第2話

 リコウリッタが嫁いで来た日、バッカーノは嫌々ながらも出迎えた。


 本音を言えば出迎えなどしたくなかった。ビッチーナが泣いて嫌がったから。だがさすがに隣国の王女を無下に扱う訳にもいかない。たとえ友好の証として押し付けられた妻だとしても。


 なぜなら隣国はこの国よりも圧倒的に力が上だからだ。ビッチーナのせいで愚王になり下がったバッカーノではあったが、隣国の不興を買う訳にはいかない。それくらいの頭は回っていた。


 やがてやって来たリコウリッタは、バッカーノの目の前でスカートの裾を摘まみ、見事なカーテシーを披露...しなかった。その代わりにスカートの裾から取り出したハリセンで、


「こんの愚か者がぁ~!」


 パシーンッ!


 見事な一撃をバッカーノにお見舞いしたのだった。いきなりハリセンで殴られたバッカーノは唖然として呟いた。


「なっ!? い、一体なにを...」


「なにをじゃないわぁ! こんのバカタレがぁ~!」


 そんなバッカーノを無視してリコウリッタはハリセンを連打する。


「ヽ(ヽ゜ロ゜)ヒイィィィ! や、止めっ! 止めてぇ~!」


「やかましいわぁ! こんのボケナスがぁ~!」


 リコウリッタのハリセン攻撃は止まらない。やがて殴り疲れたのか、リコウリッタは肩で息をしながら、


「ハァハァ...今日はこの辺で勘弁してやらぁ...」


「ううぅ...」


 ハリセンの嵐が過ぎ去った後、バッカーノは床に踞っていた。


「おら、なにしてやがる! さっさと毒婦の所に案内しねぇか!」


 リコウリッタはバッカーノを足蹴にしながらそう言った。


「ど、毒婦って!?」


「ビッチーナとかいう腐れビッチのことに決まってんだろうがぁ!」


「ヽ(ヽ゜ロ゜)ヒイィィィ! あ、案内します! 案内します!」



◇◇◇



 ドバーンッ!


 ビッチーナの部屋のドアを蹴破る勢いで開けたリコウリッタは、ビッチーナと初めて対面した。


「キヤァァァッ! な、なんなの一体!? な、なにが起こったの!? だ、誰よあんた!?」 


「やかましいわぁ! 口を開くんじゃねぇ!」


「へぶしっ!」


 問答無用とばかりにリコウリッタのハリセンが一閃して、ビッチーナの顔にクリーンひっとした。バッカーノは止める間も無かった。その場に倒れ込んだビッチーナに馬乗りになったリコウリッタは、


「思った通りだ! これだな!」


 そう言ってビッチーナの胸元からペンダントを剥ぎ取った。


「ぬなっ!? なにすんのよ!? 返しなさい! それはアタシのよ!」


 ビッチーナが慌てた。


「うるさいわぁ! こんなもんこうしてやらぁ!」


 リコウリッタはペンダントを足で踏み付けた。


 パリーンッ!


「あぁっ! なんてことすんのよ!」


 その瞬間、バッカーノは頭の中に掛かっていた靄が晴れたように感じた。

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