67. 謎の少女はシロムを許さない
(シロム視点)
「それじゃ急いで帰りましょう。ウィンディーネさんがいないから、帰りはこの岩に乗る? 何かに乗らないと昼食の場所からここに来るだけでも、ジャニスが顔面蒼白だったものね。」
「悪かったわね。それだけ誰かさんに怖い思いをさせられたってことよ。」
そう言うわけで、ジャニス皇女にカンナとアルムさんと僕、さらに謎の少女がウィンディーネさんが運んできた岩に乗り込んだ。5人なら何とか乗ることが出来る。岩の上面が平らなのがありがたい、ひょっとしたらウィンディーネさんが削ってくれたのかもしれない。
飛び入り参加の謎の少女が暴れないか不安だったが、それは杞憂に終わった。内心は分からないが状況を理解しているのか空を飛んでいる間ずっと大人しくしていた。実際、彼女は武器と言える物を何一つ持っていないし、暴れたとしてもアーシャ様やチーアルに即座に取り押さえられただろう。
カルロの町の近くでカンナとアルムさんを降ろし、僕達は神域に向かう。僕も降りたいところだが、契約者の僕が一緒に行かなければ謎の道具の中に囚われたウィンディーネ様がどうなるか分からない。人間と契約した精霊は契約者と離れることが出来ないのだ。カンナとアルムさんの2人には僕の家族と神官長様への伝言を頼んである。神官長様に直接伝えることは無理でも、キルクール先生を通せば何とかなると思う。
神域に到着すると僕達はアーシャ様が自宅として使っているという洞窟の中に入った。聖なる山の神様にはアーシャ様から前もって念話で状況を連絡済みだ。洞窟と聞いて鍾乳洞の様な物を想像していたのだが、中に一歩入ると内装は普通の家と変らない。入ってすぐにホールの様な大きな部屋があり、ここから放射状に廊下が延びている。不思議なことに洞窟の中にも関わらず、ホールには窓もあり光に溢れている。
廊下のひとつを通り大きな机のある部屋に到着すると、アーシャ様は神器を机の上に置いた。
机の上に置かれた神器が空中に浮かび色々な方向にくるくる回る。聖なる山の神様が神器と呼ばれた道具について調べてくれているのだ。
<< 私にも内部が見えん。いや、部分的に見える箇所もあるな....これは時間が掛かるかもしれんな。力ずくで分解しようとすると中に取り込まれている者がどうなるか分からんから慎重にならざるを得ん。>>
「私はこっちの道具を調べてみるわ。製作者が同じなら原理も共通かもしれないわよ、何か手掛かりがつかめるかもしれないわ。こっちなら無理やり分解して何かあっても中には誰も閉じ込められていないしね。」
ジャニス皇女が一緒に持って来たお盆の様な円盤状の道具と、赤い光を発していた道具を指さしながら言う。
「ダメです! ご神器を分解するなんて許されません!」
少女がジャニス皇女に噛み付くが皇女は平気だ。流石皇女様だ、肝が座っている。
「嫌なら、あっちの魔道具に閉じ込められているレイスと精霊を開放する方法を言いなさい。そうすればこっちも手間が省けるのだけど。」
「そ、それは...、本当に知らないのです。私達はレイスを捕まえるだけで、その後は神様に神器をお返ししていただけですから....。」
「なら、こっちの道具は諦めるのね。大丈夫、出来る限り壊したりしないから。」
ジャニス皇女にそう言われて、少女はしばらく沈黙したのち決心した様に口を開いた。
「.....分かりました。そちらのご神器は分解しても構いません。でもこれだけはダメです。もう教団にはこれひとつしか残っていないのです。」
そう言ってウィンディーネ様が吸い込まれた神器を指さす。
「了解よ。私達だって仲間がその中に閉じ込められているからね。迂闊なことはしたくないわ。御子様、手伝ってくれる? 御子様の千里眼が役に立つかもしれない。」
「了解、それならこの子の監視はシロムさんにお願いするわね。」
「ぼ、僕ですか?」
「そうよ。大丈夫よ、預言者の杖があるしチーアルだっているのよ。」
そ、そうだ。僕は頼りにならないがチーアルなら何があっても対処可能だ。いざとなれば例の影で少女を捕らえてもらえば良い。
僕が承諾すると、アーシャ様とジャニス皇女がお盆型の道具と赤い光を発する道具を持って部屋を出て言った。ジャニス皇女の研究室とやらに向かうらしい。
一方の僕は部屋にある椅子のひとつに座った。少女も椅子に座ったまま動かない。
「あの、名前を教えてもらっても良いですか?」
沈黙に耐えかねて少女に話しかけてみたが、応えたのは更なる沈黙だった。だけどしばらくして少女が口を開いた。
「私は貴方を一生許しません。貴方は私を穢したのです。男に穢された女に巫女の資格はありません。貴方は私の夢を台無しにしたのです。」
「そ、そんな...。貴方を穢したりしてません。」
「恥知らずにも自覚がないのですね! 私は貴方に裸を見られた上に、押し倒されて胸を揉まれました。これ以上の屈辱はありません。決して許さない。」
「いや、あの、あれは....。」
だが、それ以上何を言っても少女は応えず、以後頑なに沈黙を通したのだった。
<< なあチーアルはあんな道具を見たことがあるか? >>
仕方なく、僕は背中にくっ付いているチーアルに念話で話しかけた。
<< 無いわね。でもウィンディーネ様ほどの精霊が吸い込まれるなんて異常よ。嫌な予感がするわ。>>
<< 縁起でもないことを言うなよ....。それにしてもカリトラス大神はレイスを捕まえて何をしようとしているのだろう。>>
<< それがねえ、ひとつ思い当たることはあるのだけれどシロムには話せないの。神と精霊のトップシークレットってやつよ。御免ね。>>
<< いやいや、いいです。知りたくないです。>>
そんなことを知ってしまったらどうなるか、まさか殺されることはないにしろ嫌な予感しかしない。2度とカルロの町に戻れなくなったら嫌だ。
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