第七話 従妹同士だから、一緒に登校しても全然問題ないよね

 ヨシタカは、妹に、朝早くに起こされていた。

 今日は、日曜日の次の日だから、朝練もない。普段だとゆっくり起床して、遅刻ギリギリに登校するのが、セオリーとなっていた。

 唯一惰眠をむさぼれる貴重な日。


「登校イベントだよ」


 夢の世界から目覚めたヨシタカには、どうやらゲーム世界のイベントが待っていたようだ。食パンをくわえた少女とぶつかるシーンが脳裏を一瞬よぎるけど、おそらくそういうイベントではないだろう。

 布団を払いのけられたあと、カーテンが開く音。そして、日光という悪魔ーー。容赦ない起床ムーブに、ヨシタカは、重い体を持ち上げる。


「サナちゃんと、仲良く登校しよう」

 

 中高一貫校だから一緒に登校することは可能だ。少し駐輪場へと入る場所が違うが、ほんの数百メートルの差にすぎない。

 しかし、時計を見ると、時刻はまだ7時。


「なんで、こんな時間に」


 せめて、あと30分は寝かせておいて欲しかった。


「だって、サナちゃん、結構早めに出てるみたいだから」


「ごめん、登校イベントはパスだ」


「そんな選択肢ないから」

 

  選択肢のない強制発生型のイベントのようだった。約束もしてないし、家の前で待ち伏せでもするのか、と思いながら、朝の固まった体をほぐしていく。

 眠い目をこすりながら、妹と一緒にリビングへと降りた。さっさと食事をすませてしまい、制服へと袖を通した。その後、隣の家の前で、立ち尽くしていた。

 10分ほど待っているとーー。


「なに、やってんの。ヨシタカ」


 ミナの方が来た。高校のブレザーをきっちり着込み、家の前の不審者を白い目で、見つめていた。


「なに、人の家の前でーー、ピンポン押せばいいのに」


「それだと、サプライズがなくなる・・・・・・らしい」


「サナーー!家の前で変態のストーカーロリコンが待ってるけど」


 ミナが玄関の方に、そう叫ぶ。

 誰が、変態でストーカーでロリコンだっ、と憤るも、端からみると、そうともとられかねないことは分かっていた。

 少しすると、サナが、鞄を手にして、玄関から出てきた。


「ーーヨシタカくん」


「ヨシタカ、


 ミナは、言葉尻りをとらえる。目つきが、面白いものをみつけたように、にまにましている。


「ヨシタカ、バブみにでも目覚めたの」


「ん、バブみ?」


「年下の少女に、母性を求めて甘えたい願望。単純にいうと、赤ちゃんプレイとかしたいの」


「よーし、今から、くんは禁止だ」


 風評被害が、まさか、そこまで大きいものになるとは。昨日のデートの一番の変更点が一瞬で書き換わった。でも、たしかに、そういうバブみ的なシチュエーションを楽しんでいたような気もするから、たちが悪い。


「お従兄ちゃん?」


 サナは、禁止されてすぐに、そう言い直した。

 それは、それで、やっぱり、なにか疑惑が残りそうだ。


「あー、うん、わたし、ヨシタカがどんな性癖でも気にしないから。安心して」

 

 この姉妹はーー。やはり二対一は分が悪い。


「もう、普通に名前でよんでくれ」


「で、二人は一緒に登校するの」


「妹に無理矢理起こされたからな」


「そ、じゃあ、お邪魔なわたしは、先にいくから」


 ミナは、車庫の横においてある自分の自転車を取り出すと、さっさと一人で、行ってしまった。



†††


 

「朝早くないか」


「これぐらいの時間帯が一番バスが空いているから」


 空いている。

 そうはいっても、平日の七時台。座ることはできない。市内のバスは、いつも多くの利用客でにぎわっている。満員電車ならぬ満員バスだ。後ろに当たりに乗っていると、降りるのに一苦労する。地下鉄の方が混み具合がマシだろうけど、学校からは少し離れた駅になるから、うちの学生はバス通学が多い。一番多いのは自転車だが。


「自転車通学でよくないか」


「一年の頃から、ずっと、バスだったから。それに雨の日とかは、楽でいいよ」


「たしかに、雨の日は、バス使いたくなるな」


 普通に惰性で、カッパを着て自転車通学しているけど。


「そういえば、昨日のデートは、どうだった」


「面白かった。紅葉がキレイで、ライトアップ初めて見たから」


 ハルカ、どうやらおまえが正解かもしれない。紅葉に消されるカレシの印象。初デートは、一面に染まった紅葉の絨毯に敷かれてしまったようだ。


「サナは、どこか行きたいところとかあるか」


「どこでもいい」


「いや、どこでもって。サナは、何かしたいこととかないのか。壁ドンとかさ」


 一体、何を言っているんだろう。妹に変なことを言われたせいだ。


「壁ドンは、どこでもできる」


「うん、そうだな」


 だから、そんな無垢な眼で見つめないでくれ。


「・・・・・・学校で、してみたいとか」

 

 俺がやりたいことを推測してくれるのは、ありがたいけど、それは、完全に方向がズレている。そもそも、今は、サナがやりたいことを訊いているんだ。俺の無意識も、特に学校で恋愛イベントを起こしたいとは思っていないから。だって、従兄妹で恋愛関係という噂が広がったら、大変だろう。


「いやいや、サナは、何かしたいことないのか」


 ヨシタカは、もう一度聞き直す。今度は、妹の少女漫画脳を頭から追い出す。


「じゃあ、四人で出かけよう。昔みたいに」


「それって、妹とミナもあわせてってこと」


「うん。そうしたい」


 それは、デートなのか。

 でも、サナがそうしたいって言うなら、そうしよう。どのみち、今のところ、女子の気持ちなんて全然わからない。それなら、素直に、叶えてあげた方がいい。


 二条城をすぎて、しばらくすると学校前のバス亭についた。バスから降りると、校門を抜ける。いつもだったら、高校の駐輪場の近くの裏口から入るから、校門を通るのは久々な気がした。高校の校舎の方が、校門から奥に立地してあるから、中学校舎の前でサナと別れる。

 それにしても、四人で出かけるか。ヨシタカは、いつ以来だろうかと考えるが、最後に出かけた日は思い浮かばない。三人という時はあるけど、なかなか四人の予定が合わないから。それに、中学高校と年齢があがると、やっぱり異性と出かけること自体に抵抗が生まれるせいで、無理に四人で遊ぼうとはしなかったから。











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