束の間の休日

 三国を同時に攻める準備が始まった。

 各国から物資を運んできたり、兵隊さんを集めたり……私のいる国境は、とても賑やかになってきた。

 準備が進む中、私は一日だけ休日をもらえた。

 ライ君、ガルム隊長、イカリオス隊長、オルトロス隊長もお休みみたい。今日のお休みが終わったら、みんなはそれぞれ攻め込む国へ行ってしまう。

 私は、出発前にライ君を呼んで、お茶を飲んでいた。


「ライ君。明日出発なんだよね?」

「うん。ま、楽勝だよ。平和ボケした連中の目を覚まさせてくる」

「うん……気を付けてね」

「気を付けるのはそっち。殿下が一緒だから大丈夫だと思うけど、あんたは実戦経験なんてゼロなんだから、無茶しないでよ」

「ええ、ありがとう」

「……ん」

 

 ライ君は、私を心配してくれる……ふふ、照れてるのかな? そっぽ向くライ君が、とてもかわいく感じられた。

 すると、私の天幕に一人の男性が。


「邪魔するぞ」

「い、イカリオス隊長!!」

「そのままでいい。ラプンツェル」

「は、はい」


 立ち上がり、敬礼しようとするとイカリオス隊長は手で制する。

 すると、立ち上がりもせずに不機嫌丸出しでライ君は言う。


「イカリオス、なんか用?」

「お前じゃない。ラプンツェルに用がある」

「今忙しいから後にしてよ」

「お前に用はないと言ったのだが?」

「見てわかんない? 今、ボクとお茶してるんだ。あんたはお呼びじゃない」

「ほう、お茶か……」


 な、なんだか険悪ね。

 すると、イカリオス隊長が言う。


「ラプンツェル、私にも茶をくれないか?」

「は、はい。ただいま準備いたします」

「ありがとう」

「…………お呼びじゃないって気付かないのかね」

「何か言ったか? ライラップス」


 二人は睨みあって……って、なんでこんなに。

 私は二人の間に入る。


「え、えっと! お茶の準備するから、イズも座って!……あ」

「ははは。イズでいい、今だけそう呼んでくれ」

「も、申し訳」

「構わない。ラピス」

「うぅ……」


 イカリオス隊長は、私をからかうように笑う。

 すると、またもや天幕にヒトが。


「あぁん? ライラップスに、イカリオス? お前ら何してんだ?」

「が、ガルム隊長!」

「よ、ラプンツェル。遊びに来たぜ」

「「…………」」

「なんだなんだ。男の視線を浴びる趣味はねぇよ。ラプンツェル、オレにも茶ぁくれ」

「はい、ただいま」


 ガルム隊長の分を追加して、ライ君のおかわり、イカリオス隊長のぶん……よし!

 みんなのお茶を配ると、三人は同時に飲む。


「ねぇ、お菓子ないの?」

「いい味だ。さすがだな、ラピス」

「ラピスって愛称か? へへ、いいな。オレも呼ばせてもらうぜ」

「ガルム……悪いが、そう呼んでいいのは私だけだ」

「へ、なんだそれ? おいラピス、ラピスラピス、ラピス」

「……ガルム。私は冗談が嫌いでね」

「うっさいなぁ……おっさんたち、静かに飲みなよ」


 な、なんだかすごいことになってる。

 でも……とっても楽しいって、私は感じていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 三人は、喧嘩しながら帰った。

 そして、一人の時間になる。

 夜ご飯を食べてのんびりしていると、私の天幕に人が。


「邪魔をする」

「え、か、カディ様!?」

「何をそんなに驚いている? 部下の様子くらい見に来るぞ?」

「い、いえ。申し訳ございません」


 カディ様が来た。

 私は急ぎ、お茶の準備をする。

 せっかくなので、ラスタリア王国で買った薬草茶を淹れた。


「ほう、いい香りだな」

「疲労回復効果があるんです」

「……うむ、うまい」


 カディ様は、私の淹れた薬草茶を飲む。

 ミント系の、さわやかな味。ハーブティーに近いかも。

 

「お前は、お茶を淹れるのが上手いな」

「ええ……実家では、よく淹れてました」

「そうか。なぁラプンツェル、ラスタリア王国をやることはできんが、領地ならくれてやる。どこか欲しいところはあるか?」

「っぶ」


 思わず吹きそうになった……領地?


「今のうちに聞いておこうと思ってな。そうだな……お前が住んでいたクレッセント地方。ここをくれてやろう。ははは、史上初の女性領主だ」

「あ、あの……」

「ラプンツェル」

「は、はい」

「俺の剣として、期待しているぞ」

「は……はい!」


 カディ様は、お茶を最後の一滴まで飲み欲し、戻っていった。

 たぶん、私の様子を確認しに来たんだと思う。

 領地云々はともかくとして……今日はゆっくり休めたかも。


「よし!」


 もうすぐ、大きな戦いが始まる。

 私は、カディ様の剣として、この戦いで役に立って見せる。

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