72. カリトラス大神に罰を
(シロム視点)
カニアールさんに巫女の少女と話をする間身体を貸して欲しいと懇願され、つい承諾してしまった。我ながら押しに弱い。カニアールさんの姿が消えると、ウィンディーネ様があきれ顔で、
<< ご安心ください、私がここに居ればシロム様の身体はいつでも取り戻すことが出来ます。>>
と言ってくれた。カニアールさんの姿が消えたのは僕の精神世界と同化したからだと言う。同化することで身体から5感を感じ、自由に動かすことが出来る様になるそうだ。
この状態では僕の身体の間隔は全てカニアールさんに繋がっているから、僕には外の世界がどうなっているのか見ることは出来ない。
少し不安に感じたが、身体を貸すことを承諾した以上待つしかない。時間を計る手段がないので主観的なものだが、結構長い時間が経過した。
待っている間、僕はマジョルカさんに状況の説明をしておいた。僕の精神世界から出たらそこは神域だ。聖なる山の神様とその御子様であるアーシャ様がいる。説明しておかないと驚くことになるだろう。
<< シロムさんのお陰で助かりました。私だけなら絶対に脱出できなかったでしょう。>>
(( 本当にびっくりよ。人は見かけによらないと言うけれど、レイスに驚いて布団に潜る様なヘタレが大精霊と契約していて、しかも私を助けるために尽力してくれるなんて。もうちょっとかっこよければ優良物件なんだけどな。))
<< 僕の力ではありません。僕はジャニス皇女の指示に従っただけです。マジョルカさんが神器から脱出出来たのはジャニス皇女とウィンディーネ様の力ですよ。>>
<< ジャニス皇女! ガニマール帝国の第八皇女ジャニス様ですか!? >>
<< そうです。ご存知なのですか? >>
<< もちろんです。私はガニマール帝国のアルパイン侯爵家の次女ですから。ジャニス皇女様には何度かご挨拶させていただいたことがあります。>>
(( ジャニス様こそ次期皇帝にふさわしいお方。私が病気で死んだりしなければもっと親しくなれていたかもしれないのに残念だった。))
そんな話をしていた時、周りの景色がいきなり神域の洞窟内に戻った。巫女の少女が僕に抱き付いていて、横ではカニアールさんのレイスが立っていて僕に頭を下げている。ウィンディーネ様とマジョルカさんも一緒にいる。
<< シロム様、ありがとうございました。お陰でエリアスとゆっくりと話すことが出来ました。感謝いたします。>>
そう言われて、身体を乗っ取られないかと少し疑っていたことを後悔した。カニアールさんは僕に礼を言うと、今度はアーシャ様の前で正座し頭を床まで下げた。
<< カリトラス大神の教団で巫女長をしておりましたカニアールと申します。この度はここに居るエリアスを始め、我が教団の者達が女神様御一行に多大なご迷惑をお掛けしましたこと心よりお詫び申し上げます。すべての責任はあの者達の教育係であった私にございます。私はどうなっても構いません。ですがどうか寛大なお心をもちまして、エリアス、それに他の者達はお許しいただきます様お願い申し上げます。>>
「あの~」
僕は僕に抱き付いたまま動かない巫女の少女に声を掛けた。途端に少女は「キャッ」と悲鳴を上げて僕から離れた。恐らく僕がまだ巫女長だと思っていたのだろう。
「巫女長様ならあちらに居られますよ。」
そう言ってアーシャ様の前で正座している巫女長のカニアールさんを指さした。少女は僕の指さす方に顔を向けるが少女にはレイスのカニアールさんは見えない様だ。
「私には見えないのですね....。お願いです、私を巫女長様の傍に連れて行って下さい。」
そう言われて少女をカニアールさんの傍まで案内する。驚いたことに少女は自分にも罰を与える様にアーシャ様に懇願した。カニアールさんはこの少女によほど好かれている様だ。
「貴方達への罰はゆっくりと考えるわ。それよりカリトラス大神はどうしてやろうかしら。2人に罰を与えてカリトラス大神には何もしないなんて不公平よね。」
アーシャ様がそう発言すると、聖なる山の神様が反論した。
<< だが危険だぞ、大精霊のウィンディーネを閉じ込めた神器と言い、迂闊に近づくとこちらが危ないかもしれん。>>
<<
<< そうではない。慎重に行う必要があると言うのだ。あれだけの道具を作る相手だ、本拠地にはどんな備えをしてあるか分からんからな。>>
<< お恐れながら、それでしたらカリトラス大神をおびき出してはいかがでしょうか? 仰せの通りカリトラス大神の神殿にはどのような神器があるか分かりませんが、こちらに来させるなら大がかりな仕掛けは持って来られないと愚考いたします。>>
カニアールさんが堂々と意見を述べた。聖なる山の神様に意見を言うとはなかなかすごい人かもしれない。
<< 確かにな、だがおびき出すには出向いて来るだけの理由を作る必要がある。なにか良い考えはあるか? >>
<< ウィンディーネ様や私を閉じ込めた神器を餌にいたします。あの神器は1つしか残っておりません。今頃は血眼になって探しているはずでございます。この神器がある場所の噂を流せば必ずややって来るでしょう。
<< 確かにそうかもしれんが、カリトラス大神本人が来るとは限らん、使いの者を寄越すだけかもしれんぞ。>>
<< ウィンディーネ様からお聞きした話では、エリアス以外の巫女はウィンディーネ様のお姿を見て逃げ出したとか。巫女達から話を聞けばウィンディーネ様がいらっしゃるところに神器があると考えるはずです。ウィンディーネ様相手に巫女では役に立ちません、カリトラス大神本人が出て来る可能性は高いと思われます。>>
「不味いです。巨大な精霊がカルロの町に居らっしゃるという噂は巡礼者によってかなり広まっています。このままではカリトラス大神がカルロの町を襲うかもしれません。」
思わず口走っていた。今更別の場所で噂を流しても遅いかもしれないのだ、カルロの町を危険に晒すわけにはいかない。
<< シロムよ心配するな。カルロの町であれば私の力も届く。カリトラス大神とやらの好き勝手にはさせん。>>
そうだ、カルロの町には聖なる山の神様が居て下さる。
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