? うちに入りたいなら1年間で英語の処理能力を帰国生レベルにしてね。
④ 阪大・同志社
うちは全学部3教科必須なので、早慶よりは多少埋め合わせ効くけど……英語はやっぱり処理能力だよね!
⑤ その他の私大
教科は国語と英語、あとは英語、そして英語また英語、あるいは英語か英語または英語英語英語英語英語英語英語英語英語英語英語英語英語英語英語英語英語英語
感想:クソがよ。そんなに英語が欲しけりゃ少しは留学枠増やしたらどうだ。
そういうわけで、英語をサボってきた人に世界は優しくない。逆に言えば英語だけやっとけば受験は幾分楽なのだ(つまり努力人は報われる)。
結論:無理。
無努力の因果応報で、泣いていた作者。
その肩を叩いてくれた大学があった。
英語 試験時間:2時間
1⃣ 長文読解 小問3つ
2⃣ 長文読解 小問3つ
3⃣ 和文英訳 1題
4⃣ 英作文 1題
え!?
120分で、小問たった8個を解けばいいんですか!?
小問1個あたり15分も掛けられる!?
破格の時間設定!!
長文も700語程度。量だけなら確実に読み終わる。
あぁ、なんて素晴らしいんでしょう。
しかも、数学、社会、国語の点数比率が高い。共テでも理科を傾斜配点。英数国理社5教科の総合力を問うのだ。すべての教科がそこそこ出来なければならない――裏返せば、英語でしくじっても、他の教科で埋め合わせが効く!
「英語が無理なら、数国理社が出来ればいいじゃない。」
しかも、就職より学術を重視。専攻に地理学が存在。しかも都外にある。作者のニーズを全て満たした大学が、目の前に降臨したのである。
飛びつかないわけがなかった。
そうしてその大学は、作者の第一志望になったのだった。
高3の4月末のことだった。
この時、はじめて作者は受験戦争のスタートラインに立てたのかもしれない。
そこから10ヵ月に及ぶ、長い戦いが始まった。
英語だけは英語教室に通い、他の数国理社は全て学校授業に委ねた。
作者の学校は教育環境が恵まれている。おかげで吸収も早かった。
数学に関しては、『チェックアンドリピート』を数1A編、数2B編の二冊を買って二周した。数学は基礎が出来ていなければ、いくら応用をやっても無駄である。
自己過信をしないで、基礎に立ち戻って徹底的に固めた方がいい。焦っても無駄。自分に言い聞かせて、自習時間は基礎だけをひたすらやりこんだ。(授業内容が応用だったのもある)
数学は、基礎を自習、応用を授業。
英語は、基礎を英語教室、応用を授業。
その他は全て学校授業にお任せ。
このスタイルで春季を過ごした。
夏に入ると、数学がグングンと伸びていった。
冠模試(その大学専用の対策模試)では、
英語 42.4
数学 61.1
国語 59.9
地理 59.1
総合偏差値が56に達し、学内順位もやっと底辺を脱却した。
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