この世界は割と崩壊してる
畑男
プロローグ
蝉は騒々しく鳴いている。コンクリートで被せられていることを無視するかのように雑草が地面を侵食していた。夏の日差しは眩しいが、クーラーも扇風機も必要なほどではない。
だが。
「アイス食いてぇぇぇ」
フジマキはぼやいた。
言ってもどうにもならない事は百も承知だ。アイスなんて頑張ったら作れそうなのにそれが出来ないのが余計にもどかしかった。
涼しくなったとはいえ、暑いから夏なのだ。
人類が地球上からほとんどいなくなって3年が経った。人類の存在は地球にとってよほど毒だったのか、世界は急速に緑で染め直されてる。その反面、生き残った人類はまだどろどろと血で血を洗う戦いに身を投じ数は減る一方だった。
フジマキは親の仕事の都合で東京の学校に通っていた。”消失”のあと運良く生き残ったはいいが東京は集まるよそ者たちにより生存競争が起き、まさに蠱毒の壺のような状態になってしまった。
ただ生きることは出来ない。戦わなければ明日はなかった。フジマキの所属していたコミュニティは日を追うごとに過激になっていき、耐えられなくなったフジマキは逃げた。
どのコミュニティでも逃亡者に課せられる罰は筆舌に尽くしがたかった。それは罰と言うよりも拷問だった。だがフジマキ自身がコミュニティの古株だったのと、全幅の信頼を寄せられていたのもあって抜け出すのは至難ではあったが不可能ではなかった。
追っ手は不思議と来なかった。リーダーはどこか自分に甘かった節があるのでだんだん逃げていくうちに許されたのではないかと思うようになっていった。
線路際にそって20近くの夜を過ごし、長い旅路の末にフジマキは新たに居着く場所を決めた。掛川町という町だ。地図によればxx県の北に位置するらしく、見た感じは都会と田舎の狭間だ。シャッター商店街と老人の多そうな町を彷彿とさせる。
掛川駅。その看板を見てようやく足を止めることが出来た。休もうかと考えたが何が起きるかわからない。フジマキは疲れた体に鞭を打ってもう少し歩を進めることにした。
もちろん地図だけだと全然情報が足りないので駅を散策して情報を収集しようとする。周辺の店でも見ようかと駅の吹き抜けを出ようとしたところで看板らしきものがたっているのが見えた。看板らしきものはツタに絡まれ、ガラスは汚れていてほとんど見えない。
「まずはこれをどうにかしないとな」
駅前に置いてあるその町内マップらしき看板を人差し指でなぞる。指はすすに触れたかのごとく真っ黒になっていた。指を服の裾で拭き、町内マップらしき看板を近くのコンビニからとってきた新聞紙でゴシゴシ拭いていく。
徐々に姿をあらわにしていく掛川町の案内マップを見ながら、フジマキは頭の中で今後の予定を組み立て始めた。
衣食住。この3つは絶対だ。学生の頃は特に衣に関して特に必要ないだなんて思っていたが、体温調整に絶対必要である。生きるか死ぬかの世界で体調を悪くするということはすべてのパフォーマンスにデバフがかかるのだ。
衣服は服屋で調達。食料は山で調達し、住居は山の麓とかで探す。家とかあるだろう。
市民会館、小学校はどうだという意見があるかもしれないが住みやすい場所には先住民がいる可能性が高い。基本コミュニティというものは閉鎖的だし、入ったら入ったらでネチネチいじめられるものだ、と思う。初めのコミュニティから一回も変わらなかったが、他のコミュニティはそんな感じだった。
さらにこれも全くの偏見だが、田舎へ行けば行くほど閉鎖的になる。初めの頃に食糧を分けてもらえなかったことを引きずっているわけでは全くない。ないったらない。
とりあえず最終目的地は山。掛川町の案内マップの一番上で蝶々に手足が生えたキャラクターが手を振っている場所だ。元はハイキングコースだったのかもしれない。
「それにしても遠いな」
駅前のここから町の奥に見える山はかなり小さく見えた。普段はバスでも運行して山へも行っていたのだろうが、駅前のバス停にあるプラスチックのベンチはすっかり緑に覆われていた。
山の麓には建物もあるだろうし、水も確保できる。山に行けば食料があるというのは安易な考え方だが、間違っていないはずだ。
山へ行く前にまず服屋から服をいくつか調達して、本屋にで野草図鑑を買おう。
このとき何もかもを捨てて心機一転したフジマキの気分はすがすがしいものだったが、自ら泥沼の渦中に飛び込んでいるとは知りもしなかったのだった。
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