人見知りのためのギミック

有馬悠人

人見知りのためのギミック

幼稚園教諭を目指す僕には、致命的な弱点があった。


『人見知り』


どんな状況でも、年齢問わず、初めて話す人に緊張してしまう。実習で幼稚園のお手伝いをしに行ったときに、幼稚園児にも人見知りを発動。無邪気な純粋な目が怖くなった。幼稚園児相手に、あたふた。


「あっ、あっ。」


口から出てくる言葉は緊張感に包まれていた。


「先生何言ってるかわからない。」


無邪気な言葉がまだ実習生の僕を傷つける。


子供が好き。そこに嘘はない。でも、怖いのは怖い。拙い言葉で、自分の核を正確に撃ち抜いてくる。


「向いてないのかな・・・」


思わず口から出てきた言葉。決して大きな声ではない。でも、自分にははっきり聞こえる。思わず自分から出てきてしまった言葉は、自分を傷つけた。


「向いてるかどうかなんてわからないよ。」


それを聞いていた、自分の担当の先生が優しく自分に語りかけてきた。


「最初からうまくいくなんて、誰も思ってない。実習生なんだから。出来ないのが当たり前。誰もそこまで期待はしてないよ。」


今の自分には『期待してないよ』という言葉しか入ってこなかった。期待されてないんだ。シンプルにショックだった。


顔の晴れない自分に実習の先生は続ける。


「人見知りなんでしょ?」


自分はうなずく。


「人見知りの人って、出会いの大切さを知っているからこそ、失敗しちゃいけないって思ってしまう節があると思うんだ。大切なことだよ。でも、一人一人にそこまで緊張していたら身がもたないでしょ?結果的に大切な出会いに気づかないってこともあると思うんだ。そんなの損じゃん?せっかく大切さを知っているなら、線引きが必要だよ。例えば、今日あった園児一人と、君の教諭である僕との出会い。どっちが大事かな?」


自分は選べなかった。人との出会いに大もし小もないと思っていたから。


「はい。時間切れ。優しすぎるね。線引きっていうのは練習しないと身につかないよ。これが今は出会いでも、もしかしたら、命の線引きを君がしないといけないことになることもあるかもしれない。そんなときに君は両方を失って、助けられたものも助けられない。今回の答えはおそらく、教諭である僕だ。人によって尺度は違うから、僕なりの判断だけどね。君の将来に直結して関わってくるのは多分僕の方だ。成績や、僕の仕事をみて君は学ぶ。僕みたいな人との出会いは緊張しなきゃいけない。緊張感がないと大事なことを見逃すことがあるから。でも、今日あった1人の園児は君の人生に大きく影響を与えるかな?もしかしたら、その子からの言葉で人生が変わるということがあるかもしれない。でも、そんな確率米粒をばら撒いてその中から特定の一粒だけ探し当てるようなもの。そんな確率に希望を持つのは少し無謀だと思わない?なら、線引きをして、力を入れるところ入れるっていうことを覚えないと、もたないよ。それに、人生を変えるような言葉は、緊張感がなくても、自分の中に残るものだよ。」


自分は先生の話を真剣に聞く。ポケットに入れていたメモに、殴り書きだが、大事だと思った言葉をメモした。


「君が思う通り、出会いていうのは大事さ。でも、全ての出会いが必要かと言われたらそれは疑問だね。だから、僕はこう考えるんだ。出会いはあくまで準備運動。本当の始まりはその人を求めるところから始まっていく。たかが顔馴染みというだけで、その人との出会いは大きな意味は持たないって。その出会いを間違ってもいい。もしそうなったのなら、今まで出会った人に助けを求めればいい。それが人との関係の始まり。君が求めるかそうでないか。出会いっていうのはあくまで保険なんだ。使うときに助けて貰えばいい。ただ、そのお返しをしないとね。」


先生の言葉の最後はメモることはなかった。多分、自分の中に入っていく感覚があったから。



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人見知りのためのギミック 有馬悠人 @arimayuuta

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