男性滅亡系ハーレム展開の横で生活している大多数の人たちの病んだ日常
@bobolink
瑛と令
世界からXY染色体を持つヒューマンは居なくなったにもかかわらず世界は相変わらずうまく廻っている。
と、いうか。地球は観測される前から、うまくまわっている、んだよね。
そりゃそうだ、だいたいのことを女性は出来て、それにも関らず前の世界では、出来ないことにしたり、しないほうが世界はうまく廻っていたというだけのことだ。出来ないこともしなくちゃいけなくなったら、出来る方法を探し。やりたくないことだって、やる人ーー色んな事情でーーはいる。
大人たちは世界を廻さなくちゃいけない義務があり。
子ども達はよりよい大人にならなければいけない。
12月半ば、午後5時、冷たい空気が頬を刺す。街が、オレンジ色の夕焼けを背景に青黒く浮かびあがる。吐く息は白く、背負ったリュックは重たい。
だんだんと日が短くなる。もうすぐ冬至だ。ぱちぱちと瞬きをした。瑛あきらがあたしを見た。
「さみぃねぇ」
「さみぃ」
ふふ、と笑う。
「禍の前は、冬もスカートだったって、有間せんせい言ってたね」
「有間せんせがスカートはいてるとことか想像できんし」
「それ」
「ただいま」
「おかえりー」
のんびりした、おかあさんの声。
ぶわっと、暖かい空気が押し寄せる。いっしょに、油とナツメグの匂いも。
「今日もハンバーグなの?」
あたしが口に出した言葉に瑛が眉をしかめた。
「「も」なんていったら、めんどくさいじゃん」
「そうだよー」
よかった、おかあさんに聞こえてなかったみたい。ほっとしながら瑛のほうを見る。その目はたまたまじゃん、と言っていた。うるさいなぁ、もう。
「お母さんが小さい頃はもっと牛肉が安くてね……大豆ミートじゃいまいちだわ」
もう何百回と聞いた~、と言おうと思ったけど、ぐっとこらえた。
私は大豆ミートのハンバーグが美味しいと思うし、牛を殺してまで食べる程ビーフのハンバーグが美味しいと思えない。そう言ったこともあるけど、おかあさんは同じ話を何度も繰り返す。あたしの言葉、まるで聞こえてないみたい。
「もーおかあさんてばうざいー、同じ話ばっか」
瑛が帽子を取りながら言った。
「寒かったでしょ。早く風呂入りなー、沸いてるよ」
外に比べてむっとするくらい暖かいせいで肌が痒くなる。ほっぺをポリポリと掻く。
「おかあさん、保湿買っといてくれた?」
「……忘れた。まぁ今日はワセリンでいいじゃん」
「もー」
と、窓の外から、「あああああああああああ」という叫び声が聞こえた。
「あー、佐藤さんとこだね、ドレッシングどうする?」
お母さんがサラダを冷蔵庫から取り出しながら聞いた。
「毎日この時間帯だね、ニワトリみたい」
瑛はそう言ってにやっと笑った。
「家についてからでよかった~。外だとちょっと怖いもん」
あたしがそう言うとお母さんは嫌そうな顔をした。
「そんなこと言うもんじゃないの、だってあそこのおうちは……」
「はいはい、ごめんなさい、ドレッシングいらないから。お風呂はいるよ、もう」
瑛を追いかけてあたしも脱衣所に入る。
服を脱ぎながら、コソっと、瑛にささやく。
「瑛ちゃんが先にニワトリとか言うから」
「あんたがおかあさんの言うこと聞き過ぎ。あの人が世界のすべてって訳じゃないじゃん。もーうざいんだもん、毎日毎日さぁ、ハンバーグだって飽きるっしょ?」
ポンポンと飛び出す瑛の言葉に私は思わず言い返してしまう。
「瑛がハンバーグ食べるわけじゃないし、おかあさんが機嫌悪くなろーと知ったこっちゃないだけじゃん!」
瑛は無表情になる。あたしは言ってしまったことをもう後悔している。そして同時に身構える。これから瑛に言われること。お母さんと一緒で、彼・はいつも嫌みたらしく、何度でも言繰り返す、同じことを、自分の気がすむまで。
「てゆーか、私が何言ったっておかーさんに聞こえないこと、一番知ってんの、令ちゃんじゃん。私にどうしてほしいの?」
どうして欲しいの?
瑛。
私の半身。
あたしと一緒に生まれて、そして16年前に死んでしまった、あたしの、弟。
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