第二章 「オカルト研究サークル」

そしてあれから3年が経った今、織田が誰からか聞いた新たな情報と共にあの噂話を持ち出したのだ。


「今ならあのフェンスを乗り越えてもう一つの入口から山を登れるんじゃないか?」


その場で数秒沈黙が流れる。


確かに当時はたとえ電流が流れていなくとも私はあの不気味な場所に乗り込む勇気はなかったが、

私も今年で25になる。学生の時に不気味と感じた場所でも今なら怖がらずに行けるだろう。

それに今日はせっかく久しぶりに集まったのだ。学生の頃できなかったことを

このままお酒の力も多少借りて、勢いに任せて確かめにいくのも面白そうだ。


「で、どうする?」

織田は相変わらず気味の悪い笑顔で聞いてきた。


「よしっ、今宵一夜限りのオカルト研究サークルの復活を祝して乾杯しようではないか!

そしてこれから天狗山に向かい、探索をしに行こう!」


「やはりそうこなくては!」


「うむっ!」


私たちはお酒が並々に注がれたおちょこを高く上げ、乾杯!という声と共に

カチンッと互いのおちょこをあてて、そのままグイッと一気に飲み干した。


時刻は午後11時45分


店を後にすると織田がすぐにタクシーをつかまえて、私たちは天狗山へと向かったのだった。

道中学生時代の懐かしい話に花を咲かせながら、山に着くまでに車内でまた盛り上がっていた。


「お客さん、着きましたよ。2500円になります。」


「あぁ、2500円ですな。へい、どうぞ。」


私は普段から現金を持ち歩かない主義だ。最近巷ではそれをキャッシュレスと言うらしい。

財布がかさばるのが嫌なので、カードのみ持ち歩いている。

現金がないためタクシー代は代わりに払ってもらった。


「すまんな、払ってもらって。さっきの居酒屋の支払いもじゃんけんで決めたというものの今日は一度も払っていないと気が引けるよ。」


「いいや、いいんだ。じゃんけんで決まったことだ。誰も文句はあるまい!

じゃんけんとはそういうものだ!」


「そうか、恩に着るよ。次の集まりは私に払わせてもらうよ。」


そんな他愛もない会話をしながら私たちはタクシーを降りた。

外に出ると静かで、唯一聞こえてくるのは鈴虫の鳴く音だけだ。

風が心地よく、不思議と心も落ち着いていた。


時刻は深夜0時半を回っている。


目の前にはまたあの「天狗山 山道→」と書かれている錆びた看板が昔と同じようにたっている。

全く変わっていない看板に少し不気味さを感じたが、すぐに気持ちを切り替えた。


それから山の反対側へ周り例のフェンスの前まできた。

そこにはやはり昔と変わらず「危険。電流有立入禁止区域」と書かれた看板があった。お酒を飲みほろ酔いになっているせいか、学生の時に感じた怖さはは微塵もなかった。そのかわりに何か違和感を感じた。なにかは分からないがそれは不気味さとは違い、言葉にし難いものだ。


「本当にもう電流は流れていないのか?どうやって確かめるんだ?」


すると、織田が何食わぬ顔でフェンスを両手でがっちり掴みこちらを見てきた。


「この通りさ。ふふっ」


「お前…万が一電流が流れていたらどうしてたんだ…」

私は織田の馬鹿さ加減に呆れながら言った。


織田はそのままガシャンガシャンと音を立てながらフェンスをよじ登り、

反対側へ着地した。


「さぁ、はやく山を探索しに行こうではないか!

山が我らオカルト研究サークルを呼んでいる!」


「まったく…。本当に呆れたやつだ…」


そう言いながらフェンスを乗り越え、天狗山のもう一つの入口を探す。


懐中電灯などは持ってきていないが、今は携帯電話にライト機能がついているためその明かりを頼りに奥へ奥へと進む。

便利な時代になったものだ。


しかし、いくつになっても夜中にライトだけを持ち、静かな山の周りを歩くというのは怖くはないが不安だ。

そんなことを考えながら進んでいくと、山の奥に続いていそうな道をみつけた。


「もう一つの入口とはこれのことか?」

織田がその道をライトで照らしながら言う。


「他に登れそうな道もないし、たぶんそうだろう。」


私たちはもう一つの入口が実在していたことに驚いた。


「本当にあったんだな、正直見つけられずにただウロウロして帰るだけだと

思っていたんだが…」


それは長年使われていなかったためか山道というにはあまりに雑草が生い茂り、

幅も人が一人やっと通れるほどしかない。

道の先をライトで照らしてみるが、生い茂った雑草のせいであまりよく見えない。


「どうする?進むのか?」

織田がこちらの顔を伺いながら聞いてきた。


「ここまできて帰るわけにはいかないだろう。現に目の前に噂の道があるじゃないか。ここで帰ったらオカルト研究サークルの恥となるだけだ。」


「そうだな。よしっ、進むか。」


私たちは一列に並び、織田が先頭にたち生い茂った雑草をかき分けながら進む。

足場も悪く途中で転びそうになったり、倒れている木を踏み越えながらも、やはり好奇心という物が私たちの中に残っていたのかそんな状況でも臆することなくまた奥へ奥へと進んでいく。












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