佇む温もり

鈴龍かぶと

佇む温もり

 バイト終わりはいつも遅くなる。

闇に潜む何か、が私は恐ろしかった。それは、時として怪談的なものであったり、また時として普通に変質者だったりするものだ。私自身も変質者を装って大きな声で歌うことで、それらを跳ねのける気持ちでいた。

 外灯の少ない細く暗い道を抜け、私は公園の傍らを通る。

 昼間は子供がよく遊んでいる活気のある公園も、この時間には空虚な闇があるだけだった。私は、嫌な空気を感じつつも、その闇をいつも眺めてしまう。

 すると、公園に半そでの少年が一人、立っていた。

 どうしてこんな時間に? あんな恰好で?

 私はそう思った。声をかけようか、とスピードを緩くする。

 しかし、近づくと、その子供がこちらをじいっと見ていることに気が付いた。

 ただ、何も言わずに、じいっと、見るだけ。

 鼓動の音と、イヤホンの音楽が、混ざり合う。

 だんだん早くなる鼓動に合わせて、私はペダルをこぐ。スピードを一気に上げて、少年の前を通過した。

 通り過ぎながら、少年が私をずっと見つめていることに気が付いた。私に合わせて、顔ごと動かしている。

 その様子に、明らかに異質なものを感じた。

 公園を通り過ぎ、恐る恐る後ろを見ても、そこには何もいなかった。ほっとしたような、しかし何も解決していないような得も言われぬ不安感に襲われる。


 それから、私はその道を使うことを止めた。

 時が流れ、暖かな空気が流れる季節になった。

 ある日の昼下がり、私はいつも通りイヤホンをしながら、例の公園の近くを自転車で通っていた。すると、少年が突然飛び出してきて、危うくぶつかりそうになる。

「うわっ⁉」

 すると、その少年の母親らしき人が駆け寄ってきた。

「ちょっとあなた! 何考えているの!」

「え?」

「去年ここで、男の子が死んだのよ⁉」

 母親が指さした先には、小さな花束と、数個のお菓子があった。

「あなたみたいに、イヤホンをして自転車をこいでいた大人にぶつかられてね!」

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佇む温もり 鈴龍かぶと @suzukiryu

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