第5-4話 島国の事情とのんびりマーメイド(前編)

 

「ふふっ……魔術的解析により、造波抵抗を完璧に計算したわたくしのキャッスル、どんな波が来ても耐えて見せますっ!」


 さば~ん!


「ああっ!? そんなバカな! わたくしの完璧な造形計算がっ?」


 どんな波にも耐える砂の城を作ると意気込み、波打ち際にやけに凝った装飾を施した砂の城を作ったフィルだが、沖合の魔法装置からランダムに発生した大波にあっさりと打ち崩される。


 そのたびに頭を抱えるフィルのリアクションが面白い。

 フィルは泳ぎが得意ではないので、ああやって波打ち際で遊んでいるのだ。


「ふうっ、フィルちゃん、最初の頃に比べてよく笑うようになったんじゃね?」


 マーメイドの少女たちとサーフィンを楽しんでいたロンドが、サーフボードに腹ばいになりながらオレが浮いている所までやってくる。


「きゃ~っ、ロンドさん、もっと遊んでくださいよ~!」


 黄色い歓声を上げるマーメイドたちに片手をあげて答えるロンド。

 くっ……さすがはロンド、すぐさまマーメイドたちの心をつかんでやがるぜ……だが、オレのフィルだってボディラインの美しさは (胸以外)負けてないっ。


 オレは波と戯れる彼女を見ていれば幸せなんだ……。

 すらりと伸びたフィルの美脚に満足しながら、オレはロンドに答える。


「ああ、ヒューベル公国での冒険で、ずっと行方不明だったフィルのお婆さんと再会することが出来たんだ」


「へぇ! フィルちゃんのお婆ちゃんか……どんな人なんだ?」


「エルフだから見た目ちっちゃくて可愛いんだけど……少しマッドサイエンティストかな」


「……まったくイメージできねぇ」


「だけどまぁ、そういうことか……おいレイル、せっかくリゾートに来たんだ」

、もう少しフィルちゃんと親密になっておきたいと思わない?」


 フィルの事情を察してくれたのか、うんうんと頷くロンド。

 さらに、悪戯っぽい顔になると、オレに耳打ちしてくる。


「もっと親密に……やはり冒険後のマッサージを手ではなく足踏みマッサージにしてもらうべきだろうか?」


 魅惑的なロンドの提案に思わず真剣に考えこむオレ。


「……お前らそんな事してるのかよ……ってそうじゃなくて戻ってこい脚フェチ!」


 ぱこん


 危険な妄想に沈みかけたオレをロンドのチョップが引き戻す。


「そ~いうのじゃなくてな、肌が触れ合う健全なイチャイチャだぜ?」


 ”肌が触れ合う健全なイチャイチャ”だとっ!?

 妄想を加速させるオレに苦笑しながら、ロンドはフィルを呼びに行くのだった。



 ***  ***


「くっ、手を離したら沈んでしまいます! レイル、ちゃんと持ってくれてますよね!?」


「ととっ、フィル! ビート板にしがみついちゃダメだ……両手で軽く持って、身体の力を抜いて?」


 ここはビーチから少し離れた岩場の影……この辺りは砂が堆積して浅瀬になっており、波も静かなので泳ぎを教えるにはもってこいだ。


 オレとフィルはここでマンツーマン水泳教室を開催していた。

 ロンドは少し離れた場所からニヤニヤと見守ってくれている。


 さっきからビート板を使ってフィルに泳ぎを教えているのだが、オレ的にはドキドキしっぱなしである。

 なぜなら……。


「まずきちんと浮くところから始めよう。 ほら、脚をぷらーんと」


「ひゃあっ!? まだ怖いですわっ」


 ぎゅっ!


(ぐうっ!?)


 まずは基礎から……ビート板の持ち方や浮きやすい姿勢を教えているのだが……。


 どうしてもフィルの身体に触れる必要があるのと、少しバランスを崩すと彼女は怖がってオレにしがみついてくるのだ。


 その度に柔らかなフィルの素肌が触れ、色っぽい吐息がオレの耳に掛かり……オレの理性はすでに粉々に粉砕されていた。


 このままではオレの邪神が水中で暴発してしまう……早急に岩場の影で邪神を処理する必要があるだろう……エマージェンシーである。


 オレはフィルにビート板での反復練習を指示すると、飲み物を取ってくると言い、岩場の影に急ぐ。


 あまり時間を掛けたらフィルが不安になると思い、素早く済ませようと決意したオレ。


 いざ水着を脱ごうとした時、突然それは現れた。


「テニアンの海を汚すふとどきもの~、成敗してやる~!」


「へっ?」


 ざばあっ!


 オレの背後の水面が盛り上がり、内容は勇ましいが非常にのんびりとした可愛らしい声を上げながら、ひとりの少女が水中から出現した。


 僅かに癖のあるエメラルドグリーンの長い髪に青い瞳。

 豊満な上半身にはビキニタイプの水着を着ている。


 彼女の下半身は鱗でおおわれており……マーメイドの少女であることが分かる。


 精一杯眉毛を釣り上げているのだが、全体から漂うほんわかした印象と大きなたれ目からは”微笑ましい”という感想しか出てこない。


 先ほどロンドと遊んでいた子たちとは違う子だ……なにより異様なのは彼女が両手に三つ又の槍を構えていることで。


 あれ、もしかしてオレ襲われてる?


 先ほどまでのリゾート満喫気分から一気に引き戻されるオレ。

 だが、彼女から漂う雰囲気と突き付けられる槍がどうしても結びつかなくて。


「あ、ちょっと待って……いま脱いじゃうから」


 錯乱したオレは、処理 (意味深)の流れのまま、水着のパンツを脱ごうとする。


「……へえああああぁぁあ!?」

「……きゅうっ~~」


 ばしゃん


 命を狙った相手がまさか脱ぎ始めるとは思わなかったのだろう。

 顔を真っ赤にした彼女は目を回して倒れてしまったのだった。


「えっと、なんかやっちゃいました?」


 騒ぎを聞きつけたフィルとロンドが駆け付けるまで、オレは半ケツ状態でスタンしていた。

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