第四章 「天狗屋敷」
中に入ると、より静かで空気は淀み、まるで屋敷の中だけ別の空間になっているようだ。
明かりは等間隔で床に置かれた蝋燭のみ。
玄関を上がると、一本の廊下がある。
外観からでは想像できないほど長い廊下だ。
明らかに建物の構造がおかしい。
壁には置かれた蝋燭の真上にくるように等間隔で絵のようなものが飾られている。
見てみるとどれも天狗の絵だ。
山伏の服装で、赤ら顔で鼻は不気味に長く伸びている。背中には大きな黒い烏の翼があり、まさに昔話にでてくる天狗だ。
廊下を進むたびに床がギシ…ギシ…と鳴る。
普段ならば気にもとめないの音なのに、今はそれが嫌というほど耳に響く。
長い廊下をただひたすら進む。
すると上に続く階段がある。
階段の壁に天狗の絵は飾られていない。
その代わりに壁一面に池に泳ぐ錦鯉が描かれている。
一匹一匹丁寧に、それぞれ模様が被ることなく色鮮やかな錦鯉だ。
水の波紋が繊細に描かれていて、色使いも淡くピチャンッと跳ねる音まで
聞こえてきそうなほど幻想的な絵だ。
また不思議と心が落ち着く。
ただただ静かで、幻想的な絵に囲まれ、眼福とはまさにこういう事を
言っていたのか。
ここだけ世界が違うのだ。
織田の方をみると、一匹の錦鯉をじっと見つめている。
「おかしいぞ………この一匹だけ、どの角度から見ても必ず目が合う。」
そういった技法を使った絵など腐るほどある。あの有名なモナリザだってそうじゃないか。私はそう思いながら織田が見ている錦鯉を見た。
ぎょろり。
違う、みた角度で変わるんじゃない。本当に錦鯉の目が動いているんだ。
一気に血の気が引いた。
途端に私たちは階段をかけ登った。絶対に振り向いてはいけない。
本能でそう判断し、全速力で上まで上がった。
階段の終わりが見えドアがある。
そのままドアに体当たりし、勢いよく部屋に入った。
部屋には明かりの灯った蝋燭が中央に一本あり、
その横に一人の女性が後ろ姿で立っている。
半袖の水色のワンピースを着て、髪は黒髪で肩までしかない。
スカートの裾から見える脹脛は白く、細い。
「な、長浜さん………?」
いや、有り得ない。絶対に有り得ないのだ。
この天狗山に入った時からすべてが。
あの提灯の灯る階段も、赤い鳥居も、この屋敷も。
ましてや長浜さんなど。
なぜなら3年前に大学で流行ったこの天狗山の噂自体、
私たちオカルト研究サークルの悪ふざけででっち上げたデマなのだから。
ただ皆が夢中に話す話題を作ってみたかっただけなんだ。
それなら静かに生きていても、存在を認識してもらえてる気がしたんだ。
‘‘長浜さん‘‘という女性など最初から実在しないんだ。
あの時、誰かに噂を確かめられてデマだとバレないように
わざわざ人が出歩かない夜中に天狗山まで来て電流の流れるフェンスを見て
山の反対側から誰も入れないのを確認してデマを流したのに。
こんなこと有り得てはいけないんだ。
一気に思考が巡る。
織田は腰を抜かし、今にも白目を剝きそうだ。
ハッと気が付く。
そうだ。‘‘ヤツ‘‘の姿がない…。
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