第10話 正月スクワール

 カバンから1通のハガキを出して日付を確認する。間違っていない。



 6年生になる年の1月。その年の正月は最高の出だしだった。理由は1枚の年賀状にあった。

 彼女から送られてきた年賀状に『好きです』と一言書いていたからだ。

 お世辞にもきれいな字ではなかったが、そんなのは些細な事だった。彼女が俺と同じ気持ちである事が嬉しくてしょうがなかったのだ。

 それを見た瞬間、親や兄弟にバレないように年賀状を隠す。

 しかしそれが失敗だった。年賀状をどこに隠したのかわからなくなってしまったのだ。

 すると、日を追う毎に自分が見たものが、見間違いなのではないかと言う気持ちになってきた。

 好きと言う気持ちが強すぎて、幻覚を見たのでは無いかと疑心暗鬼になったのだ。

クラスには彼女と同じ苗字の女子がもう一人いた。

 だから、俺は彼女ではなく、大して仲も良くないもうもう一人の方に「あけましておめでとう。今年もよろしくお願いします。」とだけ書いた年賀状を送りかえした。

 数日後、年賀状の返信が来た時はなんとも言えない気持ちになった。

 冬休みが終わり、最初の登校日。彼女からの最初の言葉は「年賀状とどいた?」であった。


 小学校最後の1年、彼女との距離は付かず離れず。

 1年生と合同の遠足で同じ班になったり、一緒に帰ったり。いくらでも挽回する機会はあったと思う。

 しかし、それを活かす事は一切なかった。


そ の時の俺は、彼女に対して湧き上る自分の思いを、どう受け止めれば良いのか知らなかった。

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