第8話

 王都が魔物に襲われていた時、バッカーノはビッチーナと二人でバカンスに出かけていた。

 

 帰って来てから臣下に聞かされたが『それがどうした?』だけで済ませたような気がする...


「俺は本当に最低だ...」


 安らかに眠る子供達の側で頭を抱えているバッカーノの姿を、リコウリッタは優しく見守っていた。



◇◇◇



「今日は郊外に視察に行きますよ!」


 その日もリコウリッタは元気一杯だった。


「視察!? どこに行くんだ!? そしてまたしてもドカジャンにニッカポッカなんだな...」


「行けば分かります! 今日は私も同じ格好なんだから文句言わない!」


 そう言って馬車に乗り込んだ。馬車が走り出して間もなく、リコウリッタが「そう言えば」と切り出した。


「ビッチーナに対する処分はどうするつもりです?」


「本当はさっさと始末したいところなんだが...さすがにこんな短期間で王妃を交代させる訳にもいくまい。仕方無しにこのまま死ぬまで幽閉するしかないと思ってる」


「まぁ妥当なところでしょうね。後は新しい王妃を迎えれば世継ぎも作れるでしょうし」


「えっ!?」


「どうしました? 鳩が豆鉄砲を食ったような顔して?」


「いやお前が...リコウリッタが産んでくれるものとばかり...」


「はっ!? 嫌ですよそんなの。そもそも私は愛しのダーリンを国に置いて来てるんですから」


「だ、ダーリン!? 他に好きな男が居るのか!? だったらなんで嫁いで来た!?」


「言ったじゃないですか? 教育係だって。陛下の教育が終わったと判断したら国に帰りますよ? いつまでもダーリンを待たせる訳にいかないので」


「そ、そんな...」


「陛下、もし血迷って私に手を出そうとしたら...」


 リコウリッタは指でチョキを作りながら、


「チョン切りますからね!」


 何を? とは怖くて聞けないバッカーノはコクコク頷くしかなかった。



◇◇◇



 馬車で約3時間走って辿り着いた場所は...かつては農地が広がっていただろうその土地には土砂が厚く積み上がっていた。未だ復興半ばなのか、農夫と思われる人達がもくもくと土砂の除去作業を続けていた。


「ここは豊かな小麦畑が広がっていた土地だったんです。それが先日の大雨により川が氾濫し、見ての通りこの有り様です。予算が無くて川の治水工事が出来なかったせいです。なぜ予算が無かったかはもうお分かりですよね?」


「...あぁ、良く分かってる。全て俺のせいだ...俺がビッチーナに言われるままに国庫の金を使い捲ったから...」


 バッカーノは項垂れながらそう呟いた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る