第8話:事情説明

 国王と王太子がわざわざ学生達の部屋に来て事情を説明している。

 この国のナンバーワンとナンバーツーが、危険を顧みず同席している。

 普通は敵の襲撃を恐れて王と王太子が同席する事はない。

 少なくとも俺が皇室や戦国武将を調べた時にはそうなっていた。

 これも不手際な召喚した勇者達に対する精一杯の誠意なのだろう。


「何度も同じ事を説明して申し訳ないが、本当に困っているのだ。

 聖女である妃が存命の時は瘴気を払うことができた。

 瘴気から生まれる魔物を斃す事もできた。

 だが聖女の妃が死んでしまい、次代の聖女も見つけられない。

 聖女を召喚する方法も手掛かりすらつかめない。

 唯一できる事が勇者召喚だったのだ。

 その勇者召喚も、勇者の才能がある者に承諾をもらってから来ていただく方法だと、全ての伝承で書かれていたのだ」


 国王直々に何度も説明してくれている。

 でも人間不信で猜疑心が強くなっている俺には信じることができない。

 だけど、見ず知らずの俺を、何の見返りもないのに、100人の反社を相手にしても、命懸けで助けてくれようとすうるような学生達だ。

 頭から疑ったり拒否したりはしない。

 俺の事情を真田君に説明してもらい、国王にカーテンの影に隠れて話を聞く許可をもらったが、学生達が騙されてしまわないかハラハラドキドキしてしまう。


「事情は説明していただきましたから、僕達にも分かりました。

 ですから何があっても手助けしないとは言いません。

 ですが無理矢理召喚した事に対する保証はしていただきたい。

 元の世界に戻すと、国王陛下が1番大切しているモノに誓ってもらいます。

 王太子殿下と王孫殿下にも同じように誓ってもらいます」


「分かった、誓おう」

「俺も誓う。

 妃や子供達にも誓わす。

 それで勇者殿達は力を貸してくれるのか?」


「まだです。

 それだけでは完全に信用できません。

 城下町で民に生の声を聞かせてもらいます。

 国王陛下が本当に民のための政治を行っていたら、いい評判が聞けるでしょう。

 ですが民を虐げるような政治をしていたら、悪評が耳に入ります。

 その結果次第で手助けするかしないかを決めさせてもらいます」


 国王と王太子の表情が明らかに安堵している。

 よほど自分達の政治に自信があるようだ。

 学生達も慎重だが、まだまだ甘い。

 元々の住民には富をばらまき権利を与え、征服した土地の民を虐げ搾取するような政治をする王家や国も、歴史上には数多くあったのを知らないようだ。


「よかろう、好きなだけ聞いてくれればいい」


「それと、さっきも言いましたが、我々を元の世界に戻す研究を続けてもらう」


 学生達からすれば当然に要求だな。

 英雄の力と不老不死を手に入れた俺は、この世界に残りたい。

 サクラと一緒に他の人間と係わる事なく仲良く暮らしたい。

 元の世界、日本になど何の未練もない。

 腹立たしい事があるとすれば、わずかとはいえまた貯金を母と弟に奪われる事だ。

 ここから全て消し去ることができればいいのだが、いくら何でも無理だな。


「それと、猫屋敷さんの事で要求がある。

 猫屋敷さんは召喚の影響で心を病まれてしまった。

 戦うことなく静かな環境で暮らせるようにしてもらいたい。

 人が多く礼儀作法に厳しい王宮ではなく、安全な地方に領地を与えて欲しい。

 それが猫屋敷を病に追い込んだ責任を取る事だと思うが、違いますか?」


「いや、勇者殿の言われる通りだと思う。

 魔物の被害が少ない安全な田舎となると、とても限られる。

 温暖で過ごしやすい地方は魔物が多く表れるのだ。

 北方の寒い地方になってしまうのだが、それでもいいだろうか」


 国王が真田君に説明しながら俺の方に視線を向けてきた。

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