6. 二葉亭に向かうアーシャ
(アーシャ視点)
少し時間が戻ります。
私は門の前の列に並んだ時に、おじさんが安くて美味しいと勧めてくれた食堂「二葉亭」を目指して歩いている。おじさんからは門から歩いてすぐと聞いていたのだけれど、曲がる道を間違えたのか行けども行けども食堂らしき建物は見つからない。
二葉亭を探がすのにキョロキョロとあちこちに目をやって前方不注意になっていた私は何度か人にぶつかってしまい、その度に「ごめんなさい。」と謝っていたのだけど、懲りもせず四辻でひとりの男の子とぶつかり、相手の男の子は、
「うわぁぁぁぁぁぁぁ~~~~!!!!!」
と悲鳴を上げて道に座り込んでしまった。前をよく見ていなかった私が悪い。私は謝ろうとして相手を見た。茶髪で髪と同じく茶色の目をした、ちょっと気弱そうな印象の男の子だ。だけどその男の子は私の顔を見るなり、「ヒッ」と叫んで、全速力で元来た方向に逃げる様に駆け出した。
余りのことに驚いたが、次の瞬間ひょっとして私って人を怖がらせる様な怖い顔をしているのだろうかと心配になった。なにせ、この町に来るまで
「御免なさいね。あいつはちょっと変わったところがあるけど悪い奴じゃないの。許してやってちょうだい。」
と女の子が話しかけて来た。あの男の子は変わり者なのか!? それなら逃げ出したのは私が怖い顔をしているからではないのかも....少なくともこの女の子は私を怖がっている様にはみえないし....。そう考えるとパニックになりかけの心に少し余裕が出来た。
気を取り直してその女の子に二葉亭の場所を訪ねると、なんと彼女の家の隣らしい。
「これから家に帰るところだから案内するわ。一緒にいきましょう。」
と言う。天の助けと喜んで彼女について行くことにした。
「あなたは旅人なの? ひょっとして遊牧民かな?」
「ええ、良く分かりましたね。この町の神殿にお参りに来たんです。」
「やっぱりそうか、神様にお供えする衣装と同じだものね。遊牧民の間でもこの国の神様が信仰されているとは知らなかったわ。ようこそカルロの町へ。あなたに神のご加護がありますように。」
女の子が嬉しそうに言った。
「ところで名前を聞いてもいいかしら? 私はカンナよ。」
「アーシャと言います。」
「アーシャちゃんね。アーシャちゃんは二葉亭のことを誰に聞いたのかな?」
ち、ちゃん!? これは絶対年下に見られている。背丈は...確かに私の方が少し低いけど...。
「町に入るときに一緒に列に並んでいたおじさんです。安くて美味しい店と聞きました。カンナさんの家のお隣なのですよね。良く行かれるのですか?」
「ちょくちょく行くのは確かね。実は二葉亭には友達が居るので小さい時から良く遊びに行っていたの。シロムって名前よ。さっきアーシャちゃんの前から逃げ出した男の子なんだけど、私に免じて許してやってね。それにしてもこんな可愛いアーシャちゃんを見て逃げ出すなんて何を考えているのやら.....えっ、ひょっとして!」
と言うなりカンナは顔を近づけて来る。思わず一歩下がりそうになるのをぐっと堪えた。どうやら私の服に施された刺繍を見ている様だ。
「間違いない.....このデザインはカルロ様一族のもの.....。アーシャちゃんはカルロ様と縁があるの?」
何のことだろう? カルロって誰だったっけ、何処かで聞いた様な気もするが思い出せない。ここは誤魔化すのが一番か...。
「良く分からないです。この服は母が作ってくれたもので....。」
「そうなの.....ええ、間違いないわ。神を称える祭りで私も着たことがあるの。この国の祖となられたカルロ様一族のデザインよ。遊牧民は一族ごとに刺繍のデザインが違うのでしょう? だからアーシャちゃんはカルロ様の子孫に違いないわ。カルロ様の3番目のお子様ジータ様が1箇所に定住するのを嫌って、家畜を連れてカルロ様の元を去られたと伝説にあるの。きっとアーシャちゃんはジータ様の子孫なのよ。そのアーシャちゃんが私達と同じ神を信仰しているなんて、ジータ様は遊牧民として定住を拒まれたけれど神への信仰まで捨てられたわけでは無いとの何よりの証拠だわ。これはすごい発見よ! 町中が大騒ぎになるわよ!」
カンナは興奮して一気に捲し立てる。町中が大騒ぎになる? それは不味いよ.....注目されたら動き難いし、正体がバレる可能性も高くなる。何か言い訳を考えないと...
「カンナさん、申し訳ないのですが私のことは秘密にしていただけないでしょうか。今回は神殿への初めての参拝です。心静かに神と対面したいのです。騒がれるのは困ります。」
真剣な顔を取り繕って言ってみる。嘘ついてごめんなさい.....本当は神様(
「まあ、私ったらアーシャちゃんの気持ちも考えずに御免なさい。そうよね、騒がれるのは嫌だよね...。分かったわ誰にも言わない。約束する。」
素直なカンナに良心が痛む。許してね...。
「あっ、でも今になって考えたら、シロムが逃げ出したのはアーシャちゃんの服に気付いたからじゃないかしら。逃げ出したと思ったけれど、本当は慌てて誰かに知らせに行ったのかも。私シロムを探して口止めして来る。急がないと誰かに話したら大変だよね。」
と言って、二葉亭が見える所まで私を案内してくれた後、急いでシロムさんを探しに行った。ありゃー、なんて良い子なのだろう。これは何かお礼をしないとな.....。
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