71. 巫女長カニアール
(シロム視点)
目を開けると、目の前に僕を除き込むウィンディーネ様とチーアルの顔があった。
<< ウィンディーネ様! 良かった脱出できたのですね。>>
<< ご主人様、どうか様付けはお止め下さい、私はご主人様の契約精霊なのですから。>>
そう言えば以前にもそんなことを言われたなと懐かしくおもう。だが周りを見渡して驚いた。ここはどこだ? 一面の砂漠とその中にある小さな湖、その周りだけに緑が広がっている。
<< ここはご主人様の精神世界の様ですね。ご主人様の魂を目指して急いでいたので、そのまま飛び込んでしまった様です。でも普通なら他人の精神世界には入れないはずなのですが...。>>
僕の精神世界? 随分と殺風景な所だ。
<< そんなことないですよ。あのオアシスはずいぶんと居心地が良さそうです。>>
あれ? 僕は何も言ってないのに。
<< ここはご主人様の精神世界で、私は契約者様の魂と直接お話させて頂いております。この環境ではご主人様の考えていることは全て分かります。ご主人様は今眠っておられるか、気を失っておられるのでしょう。そのため精神世界に戻って来られていると思われます。>>
<< そ、そうですか....。そう言えばマジョルカさんとカニアールさんは? >>
<< 私はここよ。助けてくれてありがとう。>>
((この子意外なほど頼りになるじゃない。惚れちゃうかも。))
そう言ってウィンディーネ様の後からマジョルカさんが現われた。もう1人の高齢の女性姿のレイスも一緒だ。この人がカニアールさんだろうか。
<< シロム様、初めてお目に掛かります。カニアールと申します。元はカリトラス大神の巫女長をしておりました。この度は神器より助け出して頂きありがとうございました。>>
カリトラス大神の巫女長か....どおりで巫女の少女がカニアールという名前に反応したはずだ。でもたぶん敵側だよな。
<< シロムです。初めまして。>>
と挨拶を返す。
<< ご主人様、カニアールさんはカリトラス大神が偽りの神だと気付いて、それを人々に伝えようとした為に殺されてしまった様です。そのことを信者の人達に伝えるのに私達に協力を求めています。>>
やはりカリトラス大神は偽物なのだろうか? まあ、そう言う事ならカニアールさんは信用して良いのかも。
<< そう言えばカニアール大神の巫女の少女が一緒にいます。名前は教えてくれないのですが褐色の長い髪の少女です。もっとも無理やり連れて来たので僕達には心を開いてくれないですが。>>
<< そうですか....。シロム殿、不躾ながらこの老婆を哀れと思って願いをお聞きいただけないでしょうか。>>
(アーシャ視点)
神器の前でウィンディーネさんを誘導していたシロムさんが突然倒れた。慌てて駆け寄ったが身体に異常はないから手の施し様がない。だがしばらくして目を覚ましたシロムさんは、起き上がって周りを見渡すなり、
「エリアス! 私だ、カニアールじゃ。」
と巫女の少女に向かって大きな声で叫んだのだ。カニアール? シロムさんじゃない???
「巫女長様!?」
少女も驚いたように叫び返す。
「そうじゃ、今はこの少年の好意に甘えて、身体を借りて話をしておる。」
「巫女長様、本当に巫女長様ですよね....。」
少女は信じられないという顔をしている。疑うのは無理もない、姿形はあくまでシロムさんだ。レイスがシロムさんの身体を使っていると言う事か?
「疑うのなら、お前の最後のおねしょの話をしてやるが?」
シロムさんがそう言うと、少女は顔を真っ赤にしてシロムさんの胸に飛び込んだ。
「バカバカ! そんな意地悪を言うのは巫女長様しかいません。」
それから2人は床の上に座り込んで長い間話をしていた。巫女長様と呼ばれた女性にシロムさんの身体が使われているのは気になったが、シロムさんの承諾は取っている様な事を言っていたから邪魔するのも気が引ける。それにしてもウィンディーネさんは神器から脱出できたのだろうか? 脱出できたのならこの場に現れないのはどうして?
「行かないで!」
突然巫女の少女が大声を出してシロムさんに抱き付いた。だが、直ぐにシロムさんの傍に年配の女性のレイスが現われる。少女と同じ様なローブを着ているからこの人が巫女長様と呼ばれた人なのだろう。それとほとんど同時にウィンディーネさんともう1人のレイス(たしかマジョルカさん)も現れたのでホッとする。
巫女長のレイスは姿を現すと私の前に進み出て土下座した。
<< カリトラス大神の教団で巫女長をしておりましたカニアールと申します。この度はここに居るエリアスを始め、我が教団の者達が女神様御一行に多大なご迷惑をお掛けしましたこと心よりお詫び申し上げます。すべての責任はあの者達の教育係であった私にございます。私はどうなっても構いません。ですがどうか寛大なお心をもちまして、エリアス、それに他の者達はお許しいただきます様お願い申し上げます。>>
<< レイス狩りは貴方の指示だったのですか? >>
<< いいえ、そうではありません。レイスを狩ることはカリトラス大神のご意思でございました。ですが、カリトラス大神を慈悲深き神とし、その意思に従う様に巫女達を教育したのは私でございます。その意味で巫女達の行動の責任は私にあります。>>
その時、巫女長のレイスに御子の少女エリアスとシロムさんが近づいて来た。エリアスさんには巫女長が見えない様で、シロムさんが巫女長の居る場所を教えている。
「女神様、巫女長様も騙されていたのです。巫女長様だけが悪いわけではありません。私の罪は私が償います。どうか私も罰してください。」
巫女長さんの隣に正座したエリアスさんが発言する。
「巫女長様が騙されていたというのは?」
「もちろんカリトラス大神にです。カリトラス大神は神などでは無かったのです。教団のすべての者が騙されておりました。巫女長様はそのことに気付いたために教祖様に殺されてレイスになった様です。」
なるほどね、そんなことじゃないかと思っていたんだ。レイスを狩る神なんているとは思えないし、なによりカリトラス大神なんて聞いたことがない。さてどうしよう....。
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